カンタン
『鳴く虫の楽園』と言えば秋になる。虫と言えば夏と想像しがちだが、実は虫が最も栄える季節は秋なのだ。
街の路肩の潅木からはコオロギの“コロコロ”、街路樹からはアオマツムシの“リィリィリィ”という声がやかましいくらいに降って来る。鳴く虫は星の数ほどいて種類も豊富だ。
その中で、一番美しい声で鳴くのがカンタンである。“ルルルルルー”とか細く鳴く声は『鳴く虫の女王』だ。体長、約15ミリ。中国大陸からの帰化昆虫とされている。
鳴くのはオスだけでメスは美しいオスの美しい調べに惹かれるようにオスの元を訪れる。オスはメスが近寄って来ると一層高らかに鳴き、小さな羽を目一杯広げて一生懸命アピールする。
その際オスの背中にはメスが好む分泌物がある。それをメスに差し出し舐めさせる。愛のプレゼントだ。メスはその分泌物にうっとりしてしまう。
オスはここぞとばかりに下から交尾し、事が終えるとすばやく立ち去り生命を全うする。
実にユニークな生態行動である。
カンタンの名の由来は昔、中国に廬生という男が邯鄲の都で仙人から貰った枕で眠り幸福な一生を送る夢を見たが、目覚めてみると黄梁(粟)の粥が煮えた時間でしかなかったという故事から。
つまり人生の夢や栄華は一瞬ではかないものだという意味だ。わたしは草原へ行ってあらゆる虫が出す音の中からこのカンタンの鳴く声を頼りにカンタンを見つける瞬間が好きだ。
か細い声の中にも一生を力強く生きている姿には胸を打たれる。一刻も時間を無駄にしてはいけない、人生はあっという間だ!そんなメッセージを受ける。
分布●日本全土
生息地●草原、山野の藪
繁殖期●8〜9月
大きさ●10〜15
学名●Oecanthus longicauda Matsumura
和名●邯鄲