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「田中一光ポスター展 舞台と文字ののぞき穴から」◇京都工芸繊維大学 美術工芸資料館

京都工芸繊維大学の校内にある美術工芸資料館「田中一光ポスター展 舞台と文字ののぞき穴から」展のレポートです。
期間:2023年7月3日(月)〜9月9日(土)

この展覧会は博物館学芸員課程における実習の一環として開催されたもので、プロの学芸員の展覧会ではありません。
でも、こういうのってなかなか見る機会もないと思うので結構貴重なのでは?というのと(多分わざわざ行かない、というのもあるかもですが…)、田中一光の作品がみられるというのもあり行ってきました。
田中一光はなんやかんやで、今まで見る機会がなかったのでこれ幸いという感じです。


学芸員の卵(になるかも)の展覧会

第1章 「舞台で」のぞく(第1・2展示室)
第2章 「文字を」のぞく(第2・3展示室)
                      
”博物館実習受講生が田中一光の数多くのポスターからトピックを抽出し、展示作品を選定しました。田中が生涯に渡って手がけ続けた舞台公演のポスターから彼のデザインスタイルを浮かび上がらせ、さらにそこから田中の独創的な文字使いへと切り込んでいこうとする企画になっています。”
        

「田中一光ポスター展 舞台と文字ののぞき穴から」

構成は2章立て。展示室は全3室の黒仕様。第1・3展示室が台形の2辺の角度が90度、というちょっと変わった形状。第2展示室だけが唯一普通の長方形なのですが、ここで1章と2章を分けるための仕切りが斜めに置かれていました。また照明のレールがデフォルトで壁面に沿っていない箇所があって、全体的に変わった作りだなと思いました。

これで実習をやるとか大変そう、、、!

第1室目。おなじみの汚いメモです。


入口から入り左手に、あいさつと田中一光についての解説文、そして代表作の一つでもある鹿の絵が印象的な《JAPAN》(1986年)が展示されていました。
この鹿の絵は色々な意味で「見たことある」的な作品かも知れません。
元ネタとしては俵屋宗達が描いた《平家納経》願文見返し(安土桃山時代・1602年、嚴島神社)の鹿なのだそうです。

しかちゃん、てなんだ。

さて今回の章立てですが、「舞台」と「文字」がキーワードのようです。そして「のぞき穴」。これは、舞台と文字をのぞき穴から見るように焦点をあててみよう、みたいな意味でしょうか。

《JAPAN》(1986年)から始まり、
《The New Spirit of Japanese Design Print》(1986年)
《日本舞踊》(1981年)
《第一回国民文化祭グランドフィナーレ ありがとう・日本のこころ》(1986年)
と、なんかみたことある〜!な3点が展示されていました。

その後は、ずっと舞台関連の作品が続きます。中でも、産経観世能関連のポスターは題材が能だから日本らしいといえばそうなのですが、いかにもという感じではなくて、ポップさもありながら上品、なのに明快、みたいな印象です。

というのは、この一連の作品を手がけ始めた1950年台の日本のデザイン界は、国際性が強く意識された時代でもあり、海外デザインの模倣が問題となっていた時期、といった理由もあるようです[1]。

欧米デザインには存在しない日本文字をモダンデザインと して造形処理することは、日本のグラフィックデザイナーだけが向 き合わなければならない困難な問題だった。例えば、グラフィックデザインにおける日本文字の処理の難しさについて、亀倉雄策は次 のように説明している。

「日本の文字は西洋人がみるときわめて神秘的、あるいは抽象形 をしているようにみえる。しかし日本人がみると文字の形があ まりにも複雑で、一つの画面に四つか五つの文字ならば造形的 にも破綻がおきないが、五十字以上も並べるとなると大変複雑 な様相を呈してくる。(中略)ローマ字は配列されることによって美しいが日本の文字は孤立することによって美しいのである。 (中略)アメリカがたどったタイポグラフィックの問題と同じ く日本も最初から、日本的なものを打ち立てるべく、進むべき自覚が必要だ。」

[1]「一九五〇年代の田中一光作品における「日本的なもの」の表現」より


いかに日本らしいデザインを作り上げるか、ということが課題となっていたんですね。この辺り、なんだか明治維新後の日本文化の流れにも似ている気がします。(西洋に追いつけ追い越せで油彩画が盛んになったかと思えば、日本画を復興しよう!と極振りした時代)

そういえばなぜ「舞台」なんだろうと思っていたら、田中一光の経歴の中に舞台が好きだったことなどが説明されていました。それが原動力ともなり舞台関連のポスターを手がけるようになったとか。

そして第2章は田中一光が関心を寄せていた「文字」がテーマになっています。
解説では文字をどう扱っているかが以下のように示されていました。

  • たくさんの文字を並べて文字サイズの対比で視認性を上げる

  • 文字を絵にする

  • 文字を1度分解して再構築する

  • 文字のリズム化

実際に作品を見ると「なるほど」となり、文字のゲシュタルト崩壊*を可視化されたようで興味深い作品ばかりでした。
絵にされた文字のことを、私の文章で説明しようとしても本当に崩壊しそうなのでやめますが、フォントやタイポグラフィに詳しい人なら、もっと意味があってさらにおもしろく見られるんだろうなと思いました。
*文字やなんらかのモノをジーっっと見ていると、だんだん全体として認識できなくなる現象


今回の展示は博物館実習ということもあり時折、手作り感が垣間見えるところが通常の展覧会と違う点でした。例えば、作品解説のキャプションが円形だったり、その切り口が少しガタガタしていたり、切るの大変だったんだろうなーとか。
と、同時に普段の展覧会では作品以外の部分は気にもならない、というのは逆にその場から浮いていないということなので、学芸員さんが丁寧な仕事をしているんだろうなと思いました。

というわけで、今回は未来の学芸員さん(になるかも)の博物館実習展覧会のレポでした。

違う展覧会のポスターがもらえました。


おまけ①谷川俊太郎のラヂオが並ぶ通路

3つの展示室をつなぐ短い通路には同大学の所蔵品がさりげなく展示してあったりするのですが、谷川俊太郎さんの収集したラジオがたくさん展示してある通路がありました。谷川俊太郎さんはラジオが大好きで、2010年に同大学に180点余を寄贈したものらしいです。
「ラヂオの時代-谷川俊太郎コレクションを中心に-」の解説に「ラジオはまた、機能の進歩とかたちの進歩が、テンポよくからみ合ったプロダクトデザインの好例でもある」という一文があり、高級家具のような立派なラジオにはそういう意味があったんだなぁと思いました。

おまけ②比叡山を借景する

休憩所は2箇所あります。
といっても空いているスペースに会議室用のような椅子が置いてあるだけなのですが、展示室の最後の突き当たりにある休憩所は、比叡山を眺めることができる様に作られていました。

おまけ③叡山電車はいいぞ

京都の鴨川デルタにある出町柳駅からの路線には叡山電車というのがあります。
行き先は鞍馬か比叡山方面。京都工芸繊維大学へ行く場合は、八瀬比叡山口行きに乗り修学院駅で降ります。修学院駅からは少し歩きますが、きれいな川沿いを眺めながら歩くのは楽しかったです。(暑さ以外は、、、)

またこの修学院駅がどことなく懐かしいような味わいのある駅でした。というか、そもそもこの沿線自体が電車もさることながら、駅やホームなど周辺の雰囲気がよく、とても味わい深いんです(特に色彩が良い)。時間ができたら、叡山電車の沿線旅をのんびりしたいものです。

正面入口。味わいがすごい。エントランスはレトロな打ちっぱなしで、様々な古いポスターが展示されています。オシャでした。こういうところで働きたいなー。
あとで調べてみたら東門でも西門でもない、よくわからない入り口から入りました。
車止め?的なポールにはかわいい鳥ちゃん。ピコリーノというらしいです(全国に生息中)。
帰り道。川沿いからみえる比叡山。めちゃくちゃ暑かったです。暑すぎてこれしか画像がありません。
電車のシート。叡電ブルーが美しい。




【参考】
[1]山本 佐恵,「一九五〇年代の田中一光作品における「日本的なもの」の表現」,学会誌『美学』,2017 年 68 巻 1 号 p. 85-96 

・笹本 純,「グラフィックデザイン作品の構造分析 : ポスター「第5回産経観世能」を素材として(口頭による研究発表,第36回研究発表大会)」,日本デザイン学会 第36回研究発表大会,1989 年 1989 巻 75 号 p. 90-

・↓「第5回産経観世能」のポスター

・ゲシュタルト崩壊
https://kotobank.jp/word/ゲシュタルト崩壊-189002 

・モリサワHP
https://www.morisawa.co.jp

・「ラヂオの時代-谷川俊太郎コレクションを中心に-」 京都工芸繊維大学HP展覧会アーカイブ

・小鳥付車止め「ピコリーノ」誕生秘話,株式会社サンポール


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