37. W不倫のルール
W不倫のいいところ。
男女差はあるものの、既婚者同士だからこそ分かりあえることがたくさんあって。
だから、お互いに都合が良くて、 日常のめんどくさい事は一切抜きで、男と女に戻れる。
擬似恋愛を楽める。
それが、私がまだ独身で、相手が既婚者の不倫の時には分からなかった感情。
だって自分が独身だと、決してそれは、疑似じゃなく本気で恋だったから。
不倫は非日常。
帰宅したら日常。
私も最初は、それが、できると思ってた。
しようと思ってた。
しないといけないと思ってた。
蓮が好きだったから。
離婚しようとすることは、つまり、W不倫のルールを破ろうとしてることなんだろう。
『不倫は、おそらく、お互いにきちんと納得してバレさえしなければずっと続けていけるものなのかもしれない。でも、やっぱり私は、大好きな人がそんなずるい男であってほしくない。
10年とか、長く不倫関係を続けてる人に、なんの憧れも抱かない。
私にはできない。したくない。ごめんね。』
はっきり、蓮にそう言った。
現実逃避が必要な結婚生活と、ずっとコソコソしないといけない関係の両立なんて、、、
そんなWは嫌。
関係性が夫婦だろうが、不倫相手だろが、きちんとお互いを尊重して、支え合える関係でいたい。
蓮は、黙ってずっと聞いてたけど、、どう思ったんだろう。
『そもそも、こうやって、ホテルでこんなこと真面目に話してる段階で、私達おかしいよね。話なんかせずに、愛欲にまみれるのがW不倫じゃないの?』そう言って笑った。
でも、蓮は笑わなかった。
自分でも、何、子供みたいなこと言ってるって分かってる。
理想論にすぎないって。
でも、その理想を叶えようすることに、年齢制限はないはず。
W不倫をして知ったこと。
それは、『私にはできない』ってこと。
結局、時間が来て、することしないで出てきてしまった。
数日後。
仕事帰りの蓮といつものように、逢っていた。
すると、唐突に、車内に音楽が響き渡った。
ふたりとも、ビクッとして、息をのんだ。
携帯の着信音だ…。
蓮のじゃない。
私はおそるおそるバッグから携帯を取り出した。
まだ、鳴ってる…。
画面には……『りょうちゃん』
蓮はすぐに、路地に入り、車を停めた。
まだ、鳴り止まない電話。
ふたりで、しばらく私の携帯を見つめてた。
やっと、切れた。
車内は、ハザードランプのカチカチ音だけになった。
……ホッとした。
時計を見たら、23時45分。
『とりあえず帰ろう。』
そう言って蓮がエンジンキーに手をかけた瞬間、再び、鳴り出した携帯。
……まずい。
蓮も、もう今は、私の夫が他にマンションを借りていて別居してること知ってる。こんな時間に立て続けに電話をかけてくること自体、非常事態だ。
出なきゃ。
でも………。
迷ってるうちに、また電話は切れた。
が、今度は、すぐにメッセージがきた。
『おまえ、こんな時間に、一体どこ行ってるねん!』
まずい……
大変まずい………。
家にいないことがバレてる………。
私が無言でパニくってる様子に蓮が話しかけてきた。
『旦那さん、なんて?』
「家にいないのがバレた。」
蓮は、しばらく何か考えこんでる様子。私も携帯みつめたまま、動揺しまくり。
と、急に蓮が、一気に話し始めた。
『とりあえず今からTSUTAYAに行くわ!こっから5分もかからへん。ええか、よう、聞いてや。あこさんは、レンタルしてたけど、今日までやったことを忘れてた。そのことを、23時すぎてから思い出した。もう遅いしで迷ったけど、延滞金払うのが嫌やし、今やとギリギリ間に合うから、TSUTAYAまで返しにきた。で、ちょっと、本とかもブラブラ見てた。
ええな?
で、今から帰ろうと店でたとこで、旦那さんの着信に、気がついた。店の中は音楽かかってるしで、気づかなかった。』
……。
『ええか?あこさん。絶対に動揺したらあかん。緊張したらあかん。自分で思い込むねん。
私は今、TSUTAYAにいてる。あれ?電話や。どないしたん?
って感じで話すんやで。
嘘ついてる、って思うと声が固くなるし、相手につっこまれる。
だから、信じ込むんや!
私は今、TSUTAYAにおる。
ええな?
今からほんまにTSUTAYA行ったるから。』
そう言って、本当に蓮はTSUTAYAに向かい、駐車場に車を止めた。
さすが、浮気常習犯は、嘘のつきかた、よく知ってる…。とっても複雑だったけど、今は、そんなことどうでもいい。
さぁ、どうしよう…。
実は、私は、家にいないことがバレたことを恐れてるわけではなかった。
それこそ、なんとでも言い訳できる。
そんなことより、家に入られることがまずかった。
本当にまずい…。
今日の夜も、いつでも出れる準備してから、蓮からの連絡を待っていた。それまでの間、私はブログのコメント欄で遊んでた。
でも、蓮から連絡がない。
まだかかるかなぁと、自分のブログを更新することにし、書きはじめた。
半分ほど、書きおえた時に、蓮から連絡をもらった。続きは、帰ってから。
だから、私は、そのままの状態、つまり、ノートパソコンを閉じないどころか、画面すら閉じずに、そのまま、家を出てきたんだ。
まずい。大変まずい。
まず、リビングに入ってきたらパソコンに気づくはず。マウスをクリックりしたら、画面がつくはず。
家のパソコンにロックなんてかけてない。
なんてことだ…。
どーしよう………………。
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