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冬の相模湾に息子と挑む 前編

1.年の瀬

2022年が23年に変わる年末年始の休み。休みの前半は神奈川県にある夫の実家、後半は京都の私の実家で過ごすことになった。夫の実家は、相模湾からほど近い湘南にある。

夫の実家に滞在中、私は中1の息子と釣船に乗りにいくことにした。
釣船、私は2度ほど経験があるが、息子はデビュー戦だ。彼は川の管理釣り場や堤防釣りは何度か経験があるものの、海へ出るのは初めて。以前から行きたいと言っていたが、部活三昧な日々で、なかなか休みがない。ようやく行けると思ったら年末になっていた。

2.真冬早朝の相模湾、それは非日常空間

12月29日。年の暮れ。
朝の気温6度。
4時に起床し、5時に家を出て、車で20分ほどの腰越漁港へ向かう。腰越漁港は江の島の入り口付近にある漁港で、十ほどの船宿が集まる。どこの船宿でも相模湾の魚種豊富なお魚を狙えるが、今日はウィリー五目船を得意とする喜久丸さんを予約しておいた。初心者、子どもにも丁寧に教えてくれるとホームページにあったのだ。五目船とは、複数の魚種を狙うという意味、ウィリーの意味は。・・・何度調べてもよくわからない。

5時半、受付で乗船簿に記入して料金を支払い、仕掛けやレンタル竿を受け取って、乗船する。船の進行方向、向かって右側中央部(右舷)が私たちの釣り座だ。中央部は、船長がいる船室から見えやすく、なにかあっても助けてもらいやすい場所。初心者親子への配慮を感じる。

6時の相模湾は、陸地よりもずっと寒く感じた。防寒してきたつもりだけれど、寒さで手が震え、体の芯から冷える。風を受けると体感温度はさらに下がる。恥ずかしがる思春期の息子相手に体を寄せて寒さをしのいだ。

出船前の喜久丸

6時15分、出船。
漁港から15分ほどでポイントに到着。船長が魚群探知機で魚の反応があるところに船を停めてくれる。魚が多く棲息する釣り場が、漁港から近いのが相模湾の特徴だ。

今日の波は穏やか。凪。
江の島がすぐそばに見える。江の島と言っても、陸地と見ている角度が違うから、いつもとすこし違うフォルムの江の島。その背景には鎌倉・藤沢の街並み。反対側に目をむけると、太平洋の水平線の向こうから、橙色の朝日が。体を温めてくれる熱を伴って、ゆっくりゆっくり上ってきている。

非日常空間。そんな言葉がぴったりな場所だった。
都内のオフィス街で日々蓄積される仕事ストレスが、溶解していくのを感じる。思わず深呼吸する。新鮮な空気を体内にめいっぱい取り込んでデトックス。

年の瀬早朝の相模湾

3.イナダ釣り

船長から、釣りスタートのアナウンス。
最初に狙うのはイナダだ。
イナダはブリの子どもで、体長40センチ程度ある青物。旬が冬で、天然ものは冬に脂がのり、美味しくなる。

仕掛けには、ビシと呼ばれる容器に小さなエビ(コマセ)をたくさん詰めたものと、エビに模した疑似餌針が2つついている。仕掛けを水中に投下して、着底したら、船長の指示する棚(魚がいる水深範囲)の底辺までリールを巻く。イナダは海の中層を泳ぐ魚だ。ビシの中にあるコマセを、竿を上下に動かして水中に放出させながら、リールを少しずつ巻き上げて、魚が食いついてくるのを待つ。

親子で釣果を競うことにした。
どちらが多く釣れるか、大物か、勝負。

何度かやってみるも、ひきがない。そんな中、隣のベテラン釣り人の竿に反応があった。ぐんっと竿が曲がる。電動リールのようで、ボタンを押して、自動で糸を巻いていく。しばらくして、見事なイナダを釣り上げた。

びっくりした。大きい。さすが青物、青光りしてる!
こんな大物、私たちに釣りあげられるのだろうか。

息子の竿が反応した。ぐんと曲がる。電動リールではなく手動なので、自分の力だけで巻き上げていく。水面近くまで寄せてきたところで、船長が網(タモ)を持ってきて手伝ってくれた。

30センチ超えの綺麗なイナダだった。
息子はドヤ顔をして、満足気だ。
先陣をきられてしまった。

しばらくすると、私の竿にも反応が出る。同じように、ぐんと竿が曲がる。
イナダはフッキング(針を魚のあごにひっかける動作)なしに、勝手にかかってくれる。勝負は、このあとの強いひきとの戦いだ。青物は力が強い。かかったあとに暴れまわる。腕の力を目一杯使ってリールを巻いた。目一杯の力で巻こうとしても、なかなか巻けない。魚は速いスピードと強い力で右に左に泳ぎ回る。「これ、私にはむりかも…」と、弱気になったりもする。それでもなんとか水面近くまでひきあげてくることができた。今度は息子がタモで船内への引き込みを手伝う。

同じく30センチ超えのイナダだった。

初めて釣り上げたイナダ

つづく




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