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恐るべき金利の仕組み

コラム『あまのじゃく』1953/6/5 発行 
文化新聞  No. 785


警戒すべき小口金融の脅威

    主幹 吉 田 金 八

 ある金融会社から3年前に2万円の金を借りた人が、その後何回か元利の払い込みをしたのみで、ほとんどそれっぱなしにしておいたところ、10万円近い債務となって簡易裁判所から支払い命令が来て、支払いに応じなければ保証人もろとも差し押さえをすると言う督促を受けて困っている、と言う投書が舞い込んだ。
 2万円の借銭とは言うものの、実際に受け取ったのは色々と差し引かれて1万6千円余りであったのが、3年後に元利ともで10万円にもなるのかと今更びっくりしているらしいが、月に1割と言う高利を承知で借りた以上、確かに計算上2万円の元金に年2万4千円の利がつくわけで、3年で7万2千円、元金を加えれば9万2千円になる事は小学生の算術でもできることで、一割の利子が合法である限り、裁判所も借りたものは払えと言う高利貸の片棒を担がざるを得ないことになる。
 資本主義と言うのは金を持つ者が遊んでいても、金が昼夜分かたずに働きをして、手を油にし、額に汗する者より余計の収入を得ることが出来、事業所を持ち数十、数百の職工を使い、やれ生産計画、営業政策、労使問題、税金、労働基準局、保健所と頭を使う事業主よりも安い利子で金を集めて高い利子でこれらの事業場に貸し付けて、労働者と事業主の上前をはねる金融資本家が社会を牛耳ることを指すのだと思う。
 戦後の人たちは月1割の金利を、さして高いと思っていないらしいが、いま街に雨後の筍のごとく乱立する小口金融会社が、皆それぞれの成績を上げている要因は、月1割近い高利を不思議としない人達が多いことを証明している訳で、月1割、年12割の貸金金利が平然と行われるに至ったのは、終戦直後の対人対物の信用というものが完全に失われ、混乱期の『非常の利子』が惰性で行われているからである。
 記者は青年時代に親父から引き継いだ貧乏機屋を背負って、銀行と借金に悩まされたものであるが、その当時のことを省みれば、当時所沢の織物商に製品を持ち込めば、1、2の小さい店を除いて各店はほとんど手形で代金を支払っていた。
 場合によればその店が東京のデパートから受け取った手形を、そのまま裏書きして渡されることもあった。これらの手形を貰って帰って、自分の家の金庫に置いたのでは、原料代も労銀も支払えないので、即座に銀行に行って割引した。
 その当時の金利は手形の発行者の信用で多少の差はあったが、1番安いのは三越の手形で日歩1銭1厘、次に平岡徳次郎商店(平岡忠次郎代議士の本家)のが1銭3厘から4厘、その他一般商店の手形が2銭から2銭2厘位であって、銀行で割引できるのはその範囲に限られていた。
 銀行で切れない、いわば信用の薄い手形は、豊岡の万清とか仏子の平萬とかの貸金業者に持込むのであったが、これとて日歩4銭以上の場合はなかった。日歩1銭1厘は月3厘3毛、年4分で、一番高い部の4銭のものでも月1分2厘、年利1割4分であり、通例の2銭日歩が年7分にしか過ぎない。
 この割引料の率は、振出人の信用と持込人の信用が混然とした所に格差がつくわけで、一流の手形を持ち込んでも営業内容の悪い機屋が持っていけば利子は勢い高いことになる。記者などはその悪い部類であったので、平均1割近い利子を取られる組で、当時つらつら考えることに「とてもこんな利子を払ったのでは食っていけない」ということであった。
 その後、若い時に苦しんだ体験を生かして、今度は貸す側に回って、終戦後質屋を二,三年やって見たが、これも自己資本のみでなく日歩15銭で小金持ちから金を借りてやったので、税金のほうは税務署が自己資本と認定してかけられるので、恐れをなして廃業した経験がある。
 ともかく製造家にせよ小売商にせよ、利益率は昔とほとんど変わらないのに、金利のほうは昔の1割が高い部類だったのに、年12割もの高利が普通になってしまったのでは、どんな商売でも絶対に成り立たないということである。現に記者の知る限りでも、機業家の世界でも年利1割を支払った者はほとんど没落したか、営々として現在も同じような苦しい営業を続けているかの状態で、これらの人たちは大概金の苦労で頭の毛は真っ白か、脳溢血組である。
 自己資本で廻して仲買からもらった手形は期日まで金庫に放り込んでおいた機屋や買継商は隆々として栄えている。
 恐るべきは借金の利子である。


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】


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