49. 尾行された夜

金曜日、夫は出張へ行った。

22時半になった。

蓮との約束の時間。

壁にかかった時計で確認してから、外に出た。

そして、車を出すために門扉を開けようとしたその時、何かを感じて、咄嗟に左方向を見た。


うちの家の前の道は右方向に向かって一方通行。

左方向の先には、小さな川がある。
その川沿いには、大抵いつも、数台車が路上駐車されてる。
それはいつもの光景。

でも、確かにさっき、人影が動いた。

ん?

よーく目を凝らして見ると、車のそばに立っていた人が慌てて車に乗りこんだように見えた。

んん?

遠目だし、暗いし、はっきりとは見えないけど、、なぜか、気になった。

首を傾げながら、門扉を開けた。

そして、もう一度見てみた。

すると、さっき確かに人が乗ったはずなのに、その車のライトが点いてない。つまり、エンジンをかけてない。

暗闇のなか、車に乗り込んで何をしてるのだろう。

おかしいなぁ……

なんか気持ち悪いと思って、逆に急いで車に乗り込んだ。


その川ではない方角、つまり右方向に車を出した。

しばらくは住宅街の中をくねくねと運転。

街灯も少なく一方通行が多いので、慎重に走っていった。

少し大きな道に出て、つきあたりの T字路。

ここでようやく信号。

止まって、左折のウィンカーを出した。

そして何の気もなしに、ちらっとルームミラーを見た。

あれ?

後ろの車…ライトついてないけど。。


信号が青になったので、そのまま左折した。

すぐに、今度は十字路の信号がある。

赤になってるのが見えたので、スピードを落としながら、ゆっくり止まった。

もう一度、ルームミラーを見た。

やっぱり、後ろから来る車…ライトがついてない。

しかも、車間距離とりすぎでしょ。。


え?  ん?

不思議に思いながらも、今度は右折した。

ライトがついてない車も、ついてきた。

異常に車間距離をとったまま。


わざと、スピードを落としてみた。

案の定、後ろの車も、スピードを落とした。


車の音楽を止めた。

心臓がドキドキしてきた。

あの車、、絶対におかしい…。

幹線道路につながる交差点まできた。

大きい道に出てしまえば、夜でも車が普通に走っているので、あんな異常な車間距離をとれないはず。

あえてウィンカーを出さずに赤信号で止まった。

ゆっくり、近づいてくる後方車。

まだ信号は変わらない。

やはり、車間距離かなり多目で、後方に止まった。


ルームミラーを凝視した。

見覚えのない車だ。

暗いので運転手の顔はもちろん見えない。


信号が変わった。

ウィンカーは出さないまま、ゆっくり右にまがった。

そこは幹線道路。

車がたくさん信号待ちしてるので車のライトで明るくなっている。

ゆっくり曲がりながら、右の窓から後方車の中を見た。

運転席の人より先に、運転席の後ろから顔を覗かしている人が目に入った。

その瞬間、パッと運転席の後ろに隠れた。

えっ?!!

そのまま、直進するが、車が多いので、その怪しい車は私の後ろをぴったりついてくるしかない。

まわりが明るくなったので、ルームミラーでもよく見える。

運転席の人……あの感じは、おそらく夫の部下だ!

助手席には誰もいない。

でも、間違いなく、さっきもう一人いた。

助手席が空なのに、運転席の真後ろに乗ってるのはとても不自然だ。

つまり………まさか、夫……?

だとすると、尾行されてるってこと。


なんで?

どうして??

心拍数が一気にはねあがった。



今度は早めにウィンカーを出し、その道沿いにあるTSUTAYAの駐車場に入った。

そう、あのTSUTAYA。

さすがに、怪しい後方車は駐車場まではついてこず、そのまま直進して行った。

頼むから、前と同様、レンタル返しに来たって思ってくれ!



急いで、蓮に電話した。

でも…出ない。

バイク運転中かな?どーしよう!

とにかく、すぐに駐車場を出て、来た道を戻った。

そして、蓮との待ち合わせ場所へ。

そこは、地元の人しか知らない狭い路地。

今のうちに、行かなくちゃ!


路地に入るために、右折した。

その道は細くて対向車ぎりぎり。

前方から車が来た。

え、まさか?

なんと、TSUTAYAを通りすぎて迂回してきたのだろう。あの怪しい車とすれ違ってしまった。

見つかった……まずい!

すれ違ってすぐに、私はUターンをして、更に違う細い道に入っていった。


でも実は、さっきすれ違った時に、はっきりと運転手の顔が見えたのだ。

それは間違いなく、夫の部下だった。


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