二郎系ラーメンを食いたい人がいる
これから事業を始める人に、「なんでもいいからとりあえず起業だ!」「起業の段取りわかったし後はやるだけ」で突き進んでしまう前に読んで欲しいノートです。その熱量があれば絶対に成功しますが、落とし穴はたくさんあります。
起業家であれば、でっかい未来やでっかい価値やでっかいコトを掲げがちですが、誰でもわかるでっかいことは誰で思いつくし、誰もが参入します。
このノートは、孫子もランチェスターも大事だけど、それよりも前段階のポジショニングのお話です。
何屋になるか
事業を始めるにあたって最も重要なのが、「何屋になるか」です。
コーヒーを飲みたいのなら、ドトールやスターバックス、タリーズなどに行きます。カツ丼が食いたいのにドトールに行く人はいません。
そして、さらに重要なのが、「どんなコーヒーを提供しているか」です。言い換えると、「どこで尖っているか」です。ドトールであれば安価で早いコーヒーが飲めるでしょう。スターバックスであればトッピングやミルクベースのアレンジを楽しめるコーヒーが提供されます。私たち消費者は、どんなコーヒーが飲みたいか言語化していないまま、なんとなくのイメージで消費していることがほとんどです。
(実際にはスタバに来る人は単に休みたいだけ、スタバという法人格が好き、スタバにWi-Fiがあるなど様々な動機があります。この辺りは『ジョブ理論』がおすすめです)
ただ、このイメージがはっきりしていない場合、誰も顧客は来ません。なぜなら、明確なイメージがないから。行こうにも何が提供されているのか判然しないため、過去の経験則からいつものコーヒー店を選んでしまうのです。
「競合より安価にしよう」「美味しいコーヒーを淹れよう」というのは実は二の次だったりします。まず、「何屋」で「何がトガッているのか」がはっきりしないうちは店を開くこと自体やめた方がいいです。これをポジショニングと言います。世の中には、安いコーヒーを飲みたい人と美味しいコーヒーを飲みたい人、以外の人もたくさんいます。
ポジショニングがはっきりしていないのに、優秀な人を採用したり、たくさんの資金を調達したりしても全然事業はうまくいかないです。ただ時間とお金だけが垂れ流れていきます。逆に、ポジションがしっかりしていれば価格が高くても消費され続けます。
誰の何の課題をどう解決するか
ポジショニングを言い換えたフォーマットが、「誰の」「何の課題を」「どう解決するか」です。そして、事業を継続する意思を決める要素が「どれくれいの市場規模で」「競合は何で」「どうしてあなたがやるのか」の要素です。この6要素をしっかり言語化して事業をスタートする必要があります。
ここでタイトルの二郎系ラーメンに戻りますが、二郎系ラーメンって誰が食べたいんだろうって思いませんか?ハイカロリーだし、最初の一口以外美味しくないし、口臭が残るし、イメージもクリーンではないです。最後まで食べ切るのは苦行にも関わらず、食わないと罰金みたいなこと言われます。でも、繁華街にはどこでもあるし、インスパイア系なる亜種も繁盛しているように見えます。最近は女性でも食べている人を見るくらいです。
二郎系ラーメンは、「中年くらいのジャンク好きな男性」をターゲットにした「ハイカロリーな(≒うまみ成分豊富な)食べ物」を提供する、しかも「安価な」ビジネスモデルと捉えられます。
看板も男性が好きそうなシンプルな誰が見てもわかる「二郎系」の文字。店内はカウンターしかなく狭いけど、男性だからOK。価格は900円くらい。原価はほぼほぼかからなそうな豚の脂肪を高さが出るように積み重ねるだけ。野菜はもやし。ドンキで買えば19円。なんだか体に良さそう。ターゲットにど刺さりするコンテンツと言えそうです。カウンターを綺麗にして広く確保する必要なんてありません。そういう店が好きな客は高級フレンチでも行ってらっしゃいと言わんばかりです。
結果、繁盛します。
もっと幅広いターゲットを取り込もうとか、ラグジュアリーな内装にしようとか考える必要が全くありません。しかも、最初に決めたターゲットに刺さりまくっている商品だから、クチコミがクチコミを呼んで、最初の三田本店は聖地化さえしています。微妙なものを広いターゲットに提供していたらこんな現象は起きないでしょう。もっと言えば、店員さんも外国の方が増えてきていて、技能的にも簡単で、日本人よりも安い労働力の確保に成功しています。凄腕シェフや美人な店員さんは不要です。もはやレシピさえ知っていれば誰でも作れるレベルかもしれません。
私は実際に働いたことがないので詳しくは分かりませんが、飲食店はナマ物を扱うので時間的制約が厳しく、競争も激しく、立地が勝負な業態と聞きます。しかし、これだけロングセラーなのは最初のポジショニングがうまく行ったからなんだろうなーと思います。
ポジショニングがよくわからないものは身の回りにありふれています。お酒を飲まない人からしたらアサヒビールの生ジョッキ缶の魅力はわからないでしょうし、中年男性や高齢者からしたらタピオカミルクティーは興味さえ湧かないでしょう。気づいていない魅力があるけれど、ちゃんとビジネスは成立している。
競争優位をどう作るか、なんてよく聞かれますが、そもそもまずは「何屋になるのか」を明確にするところから始めないとダメそうです。競争優位はすぐに無くなります。そして、秘伝のタレが、ターゲットにとってこの上ない品物であればあるほど、結果競争優位となって還ってくるということです。スーパーに行くと、「どの水を買おうかな」と悩んでいる人は一人もいないと思います。全部同じような味で同じような値段です。よく買うからとか、イメージがいいからとかしか購買理由が出てこなさそうです。こういう市場にエッジのない商品で参入するのは美味しくなさそう。
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