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大人にならないと生きていけないんだ、この世界は。 映画「こちらあみ子」ネタバレ感想

こんちは、ねね氏です。
仕事が閑散期なのを良いことに、爆買いに爆買いを重ねてしまっていて、日々お財布とにらめっこしています。
とはいえ、私がいつも行く小さい映画館で公開された映画たちは、下手したらもう出会うことがないかもしれない。
本も映画もカプセルトイも、一期一会ですから。
ということで、今回はこちらの映画。

あらすじ

あみ子はちょっと風変わりな女の子。優しいお父さん、いっしょに遊んでくれるお兄ちゃん、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいるお母さん、憧れの同級生のり君、たくさんの人に見守られながら元気いっぱいに過ごしていた。だが、彼女のあまりに純粋無垢な行動は、周囲の人たちを否応なく変えていくことになる。誕生日にもらった電池切れのトランシーバーに話しかけるあみ子。「応答せよ、応答せよ。こちらあみ子」―――。奇妙で滑稽で、でもどこか愛おしい人間たちのありようが生き生きと描かれていく。
ひとり残された家の廊下で。みんな帰ってしまった教室で。オバケと行進した帰り道で。いつも会話は一方通行で得体の知れないさびしさを抱えながらも、まっすぐに生きるあみ子の姿は、常識や固定概念に縛られ、生きづらさを感じている現代の私たちにとって、かつて自分が見ていたはずの世界を呼び覚ます。観た人それぞれがあみ子に共鳴し、いつの間にかあみ子と同化している感覚を味わえる映画がここに誕生した。
https://kochira-amiko.com/ 公式サイト

きっかけ

いつも通り映画館の予告から。
予告映像を見る分にはすごく平和そうな内容。
でも、どこか寂しそう。
貧乏くさい画面の映画は見ないよと思っていました。

でも、たまたま見たレビューに書いてあった内容。
「発達障害じゃないかな」「見ていて辛い」
風変わりな女の子が巻き起こす楽しい話だと思っていたけど、
どうやらそうでもなさそう。
視聴前の評価は☆☆☆★★(星3つ)

感想(ネタバレ含む)

いや〜痛かった。純文学映画でした。
何だか心が痛かった。

あみ子は広島に住む女の子。両親と兄との4人家族。
お母さんが出産間近。
お父さんは「あみ子」と呼び捨てで呼ぶけど、お母さんは「あみ子さん」。
お母さんは家で習字教室の先生をしています。
出産が近いせいか、お母さんはあみ子にピリピリ。何だか冷たい感じ。
あみ子は、宿題をなかなかやらないし、先生の言うことも聞かないし、いきなり歌うし、自分が面白いと思った遊びを衝動的にしてしまう、ちょっと変わった子。
お母さんはそれが嫌みたいです。

誕生日にも、ケーキの蝋燭を吹き消すより先に、お父さんが持ってきたプレゼントに夢中。
その中のチョコかけクッキーのチョコだけをずっとペロペロ。

あみ子は「のりくん」のことが好き。
のりくんは習字教室に通っている男の子。
自分の親から「あみ子は変わった子だけど、意地悪したり仲間外れにしたりしないで、仲良くしなさい」と言われてる。
だから、他の子みたいに意地悪したりしないで、話には付き合ってくれる。
あみ子は他のクラスメイトには興味がないし、のりくんの本名にも興味がない。
「のりくん」は「のりくん」。

そんな中、生まれてくるはずの弟が死産。
ぐったりしたお母さんが帰ってくる。
お母さんに優しく接するあみ子。
お母さんが喜んでくれるので、もっとたくさんできることを考える。
あみ子は、お母さんのために「弟の墓」を作ることに。
のりくんにうまく協力してもらって、家の花壇のペットの墓の横に「弟の墓」を作る。
でもそれが良くなかった。

それを見てお母さんは狂ったように大号泣。
のりくんは親と一緒に家に謝りにくる。
お母さんはずっと寝込んだままになってしまった。

それから、家族がおかしくなった。
お兄ちゃんは悪い友達と付き合うようになり、タバコを吸い始めた。
お母さんは起き上がらず、一言も喋らなくなった。
お父さんはいつもの通りだけど…。
のりくんも、一緒に過ごしてくれなくなった。

あみ子はいつも通りだけど、周りがどんどん変化していく。
周りは中学生になったけど、あみ子の心は成長しない。
ずっと小学生のまま、いきなり歌を歌ったり、裸足で走ってみたり。

あみ子は部屋にいると変な音が聞こえるようになり、両親と同じ寝室で寝たがる。
「おばけなんかないさ」を大声で歌うも、お父さんに「お母さんが寝てるんだから小さい声で歌いんさい!」と叱られる。
最初は意識できるけど、すぐに忘れてまた大声で歌い始めちゃう。
あみ子は変な音の原因が弟の霊だと、お父さんに相談する。
お母さんの前でも全く気にせずにそう言う話をするあみ子。
お母さんがなぜ寝込んでいるのかもわかっていない。
もう、中学生になったのに。
ずっとあみ子をあみ子のままに受け入れてくれていたお父さんの気持ちは離れてしまう。

あみ子は教室でも孤立。家庭でも孤立。
最終的に、引っ越しをすることになる。
あみ子を新居に連れてきたお父さんは、夜になったらお母さんのいる家に帰っていく。
田舎のおばあちゃんと二人で暮らすことになる。

平日の仕事の忙しい時期に見ていたら、私は耐えられなかったと思う。
誰しもこういう他者の気持ちを慮れない時期を経て大人になっている。
でも、他者の気持ちを想像できるようになるタイミングは人それぞれで、
いつまでも大人になれない人は孤立してしまう。
人とは違う個性の強い人がいたときに、理解できる人と難しい人がいて、それって愛情だけじゃなくて、その人の余裕にも関わると思う。
例えば、体育の先生は授業をしっかり受けさせたいから、あみ子がエスケープしたのを追いかける。
でも、保健室の先生は、あみ子がもはや常連だし、授業を受けさせる責任もないから、カラオケさせたり冷蔵庫開けさせたりして自由にやらせている。
お父さんは、お母さんの看病とグレたお兄ちゃんを抱えて、さらにあみ子の生活も守らないといけない。
一方のおばあちゃんは、あみ子とのんびり田舎で暮らしていればいい。

周りの子が大人になればなるほど、あみ子との心の差が開く。
お兄ちゃんも元々すごく優しくて良い子だったから、お兄ちゃんに優しくしてあげていた。
だんだん周りがあみ子を理解できなくて、手に負えなくなっていく。
特にクラスメイトは思春期で、孤立している人間には寛容になれない。
また、あみ子がきっかけになって色々な事件が起こっているけど、あみ子自身は無自覚。
それが未就学の子であったら理解できるけど、あみ子はもう中学生で、なのに理解が難しい。

映画を見ていると、周囲の苛立ちも手に取るようにわかる。
でも、映画をずっと見ていると、あみ子の考えもわかるようになってくる。
あみ子はわざとやっているわけじゃない。
あみ子は悪気があるわけじゃない。
でも、結果がよくないらしくて、なぜか周りから冷たくされる。
丁寧に説明してもらえればわかるけど、それにはすごく時間がかかる。
きちんと意図が伝わるかも怪しい。
あみ子に優しくしてあげて、とも思うし、周りも優しくできないんだよな、とも思う。

苦しいなあ。じゃあ、あみ子みたいな子はどうすればいいんだろう。
多分発達障害を何か持っているんじゃないかと他の方のレビューで見た。
きっと、何か定形発達ではない、みんなと同じペースで生きるのに難しい理由があるんだと思う。
じゃあ、あみ子はこのあとどうやって生きていけばいいんだろう。
不寛容な社会の辛さを感じました。

評価

視聴後の評価は☆☆☆☆☆☆☆★★★(星7つ)
すごく衝撃的な映画だった。
映画の良いところであり、悪いところは、自分で操作できないこと。
本だったら自分のペースで読み進められるし、全ては自分の想像力だから、辛いことがあってもいったん休んで別なことをすることができる。
映画って、否応なく前兆なしに突きつけられて辛い。
今回の映画は、怖くないし、悲しくないけど、ただただ痛くて辛い映画でした。
周囲と自分の成長の違いで、自分にもこういうあみ子みたいな悲しい経験があったのかもしれない。
忘れてしまっている方が幸せなのかもしれないな。

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