タレントは「ワイプ』の中で何を思う?
コロナで亡くなった大物のお笑い芸人は、気に入っている若い芸人をよく酒宴に誘ったそうだ。
大物芸人の「無理に誘って悪いね。明日も仕事だろ?」を受けて若い芸人。
「ええんです。明日も『V』を観るだけの仕事じゃけぇ」と答える。
無意識だが、バラエティ番組の『演出の内幕』をバラす言葉になっていた。
二日酔いでも、体調がどうでも、若い芸人にとってバラエティ番組は収録スタジオに行くだけで済む仕事になった。
テレビ画面の隅のワイプに収まる仕事。
主映像がグルメ系なら羨ましい顔で、動物ものなら笑顔で、真面目な内容なら真顔で見ているだけで良い。
今や民放、NHK問わず、定着している演出法になっている。
コロナ禍のずっと前、20年以上も続いている。
たくさんの固定カメラ。
固定カメラだから、たぶんカメラマンは居ない。
タレントが頭や体を動かすと、ワイプ画面から見切れてしまう。
だからADから「頭を絶対動かさず、表情だけでリアクションを」の注意が有るはず。
タレントが動くとワイプの中に注意が行き、視聴者に見せたい主映像の邪魔になる。
それでもワイプに自分が映ると、つい笑顔を作る。
タレントが一言も発言しない番組さえある。
このワイプ演出の意味が判らない。
100組200組の漫才バトルで勝ち抜いて頂点に立っても「喋り」では無く、ワイプに入る仕事になる芸人たち。
「これ美味しい奴やん」「すごーい」とか視聴者では無く、演出担当ディレクターに向けた印象の良い言葉を残す。
隅のワイプ画面の必要性は何だろう。
私は、ある団体で学生や一般人が作るドラマや、ドキュメンタリー、アニメ作品等の映像審査員をさせて貰っている。
とある大学生のゼミ作品で『一番利用するメディアは?』と学生たちの調査ドキュメント映像があった。
学生が自分の大学、付き合いのある他大学でメディアとの関わりをリサーチし、その数値をグラフ表示したり、学生に取材したインタビュー映像も入っている作品。
それによると若い人が使う主要メディアは、SNSがダントツで76%。
一番驚いたのはテレビの利用が4%に満たなかった事。
学生1日のテレビ視聴は「1時間も見ない」が40%、「全く見ない」学生も多かった。
極端なテレビ離れ。
テレビを持たない人も多いという数字。
テレビを持っていてもPCに繋いで、映画やゲーム画面に使うだけと答えている。
彼らにテレビ番組は不要なのだ。
テレビCMを作る私など、驚く数字になる。
テレビを見ない学生たち。
高齢者だけがテレビの前に居る日本。
企業が「若者向けCM」に莫大なお金を掛ける意味を考えてしまう。
バブル期のビジネス用語「費用対効果」は、今や死語なのだろうか。
ワイプの中で、爪痕残そうと手を叩いてオーバーアクションする芸人たち。
グルメ散歩番組で「こんな美味いコロッケは、生まれて初めて!」「今まで生きて来てナンバーワン」と叫ぶ芸人やアイドルたち。
いやいや、普通のコロッケだから。
それらを醒めた眼で見る若者たち。
高齢者は自然の摂理で、そのうち居なくなる。
若者たちが歳を取ってテレビに移行するとは思えない。
その時テレビは、果たして生き残れるのだろうか。
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