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令和の歳時記 サワガニ

サワガニを見つけると若くして亡くなった母の事を思い出す。子どもの頃、野山を駆け巡りウルシの葉っぱでかぶれたわたしの顔を見て「あらら」とやさしく笑って、サワガニを捕まえるために、一緒に小川へ行ったものだ。

母は石ころをどんどんひっくり返して行く。田舎育ちの母のそれはとても手慣れたもので、たくさんのサワガニをあっという間に捕まえた。わたしは痒いのも忘れて見入ったものだ。


サワガニを数匹捕まえガーゼで包み残酷だが石でつぶし、サワガニから出る体液をわたしのかぶれた顔や体に塗ってくれた。

そのにおいは生臭く嫌いであったが不思議とかぶれは治った。まさに魔法の薬であった。それは母が先祖から伝え聞いた知恵だったのであろう。

そしてわたしたちはサワガニを篭一杯になるまで捕まえ家へ持ち帰り唐揚げにして食べた。香ばしく歯ごたえも良くとてもおいしかった。わたしの骨格が強いのは子どもの頃サワガニを沢山食べたお陰かもしれない。

さて、このカニは野山に流れる渓流などに多くいる。名の通り“沢”にいるカニである。冷たい水に入り、石をそっと持ち上げるとオレンジ色に動く物体に出会える。

体長は50ミリくらいで、ハサミは片方だけが大きい固体に良く会う。主に小昆虫や小魚を食べている。

一見使い勝手の悪そうに見えるハサミだが、器用に捕まえた獲物を切り取り口へと運ぶ。その様子がとても可愛い。口元からブクブクと小さな泡を出しながら食べている。

こんなことわざがある。“蟹は甲に似せて穴を掘る”蟹は自分の体の大きさに合わせて穴を掘る。人間も自分の力量に見合った考え方や生き方をしているという意味だ。

よく母はわたしに世の中に役立つ人間になりなさいと言っていた。果たして今の自分はどうだろうか?社会に貢献できる仕事をしているのだろうか?とサワガニを見つめながら考えてしまった。

分布●日本固有種。青森県からトカラ列島(中之島)までの分布
生息地●水がきれいな渓流(沢)・小川に多い
大きさ●甲幅20-30mm 脚を含めた幅は50-70mm
学名●Geothelphusa dehaani White, 1847
和名●サワガニ(沢蟹)




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