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あなたの本が読みたくて③

前回からの続きです。

ジェーン・スーさんの『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』の冒頭に、「成功例から成功法を見出したところで、万人が成功できるわけではない」とあります(2ページより)。確かにそうです。Who HQ Booksや「こんな生き方がしたい」シリーズの読了冊数を重ねていった私も、探していたのは「成功のヒント」ではなかったように思います。自分と共通項がある他人ひとが、思うようにいかない時期にどうあがいたかを知って共感したい。その共感が、顔を前に向けるための勇気に変わるような気がしていました。「自分との共通項」はいろいろありますが、同性であることはその筆頭でした。

『闘いの庭』はインタビューエッセイと称されており、スーさんとインタビュイーとのやりとりの部分と、スーさんによる略歴、人物評、エッセイとが絶妙にからみあってひとつの章に仕上がっています。スーさんが前々からずっと感じていたことや「本当のところはどうなのかな」と思っていたことなどをインタビュイーに問いかけているので、メディアのコンテンツでふだん私たちが見ているのとは少し違う横顔が浮き上がってくるように感じました。

13人のインタビューのなかから、特に心に残った部分をいくつか抜粋させていただきます。

「役は、私自身ではないから。役を軸に考えれば、そのキャラクターのやりそうなことはなんとなく想像がつく。でも私自身は、いまだに自分が何者かもわかっていない。わからないものに対してはコメントができない。自己肯定感が低いんです」
 にわかには信じられないが、威風堂々とした俳優・吉田羊の「中の人」である本名の彼女は、自身の優れた能力にすこぶる懐疑的だ。手ごたえのある仕事を成しても、それが完全に払拭されることはないという。

90ページ(吉田羊さん)

「不安定さが私のいいところなんです。感謝はしても満足はしないから、燃料を燃やし続けられる。もがいている気配があったり、匂いがしたり、幸せそうに見えて、実は100%幸せではないところが私の魅力なんです。美容って生々しいもので、コンプレックスや、見返してやろうという気持ちから生まれます。私もそうなので、そこは共有したい。それでいいんだよと。私が完璧だったら、ここまで私のことを応援してくださる方はいないはずなんです」

214ページ(神崎恵さん)

 なにがあろうとも、最終的には自分に利を生む経験だったと腹落ちさせられる人は、必ず歩を前に進められる。うらみがましさを手放せるようになるまで、私は自分に成し遂げる力があると信じることができなかった。攻撃翻弄の対象としてしか自分の存在理由を見出だせずにいる人が前を向くパワーを、人は後天的に養うことができるのか。
「とても難しい質問だと思います。(中略)頑張れば、上に行けるという話じゃないんですけどね。そもそも、上に行くアクションのイメージ自体が間違えてると思うんですよ。抜けるのは上じゃなく、左右どっちか」

231-232ページ(北斗晶さん)

「この先も、どうせ周りが文句を言って私を汚したりするに違いないから、絶対に自分で自分に汚点をつけてはいけない。どこまでも自分を正しくかわいがってやろうと思ったんです」

244ページ(一条ゆかりさん)

環境に恵まれた特殊な例ではあるが、現在の辻は、日が当たりづらかった在野の女性を全力で肯定する存在だ。好きな格好で家族のケアに取り組むその姿は、母親だからと世間の期待する像に囚われる必要はない、家事や育児も社会的評価に値すると、数多の女性を勇気づけている。

159ページ(辻希美さん)

スーさんの言葉で語られる13人の女性たちの半生を読んで、とても励まされました。

1冊を締めくくる下記の「おわりに」の言葉を読んだとき、私は自分の貧弱な根っこや茎やいつまでもほころびを見せないつぼみに辟易していたのだと気がつきました。本書はそんな私を適切な場所に植え替え、ほどよい肥料と十分な水を与えてくれたように思います。

 決してあきらめない。自分を信じる。誰もが耳にしたことがある言葉だ。
 生真面目な人ほど、まったく心に響かないのではないだろうか。もしくは、自分とは無関係な絵空事だと思ってしまう。そして、できない自分を責める。
 自分を信じられないのは、私たちに気力がないからではない。あきらめずに信じるやり方の具体性に欠けるからだ。実用的な技術や方法を示すサンプルが、女の場合は少なすぎる。
 だから私は、自分の居場所を作り出す女の話が欲しかった。不当な扱いへの忍耐や、他者への献身や、コミュニティのための自己犠牲を讃える物語ではなく。エキセントリックに周囲を振り回す女、運命にひたすら翻弄される女、男を破滅させるファムファタール。そういう話も気分ではなかった。一面的過ぎる。
 私たちと同じように、ままならず毎日を騙し騙し生きる女が闘いの庭に植えた一粒の種に絶えず水をやり、芽吹いたら日の当たるところへ苗を移し、少しずつ少しずつ花を咲かせるまでの日々。私が知りたいのはそういう話だった。

266-267ページ

「自分の足でしっかり大地を踏みしめていた」(4ページ)女性たちのなかからスーさんは13人を選び、この本を出版されました。成功や貢献や結果ではなくて「大地を踏みしめていたか」が問われるのだとしたら、私は自分もそのひとりになれるよう前に進んでいきたい。ひょろひょろな根っこや茎を叱咤するばかりではなく、どうやったら太い根をしっかり地中に張れるかを考えていきたい。その結果、なんらかの花が咲いたとしたら最高です。

そういう気づきを与えてくれた13人の女性たちとスーさんに感謝しています。

お読みいただきありがとうございました。

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