#118 借地借家法(難しいことは僕もよくわかりません!)-④

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日は,借地契約(土地賃貸借契約)は「借地権」という権利を発生させ,借家契約(建物賃貸借契約)は「借家権」という権利を発生させることを説明しました。「借地権」「借家権」の字面は難しそうですが,「借地権」は「借地契約で定めた使用目的に従って土地を自由に使えること」で,「借家権」は「借家契約(建物賃貸借契約)で定めた使用目的に従って家を自由に使えること」を意味します。だから,内容をよく知れば,そんなに難しくありません。

借地契約(土地賃貸借契約)や借家契約(建物賃貸借契約)を結んだら,当たり前にそうなることを一応「借地権」と「借家権」と名付けているんです。

ただ,昨日も説明したように,権利と対抗要件はセットなので,所有権にも対抗要件があったように,借地権と借家権にも対抗要件があります。

おさらいですが,「対抗要件」というのは,不動産(土地と建物)の所有権でいえば「登記名義」でしたね。対抗要件=登記名義を備えないと,せっかくお金を払って所有権を取得しても,他の人に所有権を主張できなくなることも説明しました。

じゃあ,借地権と借家権の場合,対抗要件は必要になるのか?というところで,昨日は終わっていました。

当たり前ですが,借地権と借地権は,借主が持っている権利です。土地や家を自由に使える権利ですから,当然,土地や家を借りている側=借主に,借地権や借家権が発生しています。

昨日は,借地契約や借家契約を結んだ貸主=土地所有者・建物所有者に対しては,対抗要件を備えなくても,借地権・借家権を主張できることを説明しました。自分で貸しておきながら後で借地権・借家権を否定するなんて,そりゃできませんよね(笑)

ここからが今日の話ですが,土地や建物の貸主=土地所有者・建物所有者が,貸している土地や建物を売ってしまった場合に,借地権・借家権を,土地や建物の買主に主張できるか,というのが,借地権・借家権の対抗要件の問題です。

また当たり前のことから話しますが,借地権・借家権というのは,借地契約(土地賃貸借契約)・借家契約(建物賃貸借契約)という,契約を結んだからこそ発生しています。契約を結んだからこそ,借主は借地権・借家権を取得することができたわけです。で,契約って,貸主と借主の2人しか知りませんよね?当たり前ですが,契約の内容を知っているのは,契約をした人だけです。契約をしていない人は,契約の内容を知っているはずがありません。

とすると,土地や建物を買った人は,借地契約・借家契約の内容は知りません。だって,自分で契約していないから。

ああ,もちろん,借地契約・借家契約を結んだ貸主が,売却に先立って借地権・借家権があることを教えることはありますよ(というか,教えるのが普通です。なぜなら,借地権・借家権がああるということは,借主がその土地や建物を自由に使えるわけで,それはつまり逆から言えば貸主は土地や建物を使えないわけなので,そういった利用制限を理由に売買価格を下げるからです。自由に使えない(これを「借地権・借家権負担がある」なんて言ったりもします)のだから,その分は売買価格に反映しようということです。)。

でも,貸主が必ず教えるかどうかはわかりません。別に借地契約・借家契約を教えなくても売れます。というか,むしろ,↑に書いたとおり,借地権・借家権があると,売却価格が下がるので,借地契約・借家契約を教えずに,借地権・借家権負担による減額のない価格で売ろうとする貸主もいるかもしれませんね。そのほうが,より高く売れるからです。

ああ,もちろん,貸主が,借地権・借家権負担のない価格で売却しようと,わざと借地契約・借家契約の存在をを隠したとか,そういった事情があれば,貸主は詐欺罪に問われるでしょうし,借地権・借家権負担分の差額は損害賠償として請求できるでしょう。

今問題としているのは,その話とは別なんです。

仮に,売ろうとする貸主が借地契約・借家契約の存在を買主に教えなかったら,確かにその貸主が悪いんだけれども,じゃあ,借主の借地権・借家権は,買主にも主張できるの?ということを問題にしています。

要は,何も悪いことしていない借主と新しい所有者を,どうやって調整するか,というのが対抗要件の問題なんですね。

で,土地や建物を買った人は,土地や建物を売った人=貸主とは違って,自分で借地契約・借家契約を結んだわけじゃありません。だから,貸主の場合に対抗要件を不要とした理屈,つまり,「自分で契約したんだから自分で借地権・借家権否定できるわけないでしょ」という理屈が使えません。そのため,借主は,新しい所有者に借地権・借家権を主張するには,対抗要件が必要になってしまいます。

つまり,借主は,新しく土地や建物の所有者になった人に対して,前の所有者との間で結んだ借地契約・借家契約に基づく借地権・借家権を主張するためには,対抗要件が必要ということになります。これ,逆から言うと,対抗要件がないなら,借地権・借家権を新しい所有者に主張できないということになります。

この「借地権・借家権が主張できない」という状態は,めちゃくちゃ大変なことです。なぜなら,借地権の場合であれば,「借地権が主張できない」=「土地を使えない」なので,土地の上に建てた建物を壊して更地にしなきゃいけなくなります。借家権の場合であれば,「借家権が主張できない」=「建物使えない」なので,建物から立ち退かなくてはなりません。

こう考えると,借地権・借家権の対抗要件って,貸主が土地や建物を売った場合に,なお土地や建物を使い続けられるか(立ち退かなくていいか)を決定づけるものなので,とっても大事なんですね。

売却に先立って借地契約・借家契約の存在を貸主が教えてくれいれば,買主はそれを了承して購入しているわけですから,立ち退くことにはならないでしょうが,世の中,そんな優しい貸主ばかりじゃありません。別に借地契約・借家契約の存在を教えなくても,土地や建物を売ることはできてしまうわけで,そうすると,教えない貸主も出てきてしまう。そういった,悪い人がいた場合であっても,後始末をどうするかを考えなくちゃならないのが,法律の世界なんです。

じゃあ,借地権・借家権の対抗要件とは,いったい何なのか。

民法には「登記」と書いてあります。つまり,借地権や借家権の存在を,不動産登記として書いてもらわなきゃ対抗要件にならない,と書いてあるんです。

ちょっとよくわかりませんね。

ちょっとおさらいですが,「不動産登記」とググってもらうと,不動産登記の画像が出てきます。それを見ると,表題部と権利部(甲区)と権利部(乙区)の3つの欄に分かれています。で,借地権や借家権の「登記」というのは,このうち権利部(乙区)の欄に,借地権・借家権の存在を記入してもらうということになります。

「不動産登記 賃借権設定登記」なんてググると,どういう登記なのか,画像が出てきます。

これって,どういうことかというと,

繰り返しになりますが,対抗要件がないと,土地や建物を売られてしまった場合に,新しい所有者に対して借地権・借家権を主張できない=立ち退きを余儀なくされる,ということです。

だから,土地や建物を借りる場合に,対抗要件は必須です。貸主がいつ土地や建物を売るかなんて,借主には全然わかりませんからね。売られたら最後,立ち退かなきゃいけないなら,そんなの怖すぎます(笑)。土地を借りたら家を建てているだろうし,建物(アパートなど)を借りたら,中には家財道具をいろいろと置いているはずです。にもかかわらず,貸主が土地を売ったら,建てた家は壊さなくちゃいけない,建物を売ったら中の家財道具は全部出さなきゃいけない,こんなの,借りた意味がありません。

このように,土地や建物を借りる場合は対抗要件は必須なんですが,その対抗要件というのが「登記」であると民法には書いてある。

「登記」をするには,自分でもできますが,普通は,司法書士に依頼して法務局に申請してもらいます。そうすると,当然ですが,司法書士の費用がかかりますし,それだけじゃなくて,登録免許税を法務局に支払う必要もあります。

こういった登記手続をしないと,借地権・借家権の対抗要件は備えさせないぞ!

と民法は私たちに語ってくれています。

ちょっと待てよ?と思う方もいると思います。

「おれ借家権の登記してない・・・俺の住んでいるアパートが誰かに売られたら立ち退かなきゃいけないのか?」と不安になってしまった人がいるんじゃないでしょうか。

そうです。この民法に注目すると,土地や建物を借りる場合は,登記が必須です。つまり,どんな小さなアパートの1室であっても,その借家権を登記していないと,アパートが売られたら最後,対抗要件を備えていないことを理由に,立ち退きを余儀なくされてしまいます。

「じゃあ,明日にでも司法書士に依頼せねば!」

と,慌てなくても大丈夫です。誰も,アパートの借家権の登記なんかしていません(笑)。それだけじゃなく,借地権の登記もしなくていいんです。

「対抗要件を備えるには登記が必要」と民法には書いてあるんですが,これを修正しているのが,実は借地借家法なんです。借地借家法のおかげで,借地権・借家権を登記せずとも,対抗要件を備えたことになっています。

今日は時間がきましたので,ここまでにします。

それではまた明日


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