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昭和のガキ大将 一おばん池の攻防一 第2章『仕返し』

           全4話

第1話
 「ええやんけ。」
 その中の一人がいきなり陽ちゃんを突き飛ばし、箱から無理やり一個掴むと、池に向かって「爆弾や〜。」
と言って投げつけました。
「おもろ〜。」
「俺にもやらせろ。」
と、二人目がやり、すぐに全員が次々に泥団子を池に向かって放り投げました。

 泥団子は放物線を描き、水面に落下したり、蓮の葉の上に落下して砕けたりして、次々にその数を減らしていきました。「くっそ〜。」
 尻もちをついたまま涙を浮かべて悔しがる陽ちゃんを見て私は怒りが爆発しそうになりましたが、なすすべがありませんでした。

第2話
 そのとき、土手からひょっこりと強い味方が現れました。
 堀川君です。
 堀川君は、私達より二学年上で大変頼りになる人物です。腕っぷしが強いというのではなく、知恵の人でした。同学年のみならず、下級生からも信頼されるリーダーでした。
 私達の窮状を救ってくれるにはうってつけの人物が現れたのです。
 私達は堀川君に、ことのあらましを伝え、この悪行をやめてもらえるよう交渉してほしいと頼みました。 
 話を聞いた堀川君は、にこにこしながら思案していました。「堀川君ならきっとよい手を考えてくれる。僕たちの泥団子を守ってくれる。」
 私達は、祈るような思いで堀川君を見つめました。

 ややあって堀川君は、
「ちょっと無理やなあ。」
と、申し訳なさそうに言いました。
「あいつらに話が通用するとは思えん。」 


第3話
「堀川君でもだめか。」
 確かに、こいつらのやってる様子を見れば無理もありません。大人でないかぎり、こんな連中の悪行を止められるはずはありません。
 私達三人は、いつやめてくれるかとはらはらしながら、次々とおばん池へ消えていく大事な泥団子を見守ることしかできませんでした。

 しかし、奴らは泥団子投げに飽きたのか、今度は別の遊びを始めました。
 板切れに乗って池の東側の、雑草が一面に生えた土手を滑り降りる「そり遊び」を発見したのです。
 土手の途中はところどころ瘤になっている部分があり、そこへ板の先端がぶつかると、乗っている者は皆空中へ板ごと投げ出され、土手をころころと転がっていくのです。
 奴らはこの遊びが大変気に入った様子で、「登っては下り、登っては下り」を繰り返していました。 

第4話
「半分は残ったで。」
 陽ちゃんは、生き残った泥団子を見てほっとしたようすです。
「くっそ〜。」
 私は怒りの方が大きく、こいつらをぎゃふんと言わせたい思いでいっぱいでした。
 衝動的という言葉はこのときの私の行動にピタリと当てはまります。
 いきなり、残った泥団子をつかむと、土手の上から奴らめがけて投げつけました。当たったかどうか、そんなことはどうでもよかったのです。
 とにかく残った泥団子すべてを使って「仕返し」をしなくてはおれなかったのです。
 もう無我夢中で、次から次へと泥団子を奴らに向けて投げつけました。
 すると、陽ちゃんも、続いて大人しい哲ちゃんまでもが泥団子を投げ始めました。
 遂に泥団子はなくなりました。
 私は、泥団子を入れていた木箱を頭上に持ち上げ、とどめに奴らのいるであろう方向へ思い切り放り投げました。
「逃げるぞっ!」

  
          第2章『仕返し』完


 

 



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