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文の主語に「は」と「が」のどちらを付けますか?

「は」と「が」は文の主語に付けることができる助詞ですから,どちらも同じように使えそうですが,両者は少し意味が違うので,使い分けるほうが良いと思います。
例えば,むかし話を始める際に,よく次のような文を用います。
「むかしむかし,あるところに,おじいさんとおばあさんが住んでいました。」
このような場面を表す際に,以下の文のように「が」を「は」に変えて述べると,どのような印象を受けるでしょうか。
「むかしむかし,あるところに,おじいさんとおばあさんは住んでいました。」
ちょっと違和感がありませんか。「が」を使った最初の文で述べている「おじいさんとおばあさん」は今初めて登場してきて,その存在を印象付けているように解釈できます。一方「は」を使った次の文では「おじいさんとおばあさん」は,もうすでにどこかで登場していたような,初めてではないような印象を受けます。しかし「むかしむかし,あるところに…」という始まりを考えると「おじいさんとおばあさん」は初めての登場になるのが論理的です。よって,初めて登場する主語には「は」ではなく「が」を使うのが適切ということになります。

そして,登場した後は,どちらを使うかによって,読み手に伝わる印象が変わってきます。次の文のように「は」を使うと,自然な流れを感じます。
「むかしむかし,あるところに,おじいさんとおばあさんが住んでいました。 …. ある朝,おばあさんは川へ洗濯に出かけました。」

しかし,ここで「は」の代わりに「が」を用いると,その自然な流れがなくなります。
「むかしむかし,あるところに,おじいさんとおばあさんが住んでいました。 …. ある朝,おばあさんが川へ洗濯に出かけました。」
この文では,読み手は「いつもならおじいさんが洗濯に行くのに,この日はおばあさんが行った」ということを秘めているような印象を受けると思います。また,以下の文のように,洗濯に行ったとき,いつもと違うことが起きたことを述べたい場合も「が」のほうが良さそうです。
「むかしむかし,あるところに,おじいさんとおばあさんが住んでいました。 …. ある朝,おばあさんが川へ洗濯に出かけると,川上から大きな桃が流れて来ました。」

以上のように,通常どおりではないことを述べるとき,新しいことを述べるとき,強調したいことを述べるときなど,読み手が予想できる文脈の流れを変えたいときに「が」はとても有効です。

日本語の文の主語に関しては,主語はないとする三上章説や,ガ格と二格を伴うものは主語に相当するなど,文法論的には色々な考え方があるようですが,とりあえず,単純に述語の表現とかみ合うものを主語と考えて話をしてみました。


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