6月末日
寝不足である。
原因は明確で、このところ夜布団に入った途端に思い出す、中学生か高校生の頃に流行っていたマンガ『Deep Love』。
どんな話だったっけとネットで課金をして読んでしまったのだ。田舎の高校生がこれを読んだら東京に対する認知が歪むよなと思う。
こんなに時間を経て唐突に思い出すのだ、多少なりとも私の東京観も歪めているような気がする。
ノルマのように読み終え、認知が歪んでいる、という思い浮かんだキーワードを手繰って古賀及子さんのエッセイを読んで落ちるように寝る。
今日はちゃんと睡眠時間を取ろうと決めていた。全て自分ひとりで選んだ事なのに、昨夜は途中まで順調だったのにと悔しい。
日曜日とは思えない重たい目覚めで、外は曇り。
雨の予報が出ているが、運試しのような気持ちで洗濯物を干す。
Podcastの更新を追っていくと美容ライターの長田杏奈さんがとても久しぶりに更新をしていてうおっと思い流し聴く。
声がゆったりと甘くて淡くて、憧れる。昨夜最終回をやっと見たドラマ『アンメット』の杉咲花さん演じる主人公の話し方にも心底憧れる。存在が愛おしい人というのは、まず声が可愛いんだなと思う。
母親の声は少し変わっているそうで、私は生まれた時から聞き慣れているので何も感じないが、幼少期などはよく揶揄いに遭ったらしい。
その声質を私も引き継いでいるのだろう、私は私の声が苦手だ。低く、その低いところで二重になっているような声。
大阪に長年いたせいなのか、あがり症のせいなのか、緊張するとまくし立てるように喋ってしまう。
ああ、とそんな事を考えながらバイトに行く前にコロッケそばを食べる。
店へ向かう途中の地下道に犬のものと思しきフンが間隔を開けながら転がっていた。
店番中、雨が降ったり止んだり。少し風が強い。
天気のせいか、眠気のせいか、売り上げに今ひとつ繋げられないからか、終日思考がもの悲しい。
あまりの売り上げの伸びなさに、書店員時代の苦い記憶が蘇る。
売り上げを立てるものこそが覇者となる。会社員として当然の仕組みだ。私はその仕組みに一度打ちのめされたんだったっけ。
静かな店内で、少しぼんやりとしていると業務のやりとりをしていた店主から元気ですかというメッセージが入る。
おそらく昨日のミーティングで連勤で流石に月曜日は引きこもりたいと感じたという話をしたから心配をかけてしまった。
私の時間の使い道や力の配分が下手くそなのは私の問題で、この店で働いている(働かせてもらっている)のは私の選択だ。
確かに色々なノーを言い出しにくい。体力、時間、お金、自分次第で解決できることは無理を効かせてしまう。
けれど心配されるのは窮屈だ。平日フルタイムで働いているという事を隠れ蓑にしているようで申し訳なくなってしまう。
だって、子育てをしている人は四六時中命を守り育てている。自営で働く人はもしかしたら私よりずっと心身ともに休まらない日々を送っているかもしれない。
ここ2年ほどで初対面の人の薬指を気にするようになってしまって、無意識に視線を送ると同時に自分は本当にどうしようもない人間だと思う。
世間の価値観で是非が問われる時、何か少しでも足りない部分があれば「だからひとりなんだ」と思われている気がしてならない。
連れ合いのいる人全員に見下されている気がする。妄想だとも分かっている。
そんなの平気なのに!私は私で楽しくやってるのに!という気持ちは虚勢のようで、口に出せば翳って聞こえるんだろう。
早々に店じまいをして、だから〇〇なんだと言われないよう慎重に確認して店を出る。
食欲も湧かないほどの低い売り上げだ。こんなに落ち込むのは、諦めた自分がいるからだ。情けない。
コンビニに寄り、今日はビールを飲む資格などないぞと思いながらビールを買う。
雑誌も買う。文章や写真をもっとよく見ようと思ったのだ。知らない情報に触れて、それを得る喜びを味わうんだと。
そして食欲はないが何かつまむものを、と思いチータラを買った。
何とか本降りになる前に帰宅。なぜ傘を持たず、自転車で出勤したんだろう。
ビールを開け、店主に出来損ないのメッセージを送り、どんよりとした心身でチータラを開けると、立ち上った匂いに食欲が刺激される。すごい、これは企業努力だなと感心する。
買ってしまえば終わりじゃない。ちゃんと美味い思いをさせてくれる。
今日来店したお客さんにそういう思いをさせられなかった自分に滲みる。
私は今日、私に課した目標を達成できなかった。
洗濯物は湿度100パーセント、といった具合で、運試しは完敗だ。
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