【短編物語】「こんな人になりたい」

ふと僕は、小学校の頃の授業参観のことを思い出した。僕らのクラスでは家族についての発表をした。

「じゃあ、次に発表する子はゆうとくん。」
「はい。」

僕は後ろを振り向かずとも家族がいないのは分かっていた。僕の父と母は警察官で小さい頃から共働きだったため、家の中で家族がそろうことも少なかった。

「ぼくのお父さんはけいさつかんです。ぼくのお母さんもけいさつかんです。いそがしくてお家にいることはとても少ないです。でも、学校での話はいつも聞いてくれます。給食の話、友達の話、いろんな話を聞いてくれます。」

僕の発表途中に廊下から走っているような足音が聞こえました。

「ぼくはお父さんやお母さんのようないろんな人を助けたり、いそがしくても」

ガタンっと教室の扉が開く音が聞こえた、前を向いて発表している僕はおそるおそる後ろを振り向いた。息を切らしながら少し乱れたスーツ姿を整える父と走って少しぼさっとした髪を手櫛で軽くほぐす母の姿があった。二人と目が合い、僕は発表を続けた。

「ぼくはお父さんやお母さんのようにいろんな人を助けたり、いそがしくてもぼくの話を聞いてくれたり、ぼくのために走って教室まで来てくれる。そんなお父さんやお母さんのようになりたいです。」

発表の後、後ろを見ると二人は僕の方を見て照れ臭そうに笑っていた。
そんな光景を思い出しながら、僕は全速力で学校の廊下を走っている。娘の発表に遅れてしまう。
教室の扉を開けて、先に教室にいた妻と合流。

「美紀の発表は。」
「発表なんかないよ、普通に授業風景見るだけよ。」
「あっ、そうなんだ。」

乱れたスーツを整え、恥ずかしくて真っ赤になった顔をどうにか普通に戻そうとしていると、授業を受けている娘と目が合った。娘は少し照れながらもこちらに向かって小さく手を振った。

僕は今日、少しだけ父と母に近づいたような気がした。



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