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さいごに暇を感じたとき

今から7年も前の話になる。
私は三重県の神島にいた。
大学生だった私は
ホタルの研究をする先生に付いて
神島に渡った。
私の専門はホタルでも無ければ
生物学でもないので
本当に「ついて行った」だけ。

先生が連れてきたネパール出身の3人の学生と
研究生の女の子Aさん
それから私の友達もいた。そして私。
いま思えば謎メンバーである。
陽気なネパール人たちに比べて
Aさんはちょっと不機嫌である。
先生がかなり気まぐれのため
いちいちの言動にうんざりしているのだ。

ひたすらこのメンバーで歩く。

よく茂った森を抜けて
石と貝殻だらけのひっそりとした
ビーチみたいなところに出た。
先生はタカラガイにも詳しく
みんなでそれをさがして集めた。
タカラガイなんて、
どうぶつの森でしか見たことないから、
貝殻をひろっただけで感動。

先生が
「このまま夕暮れを待って、夕日を見よう」
っていうから
でっかい岩の上で座って待った。
時計をしていたから
時間を確認しようと思ったらできたけれど
なんだかそれはしたくなくて、見なかった。

ひまだなぁと思った。

海風が頬を撫でる。髪の毛がそよぐ。
ザザーっと波は押しては引いて、眠気を誘う。
本当に暇なのです。
喋ることも無いし、もう拾うものも無い。
この砂浜のタカラガイは拾い尽くした。
でも、まだ日は沈まないのだ。

みんな飽きた。
私も友達も先生も、ネパール人さえも飽きた。
誰からとも無く(…本当に夕暮れを待つの?)
という雰囲気になる。
結局「もう帰ろっか」と先生が口火を切った。

で、帰った。

まじで、なんの時間だったんだ。

そのあと、私はというと
バイトやら授業やら、
おまけに教育実習があったりで
忙しい日々を送った。
就職してからもなんやかんや忙しい気がする。

あぁ、あれが最後に暇と感じたときだなーと、
時折思い出す。

久石譲のSummerが流れてきそうなほど
美しい時間だった。

ちなみに、Aさんの機嫌はというと
タカラガイを拾い始めたくらいから最悪だった。
夕暮れを待つことが決まった時には
遠い目をしていた。

みんな元気かなぁ


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