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【企画】夜行バスに乗って

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2024.3月に行われた企画の収納マガジンです。 夜行バスに乗って新宿に向かう人々、見送る人々、あるいは……!! 珠玉の note クリエイターが描く、春の群像劇をどうぞみなさま…
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#掌編小説

『夜行バスに乗って』 豆島 圭様企画参加作品

(本文 約4300文字)    高速道路灯のオレンジの仄かな光が、輝きを増しては繰り返し通り過ぎる。暫くあとに青白き浮かぶ光球が今度は続き、進路を違わぬように示し続ける。  僕の乗るバスはそれらに沿って迷うことなく先を急ぐ。視線を少し下げると先の方から急ぐ光が、眩しくいくつも飛び込んでくる。それらは僕が元にいた過去の場所へ向かっているのだろうが、彼らにとってそこは未来のあるべき場所だろう。今、すれ違う一瞬が僕らと彼らの現在で、それもすぐに視界の端へ次々と消えていく。そして各々

『夜行バスに乗るまえに』豆島 圭様企画参加作品 特別篇

(本文約1900文字) 「あー、どうしよう、あともう10分で出発やのに、あかんがな、あかんがな、あかんがな…… お腹痛いまま、あー」  俺はバスターミナルのトイレで脂汗を垂らしながら、3回目のウォシュレットシャワーの禊を受けていた。ここで出なければバスに乗り遅れる。そうなれば朝一の会議に間に合わない。あかんがな、もう、あかんがな。トイレから出ないとあかんがな。  だいたい晩御飯は外で食べるからと言って、吉岡屋の牛丼大盛りにナマ玉子をぶっかけたのが悪かった。あの玉子、なん

短編小説/夜行バスに乗って

 帳面町には古いしきたりがあって、四人の童貞が神事を務めなくてはならない。巫男と呼ばれている。巫男に選ばれた男は死ぬまで童貞を守らなければならない。巫男の一人だった武田冨福さんが八三歳で逝去されたのは、暖冬のまま終わると思われた冬が急に底冷えしはじめた二月の終わりのことだった。  四人ということに意味があって、三人では駄目なのだろう。諜報員の眼をした自治会の人が見廻りをしている。心の奥を見透かすような笑みを浮かべて、「今日は雨ですね」と声をかけてくる。彼は黒い雨合羽を着ていて