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向日葵が花ひらく時《#シロクマ文芸部》

手渡されたのは光る種。
「これしか余ってないんだよ。なんかの塗料が付いちゃったかな」
先生は袋を覗き込み、逆さまにしてヒマワリの種が他にひとつも残っていないことをアピールする。
「でも、みんなと同じヒマワリだから」
最初に配られた種を私が早速無くしてしまったと信じている先生は、文句言うなという顔つきで「早く植えてこい」と言った。

違うのに。

でも本当のことを先生に言えばAからのイジメが酷くなるだけ。
私は唇をギュッと締めて小さい種を受取り、校門前の花壇に走った。

自分の場所に、願いを込めながら種を植えていると頭の上からジョーロの水がドボドボ落ちてくる。
「やだー。間違えちゃったぁ。ごめんねぇ」
Aが私に形だけ謝ると、まわりのみんなも笑い出す。
私はうつむいたまま花壇から離れ、頭の水を払う。
まだ薄ら寒い春の日だった。

あれから毎日、昼休みには願いを込めながら水をあげたけれど、他の子のヒマワリより育ちが遅いみたいだった。もう蕾をつけているものもあるのに。
私のヒマワリはちゃんと咲くだろうか。太陽の方を向いて咲き誇る日は来るのだろうか。

一学期の終業式。
みんなの背丈より高く、みんなの顔と同じくらいのサイズで堂々と笑うように咲き始めたみんなのヒマワリを遠目で見ながら、下駄箱で靴を履き替えているとAがいつも通り声をかけて来た。
「あんたのだけ、まだ咲かないね」
運動靴の踵が上手くはまらず、私はその場で躓いた。
「毎日必死で水あげてるのにね」
取り巻き達のクスクス笑う声が頭上でコバエのようにうるさい。
「毎日給食ガツガツ食べてるけど、ぜーんぜんパッとしない誰かさんにソックリ」
A達はケタケタ笑いながら私を抜かして帰っていった。

夏休み中。
私が水やり当番に来た日も、まだ私のヒマワリは咲いていなかった。大きな蕾をガックリとうなだらせたまま。眠っているみたいに静かだ。

何かを、待っているんだろうか。

この花が大きく開くときに何かが起きるような気がした私は、また願いを唱えながら水をたっぷりとかけてあげた。

夏休みが開けた、始業式の日。
私の花は蕾のままだったけど、茎は一番太く、いかにも栄養が行き届いている感じで少し嬉しくなった。
この花は、きっとこれでいいんだ。
私はいつも通りうつむきながら、でも頬をキュッとあげて教室に向かった。

自分の席に着くと教壇に立った先生が悲しそうな声を出す。
「みんなも知っている通り、Aさんは水やり当番の日に学校に来てから行方不明になっています。でも、絶対帰ってくると先生は信じています。みんなも……」

途中から震える先生の声は、もう私の耳には届いていない。

願いを叶えてくれた種に、喉が乾いているだろう花に、今日もたくさんの水をあげなきゃ。

うつむいたまま、私は自然に沸き起こる笑みを必死に堪えた。

明日の給食は、誰かな。

(了)

こちらの企画に参加させていただきました。
希望のある話が多そうな気がしたので、ホラーテイストにしてみました。
他の方の作品も読んでコメントさせていただきます。宜しくお願いします。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。 サポートしていただいた分は、創作活動に励んでいらっしゃる他の方に還元します。