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待ち人、来たる!

 JR中野駅から徒歩2分。目的の居酒屋には迷わず辿り着けた。階段を上がると、「いらっしゃいませー。御予約はいただいてますか?」と女性スタッフが迎えてくれた。予約してなかったことを一瞬後悔するも、数秒後には安心する僕がいた。そこは予想以上に小さなお店。スタッフさんに聞くと、週末に予約なしで入店できたことがラッキーとのことだった。

 麦酒に特化しているこの居酒屋。現代のサーバーと昭和のサーバー。二種類のサーバーを駆使して、10種類の麦酒を提供。【注ぎ分け】というスタイルで評判を呼んでいる。同じ麦酒が注ぎ方ひつとで、見た目も味ものどごしも、まったく違ったものになる。店主による、解説付きの注ぎパフォーマンスにもワクワクさせられる。アルコール好きではない僕が麦酒を飲んで笑い、飲み比べをした。そして唸った。それがすべてだ。美味い!

 これこそ、僕が体感したかった麦酒。滋賀県から訪れた甲斐はあった。しかし、僕がこの店を訪れた本当の理由は他にある。そう、あの人に会いたいからだ。このお店のことを知ったのも、あの人のブログがキッカケだった。あの人が「ここの麦酒は一度飲んだ方がいい」と、何度も発信していたからだ。すなわち、あの人はこのお店の常連さんということ。ここに麦酒を飲みに来る。

 入店して、一時間が過ぎた。お酒が強くない僕の顔が暖かくなっているのが自分でもわかるぐらいだ。階段に人影が見えるたび、期待を膨らませてさり気なく確認するが、現実はすぐに僕を平常心に戻してくれる。『さすがに来ないか』『そんなに都合よくいかないよな』と。しかし、その反面、『強運なら会えるはず』『強運だから会えるはず』と、自分に言い聞かせてもいた。すると、一人の男性が、腰を低くしてソロっと来店。スタッフさんに何やら手土産を渡していた。僕は胸騒ぎを覚えた。振り返った男性の顔を確認すると、僕は心の中でガッツポーズを決めていた。『来たー!』『ヨッシャー!』『本当に会えた!』と。(つづく)

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