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あなたの本が読みたくて①

伝記や歴史小説やエッセイを読むのが好きです。

どうして他人ひとの物語を読みたくなるのか。純粋にその人のことを知りたいから。その人が生きた時代に興味を持ったから。自分とはかけ離れた人生をのぞき見たいから。ロールモデルがほしいから。共感したいから。結果を出す姿を見てスカッとしたいから。違う時代、違う国、違う生い立ちの人生を想像したいから。後押しがほしいから。こんなふうに、ただ「本を読みたい」のとはちょっと違う理由が自分のなかにあるときもあります。

子どもと一緒に図書館に行って児童書コーナーを眺めていたときに、マンガ家・里中満智子さんの伝記が目に留まりました。

子どもが見ていたのが「工作」の棚で、分類番号の近かった「漫画、挿絵、 童画」の棚に、その本がたまたまあったのでした。

里中さんのことはお名前を聞いたことがある程度で、恥ずかしながら作品を読んだこともありませんでした。でも、子ども時代に読んだ伝記シリーズには含まれていなかった現代女性の、しかも漫画家の半生が1冊の本になっていることに興味をひかれ、借りることにしました。

体調不良も押して描き続ける里中さんの漫画への情熱・執念は触れたらやけどしそうなほどすさまじく、「自分と桁違いすぎて、お手本どころか参考にするのも畏れおおいほどのお人だ」という感想を持ちました。当時のしょぼくれていた自分には、里中さんのエネルギーは激烈すぎたのかもしれません。ほかの人はどんな働き方をしていたのだろうと思い、この「こんな生き方がしたい」という伝記シリーズをさらに読んでみることにしました。

取り上げられている女性は、国籍も仕事もさまざまでした。同時通訳者の鳥飼玖美子さん、国際ボランティアの星野昌子さん、今年鬼籍に入られた公務員の赤松良子さん、看護婦の宮崎和加子さん、先月『日曜美術館』で特集されていたメイクアップアーチストの小林照子さん、保育士の小松ゆりさん、そしてレイチェル・カーソン、ココ・シャネル、オードリー・ヘップバーンなど(職種の表記は各書タイトルにならいました)。生い立ちから天職につくまでの紆余曲折、社会人になってからの奮闘、綱渡りのような家庭との両立などが時系列につづられていました。家族との確執や、仕事で悩む姿もありました。幼いころから明確な目標を持ち、戦略的に階段を上っていく人がいる一方で、進路が決められず、流されていった先で目の前のことに取り組んでいくうちに成果を上げた人もいました。

「生き方」シリーズは1990年代終わりから2000年代半ばにかけて全20冊刊行されていて、主人公が全員女性なら執筆者もみな女性です。版元の理論社の公式サイトにはもう情報がなく、はっきりしたことはわかりませんでしたが、「女性による女性のための女性の伝記」シリーズとして作られたのではないかなと推測します。ご本人からの聞き取りに基づいていると思われる記述もあり、取材して制作されたノンフィクションの趣もあるのが興味深かったです。巻末には同じ職を目指すための具体的な道筋や情報源も紹介されていて、小学校後半から高校生くらいまでの女の子が本棚でふと出会えたら、進路の考え方に奥行きが生まれそうなシリーズでした。

今世紀に入ってからもご活躍されていた方が大半で、歴史の教科書に出てくる偉人よりずっと親近感がありました。でも、みなさんの働き方も功績もあまりにずばぬけていたため(だからこそ書籍になっているわけですが)、共感というより尊敬の念が強く残りました。

たぶん、そのころの私は、自分と共通項がある他人の等身大の姿をのぞかせてもらって、思うようにいかない時期にどうあがいてそこを通り抜けたかを知り、共感したかったのだと思います。

次回に続きます。お読みいただきありがとうございました。


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