空のこども
母が亡くなって
もう一度、そう思っただけだった。
わかっている。
一般的にはそれは理由にはならないということ。
母が空にのぼっていく時に
一番いい餞だと思った。
もうひとつは、ただ辛くて辛くて
考える時間をなくしたかった。
この相反するふたつの理由が
どちらも本当だからこそ
人間って難しいのだろう。
母を送って
また次の公演で
母に笑顔を魅せて
そうしてそれで十分だ。
何かが混ざるともう駄目なのだ。
透明な水の中の一滴の絵の具。
わたしは
水でなければ
芝居をやれない。
だから実は今もう
芝居をやれる状態じゃない。
でもやる。
きっとやれる。
それはこれで最後だからだ。
混じり気があるのは
わたしではない。
お客様に向き合って
いたらないと感じる
その清潔さを
最後まで貫く。
不器用で
無意味に正直に
不可思議に無欲で
何のために誰のために
芝居をやるのかもわからない。
理屈をこねては苦しみ
もっとただ楽しめばいいのにと思う。
それが出来ない。
世界で一番大切なものには
わたしはどう接していいかわからないのだ。
愛している。
だからこそ、遠くなる。
たからこそ、自分などとうそぶく。
そして、遠くから見つめている。
脚本の中に埋没し
言葉と心の中に埋没し
すべて忘れてしまおう。
わたしが演劇をやるべきなのかどうかは
そこに書いてある。
わたしは何のために生きているのかは
そこに書いてある。
わたしは空のこどもで
そのこともちゃんと書いてあるから。
今流したい涙が
流れたときはじめて
わたしはわたしの
本当の気持ちを知るだろう。
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