川内倫子 「M/E 球体の上 無限の連なり」展 ◇滋賀県立美術館
滋賀県立美術館で開催中の 川内倫子 M/E 球体の上 無限の連なりの展覧会レポートです。
川内倫子さんってどんな人?
川内倫子さんは、身近なものから大自然まで生命の持つ輝きを写真で表現、国内外でも評価の高い写真家。でも、失礼ながら自分はまったく存じ上げませんでした。
今回の展覧会は生まれ故郷である滋賀県で初めての個展だそうです。
この展覧会を知ったのはTwitterのタイムライン上で、なんとなく惹かれるものを感じたので見てみたいと思いました。
写真家 川内倫子が見ている世界を見てみたい
展覧会を見る前にどこに惹かれたんだろうと、インタビューやこれまでの作品などを見てみました。
(YouTubeは東京オペラシティアートギャラリーでの展示の様子)
初めは、光の表現がとても柔らかく、でもどこかでみたことがあるような景色という印象でした。けれど人の目に映るその微妙で微細な一瞬の光を写し取り、こんな風に表現できるのってすごいなと思いました。
シリーズ構成はこんな感じ。
絵画展のような章立てといったガッチリした感じではなく、キャプションもありません。
展示室内は床も壁もほとんど凹凸がなく、写真以外のものが目につくことがなかったのも特徴的だったと思います。
シンプル過ぎるのではと思いましたが、作品だけに向き合えるような構成にしているのかも知れません。
※あとで知りましたが会場デザインに関しては、こちらの記事が参考になりました。
〈 4% 〉
〈 Halo 〉 (光の輪)
4%の入り口の左下の床に面した壁に小さく映し出される映像。
溶けた鉄を叩きつけて火花を起こす中国の祭りの一部分が繰り返し流れる。
反復される映像はなぜかずっと見てしまう。
〈 An interlinking 〉 (たがいにつながる)
過去20年間以上の作品の中から構成。日常的な身近な世界が正方形の中に切り取られている。
〈 One surface 〉 (表面)
〈 Illuminance 〉 (明るさ)
展示されるたびに新しく画像が追加されていく作品。
同じ内容の動画が2台のモニターから時間差で映し出され延々と流れていく様は、永遠に完成することはない。
走馬灯という言葉が頭をよぎる。
光と影
An interlinking の通路の突き当たり、展示ケースのガラスの向こうに映し出された2011年4月の石巻、女川、気仙沼、陸前高田。
瓦礫が映し出された画像が次々とスライドし、不意に白と黒の鳩が現れる。当初、撮影ではなく海外の写真家を案内していたところ、この鳩たちと出会い生まれた作品。
鳩がいることで、その場の対比のようなものの輪郭が浮かび上がりドキリとさせられた。
〈 A whisper 〉 (ささやき)
作者の現在の住まいの裏手にある川を撮影した映像。
立方体の室内の中、床と壁に投影され音が流れていく。
川の流れ、反射する光、葉っぱの影、風の音。
自分と自然との境界が揺らいでいくのを感じ、振り向くと来た道はもう見えない。あちら側だけがみえる。
〈A Whisuper〉 と 〈あめつち〉 の間から見える外の風景
〈 あめつち 〉
自然への畏怖と人間の祈り。
〈 M/E 〉
2019年にアイスランドで撮影された火山、氷河、滝。
冬の北海道。
自宅周辺の風景。
世界の見え方とつながり
展覧会を見ている時は瞬間的に湧いてくる感情もありますが、レポートを書く際には自分の歩いた経路を頭の中で何度か往復させて、その時になにを考えたり感じていたのかを思い出しながら書きます。
この展覧会でも脳内で自分の辿った道を行ったり戻ったりしている内に、あれはもしかして回廊だったのだったのかも知れないと思いました。
コの字型になっている通路を歩きながら、時折違う部屋の中を覗き込み、強制ではないのに前に進むしかない道。
長い通路を抜けると、川の流れる音や風のざわめきを感じながら暗い洞窟の中へ(その一瞬手前に外の世界が見える)。
暗い中を抜けると最後に開けた場所にたどり着く。
地球の大きな自然や身近なちいさな日常に囲まれた作品が並び、中央に柔らかい色の薄い布が何層にも重なった通路。
その中を通り抜けて最後の映像が流れる中、カーテンで仕切られた出口へと向かう・・・。
と、その通りに進めば綺麗に終われたのでしょうが、わたし自身は実際にも何度も行ったり来たりしていて最後の出口で戸惑ってしまい、なかなか外に出られなくて彷徨っている魂みたいだと、ちょっとおかしくなってしまいました。
川内さんの作品にはすぐ側にあるちいさな自然も多く、どこかで見たことがあると思ったのは、おそらく自分の住んでいる場所と共通しているような感じがしたからだと思います。
そしてその些細に感じていたものが写真によって具現化できる、という憧れのようなものが、惹かれた理由だったのかも知れません。
またそれは自然の大小に関わらず、一様に等しく感じるものでもあります。
川内さんの作品は見ているうちにいつのまにか作品と自分が照応し、それは川内さんが撮影するときに感じる、”自然(地球)と自分”のような関係性を体験していたのかも知れないなと思いました。
補足:写真のことはよくわかりませんが、作品の見え方が若干違うと思ったのはインクジェットプリントとか、発色現像方式印画などの技法の違いなのかなと思いました。フィルムとデジタル画像の違い?みたいなものなのでしょうか?リストを見たら画質の雰囲気が好きだなぁと思ったのは発色現像方式印画の方だったみたいです。こういうの知るとフィルム写真撮りたくなります。
補足2:こども向けのガイドとマップ。写真展初心者にもわかりやすくて、ありがたかったです。知らない作家や作品はこども用を見るのが理解するキッカケになります。
特集展示 「川内倫子と滋賀」
もうひとつ別に、滋賀との関わりの深い作品の展示もされていました。美術館のリニューアルオープンのイメージ撮影の作品や、甲賀市の福祉施設やまなみ工房を撮影したものや、川内さんの家族を13年間撮影したシリーズなどが展示されています。(こちらは5/7まで)
滋賀県立美術館 常設展示のこと
訪れた日は
展示室1では「小倉遊亀 技法における金と銀」(1/11〜4/2)、
展示室2では「シュウカツ! 収集活動より-女性を描く中村貞以- 」(1/31~3/12)
が開催されていました。
到着した時間が遅かったので見るかどうか迷い通り過ぎかけて、いや!もったいなすぎる!と思い直し、一瞬でもいいから見ようと思い軽い気持ちで中へ。
や〜・・・見て正解でした。
小倉遊亀の《娘》があったんです!(こちらの収蔵品だったのですね)
滋賀県立美術館では展示室1を小倉遊亀コーナーとして、今年度は4期に分けて展示を行っているようです。
そしてやっぱり実物は細かいところが、本から受ける印象と違いちょっと感動ものでした。
展示室2の中村貞以は知らなかったのですが(もしかしたらどこかでは見ているかも知れない)、これがすごく良かった。
そもそも「シュウカツ! 収集活動より-女性を描く中村貞以- 」というのは
といった、美術館の主要活動でもある「収集」に焦点をあてた常設展だそうです。
そして
ということなのですが、この中村貞以の描く女性がカッコよくてビックリしました。
《婦女の図》《壺を持つ少女》《お杉お玉》《お玉》
いいな〜と思ったのが全て1920年代の作品でこれは初期なのかな?
時間がなくて本当に作品を見るだけだったので詳細はわかりませんが、後日この中村貞以の作品が、現在大阪中之島美術館で開催されている「大阪の日本画」展にも出品されていると知りました。
この展覧会は行くつもりですが、これだけの数の作品を見るのとでは印象が違ったかも知れないと考えると、ここで見ることができて良かったです。
こうやってみると常設展は美術館が推している本当に芯のある作品があるなぁと毎回思うのですが、どうしても特別展と同日日になると時間が短くなってしまうのが惜しいところです。
かといって地元ではない地域になると、そうそう気軽にも行けないのが現状。
裏を返せば地元民は自地域の常設展ならいつでも行けるぜ!ってことなので、自分の地域の作品をじっくり見るのもいいなと思います。
しかも常設展はお財布に優しい設定。
いつか常設展レポートというのも書いてみたいなと思います。
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