#120 借地借家法(難しいことは僕もよくわかりません!)-⑥

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日は,借地権・借家権を,土地・建物の新しい所有者に主張する(=貸主が土地・建物を売却したとしても立ち退かなくてもいいようにする)ためには,対抗要件が必要となることを前提に,借地借家法では,その「対抗要件」を,民法で要求されている「登記」から修正している,ということをお話しました。

民法では,借地権・借家権の対抗要件は「登記」とされていますが,借地借家法によって修正された結果,借地権の対抗要件は,その土地の上に借主が建物を所有し,その建物を登記することで,借家権の対抗要件は,「引渡し」=「鍵の受け取り」となっている,ということを説明しました。

借地借家法が適用される借地権は,建物所有目的に限られるので,土地を借りた当初の目的のとおり,その土地の上に建物を所有して登記すれば,それがそのまま借地権の対抗要件になるため,わざわざ,対抗要件を備えるために別の手続きが必要になることもなく,民法の要求する「借地権の登記」という対抗要件と比べると,借主にとって非常に簡単になっています。

借家権についても,建物を借りるために借家契約(建物賃貸借契約)を結んでいるわけですから,当然ながら建物を使う前に鍵は受け取るわけで,それがそのまま対抗要件になるという借地借家法の規定は,借家権の登記を要求する民法に比べてとても簡単なのは,理解しやすいと思います。

で,この「民法に比べて簡単」「借主にとって簡単になった」というのは,もう少し意味があるんですね。どういうことかというと,民法で対抗要件として要求されている「借地権の登記」や「借家権の登記」って,簡単じゃないからです。

(ググってもらうとわかりますが,正確には,「賃借権設定登記」という名前です。これは2点説明が必要で,まずは「設定」という用語の使い方です。そもそも,「借地契約を結ぶ」「借家契約を結ぶ」と借地権・借家権が発生しますよね?だから,「借地契約によって借地権が設定された」とか「建物賃貸借契約によって借家権が設定された」という言い回しをよく使います。また,「借地契約」じゃなくて「借地権設定契約」という題名になっている契約もあります。こういう風に,借地権や借家権は契約によって「設定する」ものなんです。次は「賃借権」ですが,そもそも,「借地権」は「土地賃借権」の略語(というか俗語?)です。で,「借家権」も「建物賃借権」の略語(俗語?)です。どちらも,「賃借権」なんですね。だから,正確には「賃借権」と表示すべきで,不動産登記上,「借地権の登記」や「借家権の登記」をする場合,「賃借権設定登記」という名前で登記されます。)

ちょっと話を戻します。「借主にとって簡単になった」の意味ですね。

そもそも,借地借家法の恩恵を受けずに,民法の要求する「登記」という対抗要件を備えてもいいわけです。むしろ,借地借家法が適用されない借地契約(借りた土地を平場の駐車場にするなど)の場合は,民法の原則通り,登記しない限り対抗要件を備えたことにならない=土地を売られたら立ち退かなきゃいけません。でも,さっきもちょっと書きましたが,この「登記」(賃借権設定登記)が,なかなか難しい。というか,賃借権設定登記をするためには,その土地所有者(貸主)の実印が必要です。自分の土地に「賃借権設定登記」という負担を明示させるわけですから,土地所有者の承諾が必要なのは当然で,その「承諾」のために実印(他に実印かどうかを確認するための印鑑登録証明書)が必要になってきます。

これを,土地所有者(地主さん)は嫌がるんです。賃借権設定登記は,いわば「キズ」に見えちゃうんです。見かけが悪くなっちゃう。また,不動産登記の見かけが悪いだけじゃなく,実際に土地の価値が下がりますからね。

建物の場合もそうです。借地借家法がなかったら,立ち退きを避けるために,家を借りたら必ず賃借権設定登記が必要になるんですが,これを大家さんが嫌がってしまうんですね。

嫌がったらどうしようもないかというと,一応手段はあります。訴訟提起です。

訴訟を起こして,判決をもらい,それが確定すれば,その判決書と確定証明書が,地主さん・大家さんの実印代わりになります。ただ,わざわざ裁判までやりたくないですよね?

こういう,地主さん・大家さんが嫌がって実印を押してくれず,なかなか対抗要件を備えられないというリスクを,借地借家法で回避できているんですね。これが「借主にとって簡単になった」という意味に付け加えたいところです。それと同時に,地主さん・大家さんが嫌がる(「キズ」に見えてしまう)賃借権設定登記も回避できるところにもウマミがあるんですね。

で,もう少し話を進めると,「対抗要件」の機能みたいな話になってくるのですが,このブログでは,「対抗要件」というのは,「それを備えていないと権利を主張できない」という文脈でずっと説明してきましたよね。

「土地や建物の所有権は,対抗要件を備えないと,せっかくお金を払って手に入れても他の人に主張できない」

「借地権・借家権も,対抗要件を備えないと,土地・建物を売られたら,新しい所有者に主張できない=立ち退きを余儀なくされてしまう」

こういう風にずっと話してきました。

じゃあ,どうして対抗要件を備えていたら,権利を主張できるんでしょうか?

つまり,

「不動産の所有権は,自分の名義にしていたら他の人にも主張できる」のはなぜか?

「借地権は,その土地上に登記された建物を所有していれば新しい土地所有者にも主張できる」のはなぜか?

「借家権は,引渡し(鍵の受け取り)があれば,新しい建物所有者にも主張できる」のはなぜか?

ちょっと今日は時間がきましたので,ここまでにしますが,考えていただきたいのは,このブログでもお伝えした「悪くない2人をどう調整するか」という観点です。

既にちょっとお話していることではありますが,所有権の「二重譲渡」の例では,どう考えても,一番悪いのは二重譲渡したやつです。2回売っているやつが一番悪いに決まっています。でも,いくら悪い悪いと糾弾したところで,2回売ってお金を払った事実は変わらないんです。過去の事実は変えられない。じゃあ,悪いやつにお金を払ってしまった悪くない2人を,どう調整するか,という問題がどうしても出てくるのです。だって,土地は1つしかないから。どちらに土地を取得させるかを,法律は決めなきゃいけない。

借地権・借家権の場合もそうです。悪いのは,借地権・借家権を隠して売却した,元々の所有者です。とはいえ,借地権・借家権を隠されて購入し,お金を払ってしまった事実は変えられません。そのため,この場合も,新しい所有者と借主という悪くない2人をどう調整するか,という問題が出てきて,法律はこの問題を解決しなきゃいけない。

この悪くない2人を調整する役割を担っているの「対抗要件」なんですが,じゃあ,どうして「対抗要件」を備えていれば,悪くない2人の中でも「勝つ」ことができるのか。逆からいえば,対抗要件を備えた方は,もう一方が悪くないにもかかわらず,そのもう一方の人を「負かす」ことができるのか。

明日はここから始めたいと思います。

それではまた明日


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