見出し画像

名前を呼ばれても返事をしてはいけない

幼稚園ぐらいの頃から、親戚に「誰もいないのに名前を呼ばれたり、体を触られたりしても、振り向いたり返事をしてはいけない」と何度か言い聞かされてきました。
返事をすると幽霊が憑りつくのだそうです。

従姉妹の体験:老人の声

小学生の頃、従姉妹からもそういう体験をしたと教えてもらったのを覚えています。

従姉妹は当時、おそらく築20年以上の隙間風が吹くアパートに母、母の妹と住んでいました。ベランダがあって、そこから下は崖のようになって林が見下ろせる構造です。

私と年が近い従姉妹は同じく小学生でした。
日曜日の昼ごろ、寝室で昼寝をしていた従姉妹は目を覚ましてリビングへ行こうとしました。
すると背後から名前を呼ばれました。老婆の声だったそうです。
「何気なく孫の名前を呼ぶおばあちゃんみたいな感じ」と言っていました。

従姉妹の背後にはベッドと箪笥、窓がありました。
直感で「窓の外から話しかけられている」と思ったそうです。
しかし窓の外に人間が立っていられるようなスペースはありません。しかも崖です。

何度か繰り返し名前を呼ばれたそうですが、従姉妹は振り向かず、そのまま寝室を出ていって、何もなかったことにしていたら自然と声は聞こえなくなったそうです。
怖くなかったから、そのままでいられたと話していました。

私の体験:子供の声

そして私も小学生のころ、同じ体験をしました。
運動会の前日です。祖父母の家から帰宅するために路線バスに乗ったら、経由地が違うバスに乗ってしまって、しかも居眠りをして、昼過ぎに殆ど見覚えのないバス停に降りてしまいました。

携帯電話もなく、なけなしの小銭は全てバスの運転手に渡したので、公衆電話で親に電話をすることもできません。ズボンのポケットの中には常に持ち歩いていたゲームボーイアドバンス(ミルキーピンク)だけが入っていました。

「なんとなくここをまっすぐ行って、Y字の交差点が見えたら坂道を登ると家に帰れるかも」というおぼろげな記憶だけが頼りでした。
門限を破って帰宅したとき、母親にめちゃくちゃ怒られたのを思い出して、とにかく帰らなければ!と焦りました。

ときどき通りすがりのおじさんやおばさんに「なんで一人で歩いているの?」と怪訝そうに聞かれました。
今になって思い返すと、たしかに子供が一人で歩くような場所ではありませんでした。

そして坂道を上っている時、どこか遠くから「ユリ~~!!」と大声で呼ばれました。同級生くらいの子供の声でした。
え!? と驚いてキョロキョロしても、見知った顔はありません。
気のせいかな、と思って再び歩き続けると、また同じように「ユリ~~!!」と呼ばれます。
しかしどこを見渡しても子供らしき姿はいません。

そういえば、昔通っていた幼稚園がこのあたりだったかも……?
もしかしたら昔の友達がここら辺に住んでいて、偶然私の姿が見えて、大声で名前を呼んでは物陰に隠れるイタズラをしているのかもしれません。

そう考えて、当時仲が良かった友達の名前を思いつく限り「○○~~?▽▽~~?」と聞き返してみたのですが、それには返事が全くありませんでした。

冒頭でも述べた通り、私は運動会の前日にバスを乗りすごしてしまい、徒歩で家に帰らなければいけませんでした。
友達が物陰でクスクス笑っている想像が頭に浮かんで、これ以上イタズラに付き合ってられるかよと思った私は、そのあと何度も名前を呼ばれましたが無視して歩き続けました。

結果的に帰宅したのは21時で、母親は捜索願を出しており、リビングには警察官が二人ぐらい仁王立ちしていて、ちゃぶ台には顔を真っ赤にして号泣する母がいました。
怒られるとばかり思って"覚悟"を決めていたのですが、存外に母が優しくて、え?いいの? と拍子抜けした記憶があります。あと、あんなに泣く母を見たのも初めてだったのでどぎまぎしていました。

母曰く、
私の素足が車の排気ガスだかアスファルトの煤だかで薄汚れて、ゴムサンダルのソールも擦り切れかけて、怒られるんじゃないかとビクビクしている娘の姿を見たら怒る気にもなれなかった とにかく安心した 
とのことでした。

今でも私の名前を大声で遠くから呼んだのが誰だったのか、全く分かりません。
たしかに昔通っていた幼稚園はその近くにありましたが、昔の友達が隠れていた証拠はありませんし、そこは戦没者の埋葬地、古い史跡、事故物件といろんな曰く付きの場所が存在する場所だったので、もし幽霊のせいにするのならなんとでも理由が付けられます。

ただ、今になって思うと、当時証言した人の言葉を信じるのであれば、
「あの幽霊」に名前を呼ばれたんじゃないかな、と思っています。
(その話についてはまた後日書きます)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?