短編小説/夜行バスに乗って
帳面町には古いしきたりがあって、四人の童貞が神事を務めなくてはならない。巫男と呼ばれている。巫男に選ばれた男は死ぬまで童貞を守らなければならない。巫男の一人だった武田冨福さんが八三歳で逝去されたのは、暖冬のまま終わると思われた冬が急に底冷えしはじめた二月の終わりのことだった。
四人ということに意味があって、三人では駄目なのだろう。諜報員の眼をした自治会の人が見廻りをしている。心の奥を見透かすような笑みを浮かべて、「今日は雨ですね」と声をかけてくる。彼は黒い雨合羽を着ていて