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【アルジャーノンに花束を】知的障碍から天才になったら幸せなのか?

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SF小説は苦手分野だ。
どうせありもしない設定で空想に満ちた内容のものを描くんだろうと思っていたが、読んでみた感想は全く違うもので、人間的な感動に溢れたものだった。

「私はチャーリィだ」
「あの人もチャーリィだ」と感じる瞬間が何度もある。
自分の心にピタッと重なる瞬間が何度もある素晴らしい小説だった。

チャーリィは32才だが6才ほどのIQしかない知的障害者だ。
パン屋で雑用をしながら、読み書きを覚える学校に通っている。
性格は純真で温厚、そして真面目。


この本は全てチャーリィ目線の日記(経過報告)という形を取る。


初めの方の「けえかほうこく」は読みにくいのだけれど「すごい意よくをもった知てきしょーがいのおとな」であることがとても伝わってくる。

「りこうになりたい」

「みんなみたいに頭がよくなりたいのでそうすればみんなぼくを好きになて友だちがたくさんできると思う」


チャーリィは向上心があるという資質も買われ、手術で知能を上げる人間を使った第一号として選ばれる。


それからは徐々にではあるが、数ヶ月かけて、IQ180まで獲得していく過程が圧巻だ。


まず「経過報告」の内容がどんどん変化する。誤字脱字ばかりの初期「けえかほうこく」から、一般的に読みやすい文章になり、ある段階を越えていくと読み手側でさえ理解できないような専門的な語彙や深い内容に変わっていく。


IQ獲得とは反比例するようにに辛いこともわかってくる。
これまで友達だと思ってきた人間が実は自分を見下して虐めていたこと。
親から捨てられたこと。
実験対象としてしか見られていないこと。


高いIQを獲得したチャーリィは、自分以外の皆が馬鹿に感じて苛立つ。
更なる知識を求める心が、素直に人からの愛を受け取ったり与えたりする心を排除してしまう。


と、ここで個人的な体験なのだが

とある業界で、IQがとても高いのだが、他人にとても冷酷で、いつも人を馬鹿にしたり、嘲笑したり「なぜこんな簡単なことができないのか」と周りにいつもイライラとしてブチギレている集団がいた。
わかりあえる人だけで集まって賞賛し合って「周りは低脳だからつまらない」という態度を隠そうともしなかった。

本当に不愉快で嫌悪感を感じていた。
なぜいつも人の悪口ばっかり言って楽しんでいるのだろう?
なぜそんなに人を傷つけて平気なんだろう?全然理解できない……。


この理解のできなさは、IQの高いチャーリィの部分を読むことで少し理解できた気がした。


IQの高い人たちの中にも温かく、思いやり深い人もたくさんいる。
人への愛情、親切心、配慮や感情を読み取り適切な行動を取る力は、生まれ持ったものでもなく、短期間で習得できるものではない。
チャーリィはIQを獲得した後、そこに特に苦しむのだ。


大切だと感じている女性に荒々しい態度を取ったり、少しでも矛盾点を感じたことには、感謝すべき人たちにさえ攻撃的になり孤独になる。


どんな家族に育てられたのか、学校や社会における立ち位置なども関係するが、IQ以外の部分で時間をかけて習得すべき経験は人間形成にはとても重要だとわかった。
また「幸せ」という面において、IQが重要な要素でありながらも最重要項目ではないということも。


EQ (Emotional Intelligence Quotient)もとても大切だと思う。
※心の知能指数と呼ばれるもので、後天的に獲得できる

EQの低い人たちの特徴↓を見て、私はとても納得した。

①感情的で、怒りっぽい
②共感力が低く人の話を聞かない
③協調性に欠け自己中心的
④柔軟性が無く寛容さがない
⑤他責傾向で愚痴が多い

もう、私が関わり不愉快に感じたIQ高い集団そのものの特徴で妙に納得した。

IQの高い人たちの中にEQを後天的に獲得できなかった人がいるのだな。

チャーリィがその後どうなっていくのかはネタバレになるのでここでは触れないことにする。
彼の幸せを祈りつつ最後まで読んでほしい本です。



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