40. 3ヵ月ぶりの夫の帰宅
土曜日なので逢うことはできないけど、蓮は都合をつけて外出し電話をくれた。
また、夫と一緒に住むことになったこと。
やっぱり離婚できないかもしれないということ。
それを聞いた蓮は『よかった』と言った。
最近少し痩せてきたし、顔色も悪いから心配してたと。
『これでいいんだよ』って言われた。
子供達の為にも私の為にも離婚はしない方がいいと。
私は、黙ってそれを聞いていた。
私が返事をしないことに困ったのだろうか?
蓮は珍しく、変なことを言い出した。
『あこさん、とにかく俺たちお互いの子供らが義務教育終わるまでは、なんとか耐えてくれへんか?それまでの間、ずっと、続けていこ。
オレは離れない自信がある。
そして、子供らが高校生になったら、それからどうするか考えよう。』
私の末っ子と、蓮の長女は同じ歳。
ふたりが高校生になるのは、13年後のこと。
(ちょっとまってよ。あと13年もこの関係を続ける?いやあり得ないから、彼なりの励ましか何かだろう。)
そう思い、その言葉に対しても私は何も答えなかった。
『とにかく月曜日オレ仕事休みやから逢おう。月曜日、旦那さんが仕事行ったら電話してきて。』
「わかった。」
ようやく、私は声を口にだした。
ブログも更新した。
(離婚ムリかもしれません)
ここでも、仲良しのブロ友さんはみんな蓮と同じ意見のコメント。
『よかった』
『やっぱり離婚はしない方がいい』
『それでいいんだよ』
『夫さんが帰ってきてよかった』
ただ、個人的に相談していたブロ友さんは反対した。
『女が1度ムリって思ったら絶対ムリだろう。説得されてやり直そうと思うのは男だけだ。
君は本当に大丈夫なのか?
もう一度旦那さんと一緒に暮らせるの?』
『あこさん。もう一度、旦那さんとやり直すってことがどういうことか分かってる?
夫婦に戻るってことだよ?
君は、旦那さんと寝れるの?できるの?』
その文字を見て、私は思わず息をのんだ。
確かにそうだ。私は蓮とそういう関係になってから、1度も夫とはしていない。
蓮以外とは…したくない。できない。
私、夫婦生活、つまり、夫とできるのだろうか……。
翌日の日曜日。
昼すぎに夫は帰ってきた。
喜んだのは長男だけ。
次男は驚き、私の顔色を伺ってる。
末っ子も私の緊張が伝わるのだろう。すぐに私の後ろに隠れた。
それでも私達夫婦は、何事もなかったように振る舞った。
たった3ヵ月。
夫が出ていく前となんら変わらないように過ごすことは、さほど難しいことではなかった。
少ししてから、みんなで大きな公園にでかけ、その後大型ショッピングモールでゲームをし、そしてそのまま、外食した。
つまり、それまでの休日と同じように家族ですごした。
ただし、それは子供達の手前の話。
夫も自分が強行手段に出たことは分かってるはず。
いや、違うな。
私が結局何もしないことを分かっていたのだろう。
『おまえは、俺無しでは何も出来ない』
だから、あえて、黙って3ヵ月、自由にしてくれてのだろう。実際、その通りだったし。
でも、私が納得していないことは、夫も分かっていた。そして、私が誰よりも頑固なことも。
夫は必要以上には話しかけてこなかったし、私達は、あくまでも父親と母親としてその日を過ごした。
帰宅後、やはりそれまでと同じように、夫が子供達をお風呂にいれ、私がバスタオルを持って出迎えた。歯磨きをさせ、ビールを飲んでる夫に『おやすみなさい』を言わせた。
そして、3人と一緒に2階へ。
子供部屋に、長男と次男を寝かせ、私は末っ子と和室。
末っ子を寝かしつけながら、私も寝た。
もとい……ふりをした。
1時間ほどして、夫が階段を上がってくる足音がした。身体が固くなるのを感じ、しっかり目を閉じた。
足音が和室の前で止まり、引き戸が少し開いた。
私は息を止めた。
末っ子の寝息だけが聞こえる。
しばらくして、また、静かに引き戸が閉められた。
……唾を飲み込んだ。
そして、夫の部屋の扉が閉まる音が聞こえた。
………ふぅ。
ようやく、呼吸ができる。
私は隣で眠ってる末っ子をぎゅうっと抱きしめた。
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