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ドラマチックに始まり、続いていく-20th Anniversary (This Is The) Base Ball Bear part.3-

会場に入るとステージにそびえるのは、3本の軸で立つ照明で組まれた電波塔。ありそうでなかった、でも他にないモチーフを背にした、壮大なステージだった。

一曲目に演奏されたのは「17才」。敢えて言えば特別な演出もなく、さわやかなギターで開幕していく。観客のハンドクラップが印象的なこの曲で始まったのは、このコロナ禍ではある種のあいさつとして最上のものだし、加えて現在において3人での再録ver.が収録されている曲の一つでもある。もちろん彼らの結成が17歳だったこともあるので、この上ない選曲だったのではないだろうか。続くのは「DIARY KEY」と「LOVE MATHMATICS」。バンドとしてビート感をより活かしてきたこの数年を思わせる、さながらフェスのような展開で一気に加速していく。

MCを挟んで「僕らのメジャーデビュー曲」な「GIRL FRIEND」。かつてであれば、この曲も観客からのコールが加わる一曲だった。それでもぴったり揃う腕とコーラスを見ていると、その時と気持ちに差がないことが分かる。
3人スタイルで初披露となった、ムーディーな「LOVE LETTER FROM HEART BEAT」。イントロのメインリフを中心に、関根さんや堀之内さんの「ニャー!」などお馴染みのポイントを押さえつつ、より衝動性ともどかしさをギターで演出されていたように思う。
続くのは緑の照明が鮮やかに照らす「short hair」、そしてアウトロのギターソロが絶品だった「初恋」。Base Ball Bearがこれまでに描いてきた僕と君のストーリー、その機微を歌った楽曲たちのブロックだった。

ここのMCでは「武道館は非常に体感時間がシビアでして」と前置きしつつも、メンバーそれぞれに今日のステージに気持ちとして舞い上がっていることを吐露していった。ここも過去2回と大きく異なる部分だと感じる。その恥ずかしさ、緊張をぶっ飛ばすために大きな演出を入れたり、ゲストを迎えた楽曲を行ったりしていた部分があったように思うからだ。

そんな切実な心模様を表したあとに「ポラリス」。3人それぞれにマイクと演奏を渡し合うこの曲は、最後に「また掴みたいな 君のハート」と歌でなければキザな一節で終わるもの。それも、先のMCがあるとある種真剣なメッセージですらあるように思えてくる…きませんか?(笑)そのくらい温かな時間と感じられた。
このブロックでは他に、3人では初披露であった「ホワイトワイライト」、アルバムDIARY KEYの根幹を担う「海へ」、彼らの代表曲としても、テーマとしても大きな「changes」と続いていく。それぞれの楽曲で過去→現在→未来と、視座を表すこの三曲でまた、Base Ball Bearでは欠かせない要素になる「時間」を端的に感じさせられた。

本編最後のMCに。
「皆さんが4人であったころを好きなことは否定しないです。でも、3人として頑張ってきたこの数年を経て、僕らが20周年を迎えているのだと。その努力も感じてほしい」という宣言から「海になりたい part.3」へ。

https://youtube.com/watch?v=djt_rZr7vP0&feature=share

ギターの瑞々しさに太くしなやかなリズム隊、音楽と気になるあの子に全力な青さを唄ったこの曲は、最新の楽曲にして、Base Ball Bearの原点も同時に鳴らしていた。
ここからは先の宣言の通り、4人時代と引けを取らない、どころか楽曲よりも数段ポップでソリッドに洗練されたブロックになる。「すべては君のせいで」、「「それって、for誰?」part.1」、「十字架 YOU and I」、「The Cut」、「Stairway Generation」と披露した。
楽曲ではそれぞれに打ち込み、客演、2015年までに磨き続けてきたツインギターの魅せ方などが詰まった曲ばかり。そんな楽曲ひとつひとつをこの数年で再構成し、足りない部分を各自が埋め合わせた。小出さんのラップとして昇華し直した「The Cut」や堀之内さんの派手なドラミングとタイム感を見せつけた「十字架 YOU and I」、関根さんが先頭に立ち、低音でさらに会場を引っ張り上げる「Stairway Generation」はそれぞれのハイライトシーンだった。

そしてギターのイントロで始まる「ドラマチック」で本編を終える。ドラムとベースが加わったところでレインボーに彩られたテープが舞った。

書いている私にとって出会いの一曲であるこの曲。2017年に行われた「光源」ツアーの時には「こういうタイミングで演奏する曲なんだと分かりましたね」と言っていた。タイアップもあり、スマッシュヒットのきっかけになった。さらにはSOLなど、当時の若い世代との架け橋にもなったほどだが、しばらく演奏されない時期があった一曲。
そんな曲で終えるということは、誤解を恐れずに言えばBase Ball Bearなりの最大公約数としてのファンへの感謝でもあり、かつ彼らが現在のモードとして、キッズな気持ちでの瑞々しさを地で感じているからこそでもある。さらに言えば、一度目の武道館では一曲目に奏でられたこの曲で本編を締めることで、ひとつのタームを閉じることにもなる。それらのことを一挙に感じて涙が止まらなくなった。
この曲の歌詞では「ありがとう、しか浮かばないフラッシュ・バック」と歌う。先に書いた「ポラリス」のように、メッセージとしても歌ったのだと感じた。特に湯浅さんが脱退した時から、感謝を繰り返し口にしてきたBase Ball Bearの記憶がまさにフラッシュ・バックした。それが言葉でなく、曲として届けられたことにもまた激しく泣いてしまい…目の前を見るのが必死だった。それでも、3人verとして磨かれ続けた一曲のギターソロは格別な時間だった。

放心状態でアンコールの手拍子をしていたところ、静かに始まったのが「風来」。これは彼らにとっての旅、ツアー先での思いを言葉にした一曲。新型コロナウイルスの影響でまだ十全な機能を果たせていないこの曲はまさに今後への意思表示。これから先も、バンドを続けていくという意思表示だった。

アンコールのMCでは、小出さん自ら武道館のランオーバーが決定したと苦笑しつつ、伸びてしまった時間も使って、堀之内さんを熱く煽り倒す。渾身のフレーズから始まるのは「夕方ジェネレーション」。イントロのギターでニヤつくリズム隊をみて、結成の頃から続く彼らの特別な関係性にまた強く胸を打たれた。

そしてアンコール最後の一曲は「ドライブ」。華々しく打ち上げるのではなく、染み込ませるように演奏したこの曲で終了した。武道館の客電を点灯させ、我々を丁寧に日常に送り出せるのは、この後も続いていくことが決まっているから。今後のバンド活動やツアーだけでなく、そして更なる武道館公演へと続いていくと予感させる、素敵なフィナーレだった。

思えば自然体だった。かつては脱退という危機すらライブにした彼らにとっては、緊張感すらもエンターテイメントとして織り込めるようになっていた。それは当然、一朝一夕に出来たことではなくて、その過程を見てきた我々の文脈に、彼らの現在のモードを加えたメモリアルなライブだった。

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