元カノに会いに行ったガイコツの話

それはそれは鬱蒼とした森の奥深く、小さなお墓にガイコツが眠っておりました

とある1日、眠っているのにもとうとう飽きたようでムクリと起き上がると長い夢の中で思い出していた元カノに会いにいこうと思い立ったのです。

長い間、眠っていたガイコツ、足を動かすのも一苦労、コツコツと歩み出しました。それは長い夢の中で共にしていた元カノに会いにいくため彼にとっては一念発起の気持ちでした。

彼女が住む街に辿り着いたや否や、それは久しぶりの浮世。人々は彼を不審そうに見つめておりました。それでも彼は彼女と会うという一心で彼女の家までコツコツと歩いてゆきます。

青い草原の中に佇む小さなお家、黄色い窓から彼女を覗くと彼女は手紙を書いておりました。
彼は、その昔のように指をカチンと鳴らし、1回転して頭に被る帽子をさらいお辞儀をすると、彼女はすぐに彼だと分かり小さな廊下をくぐり抜け外へと出てきてくれました。

久しぶりね
彼女は相変わらず可愛い笑顔で彼を出迎えました。彼はただ嬉しくて恥ずかしくておどけた表情でカチリと笑います。

2人はレストランへと向かいます。彼の硬くなった白い手をみても何も驚くことはありませんでした。彼女は彼の手を取ると、彼の指は取れてしまいそうでしたが包み込むように優しく手を取り、よく行っていたイタリアンレストランへ

今日はどうする?パスタ?あの好きだったピザまだあるかな
彼を促すと、彼女の食べたいものが食べたいというようにコツリコツリとしています。
定番のカルボナーラとミートピザ、そして赤ワインをグラスに一杯。
彼は昔よく食べていたイタリアンを美味しそうに頬張ります。パスタは彼に絡みつき、赤ワインは彼の体をくぐりぬけすべて床にこぼれてしまいます。

美味しいね!
彼女は彼の食べ方には何も気づかないような、今まであった楽しい出来事や仕事のことなどを話しています。
彼女のおもしろい話を聞いているとなんだか今まで眠っていたことも忘れてこのひとときを楽しむことができました。

昔歌ってたあの曲歌ってよ!
2人はカラオケへと向かったみたいです。彼は得意気にマイクを握ると曲の出だしから大声で歌います。
もちろん、カラオケルームにはBGMだけが流れているだけ
彼女はそれでも彼が歌っている姿を微笑ましく眺めているのでした。

街の丘からは美しい夕陽が煌びやかに現れます。2人は丘のテッペンへ登り、昔のように肩を並べ青い芝生の上で腰をおろしました
2人を美しく灯す夕陽、2人の影はどんどん伸びていき丘を越えていきそうな勢いでした
彼は彼女の夕陽眺める凛と美しくも愛らしい顔をギタっと見つめ、見えることのない夕陽を眺めるのでした

すっかり二人の影で埋め尽くされた街の中心には光輝く一つのホールがみえます。
2人は誘われるままにそのホールへと入っていきます
大きなステージ、良い感じのブルースやジャズの音楽の生演奏が響き渡るホールにはたくさんの人が食事を楽しんでいます。

ねね、ちょっと手を貸して
彼女は彼の手を取ると、大広間の中心へと彼を引きづり、体をリズムに合わせていきます
彼もだんだんとコツを掴んできました、ベースやドラムに合わせていくと仕舞いには彼女をリードしていきます
クルリと1回転する彼女をみると、とても満足そうな笑みを浮かべるのでした
食事を楽しむ周りの人々は嬉しそうに彼らを眺めると、次第に手拍子が巻き起こります。
彼がステップを踏めば、彼女がそれに応えていく、そして体を右左に振り、大広間に揺れる彼ら
そして曲が終われば拍手喝采

彼を顔を少しだけ傾けながら彼女の唇へと顔を近づけました

また今度ね!
彼女は満足そうな笑みを浮かべながらそう言うのでした

2人はホールを後にしました。
彼はダンスが終わっても彼女をエスコートしていきます。

青い草原の中に佇む小さなお家、黄色い窓から彼女はこちらに向けて手を振っています。
彼は、その昔のように指をカチンと鳴らし、1回転して頭に被る帽子をさらいお辞儀をすると、彼はすぐに大きな草原を背にコツコツと歩いていきました。

これからどうしようか、彼は実はとても悩んでおりました。このままこの街に住むことができるのかと。そう考えた時に彼は鬱蒼とした深い森の中へと消えていきました。

おしまい

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