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弱さ面談室

今日は久しぶりの本番である。
小さな、まだ本格的な客入れはしていないけれども、本番は本番だ。

今日まで約束していたことがあった。

わたしの中にある、色々な弱さ。
それがひとつひとつ湧き出て来たときに
全部ちゃんと納得するまで対応する
ということだった。

それを昔は出来なかった。
台詞の確認を死ぬほどやりたいこと。
舞台の出はけや、動きの合わせもやりたいこと。
役の掘り下げや、背景の文献を読むことも
もっともっとやりたいこと。
それらを完璧にしないと、不安で堪らないこと。

言えなかった。昔は。
プロなんだから、そんなこと言っちゃ駄目だ。
しかも主人公を任せていただいている身分で
弱音なんて吐いちゃ駄目だ。
出来ない=恐い=無能な俳優。
そう思いこんでいた。

人には優しく出来るのに
自分にはいつも
冷酷でひどい扱いを繰り返していた。

なんで、出来ないの?
なんで、まだ恐いの?
なんで、ミスするの?
なんで、なんで、あなたは
そんな感じなの?

それが心の声。
わたしの心の中は当時
世界で一番殺伐とした場所だったろう。

改めなくてはならないのだ。
間違っていたから。
自分のことだからいいではない。
自分もある意味では他者だ。
悪いことをしたら謝り
態度を改めなくては。

わたしはわたしの弱さ面談室をつくる。
それぞれの弱さが訪ねて来たら
ちゃんとお茶を出して、話を聞く。

そうして、解決策が見つかるまでは
他のことを優先したりしない。
一緒に悩み、一緒に立ち止まる。

恐いことを一緒に恐がり
出来ないことを一緒に練習する。
自分なのだから当たり前ではないのだ。

わたしはかつて
自分を喪失し、自分と再び会えるまで
こんなに長い時間ひとりだった。

おかえり。
弱さや不安や、恐がりや泣き虫や
わたしの中に棲んでいる
わたしたち。

これからは共に行こう。

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