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日記2/1 皇帝の日記から考える塞翁が馬


(碌でもない! 人間とは碌でもない!)


罵倒を文学的に抑え込んだ結果のフレーズ。

顔を火照らせ足早に歩く。
酷い仕打ちを受けたのか。
目頭が熱くなるのを感じる。

人間万事塞翁が馬、
というが

今の気分は
人間万事、災難か不満。

天は人の上に人を作らないが
先を行く者の上に後の者が連なるので
スイカゲームが如く、
後者は大きな者の隙間に生きるしかなく
ゆっくり己が大きくなるか
邪魔なスイカが早く破裂しないものか
果実のようには甘くない人生を生きていく。


それはそれとして

今日は他人の日記を読んだ。
100年は昔の有名な方の日記なので
誰だか想像しながら読んでほしい。


いつものように散歩。
日中、昨日と同じ場所で作業した。
二本のモミノキを切り倒して、薪をつくった。
それから夕食まで三十分、菜園で過ごした。
晩に『アルセーヌ・ルパン対シャーロック・ホームズ』を音読した

この120年前の人物、
日々の長閑な姿を想像させる言葉。
その本、面白いですよねと
当時コメント欄のあるブログ日記があれば
そんな回答が見られたに違いない。

文学好きは本のタイトルだけで
相手に共感性を抱いてしまう。
ホームズ、三銃士、アンナ・カレーニナ。
レ・ミゼラブルの作者ユーゴーの
「93年」も読んだそうだから
感想をきいてみたかった。

しかし前年には

ペトログラードからグチコフとシューリギンが到着した。
私は二人と話をして、推敲し、署名した宣言文を渡した。
この体験に重苦しい気持ちを抱きながらプスコフを去った。
周囲は裏切りと小心、それに欺瞞だけだ

という、
実に書くのを躊躇する
周囲への不満を言葉にしている。
更に遡れば

人力車で同じ道を通って帰途につき、道の両側に群衆が並んでいた狭い道路を左折した。
そのとき、私は右の顳顬に強い衝撃を感じた。
振り返ると、胸の悪くなるような醜い顔をした巡査が、両手でサーベルを握って再び切りつけてきた。  とっさに『貴様、何をするのか』と怒鳴りながら人力車から舗装道路に飛び降りた。
変質者は私を追いかけた。
だれもこの男を阻止しようとしないので、私は出血している傷口を手で押さえながら一目散に逃げ出した。

大津事件の記述がある。
海外で相手国の護衛に襲われる。
そんな急死に一生を得た
サスペンスでフィクションな
けれど実際にあった話。

人生は塞翁が馬というけど
最初の慎ましく幸せな情景の
その前後には闇が挟まっている。

ニコライ2世は
ルパンとホームズの戦いを読んだ
その一年後に一家で処刑された。
最後の日記には

気候は暖かく快適だ。
外からのニュースは何もない

保田孝一「最後のロシア皇帝 ニコライ二世の日記」 講談社


と記されている。
私なんかより余程
日記と向かい合った人だと思った。


私も今日は前半に
個人の日記らしく
愚痴を吐いてみたものの

それは万事塞翁が馬。
この苛立ちもまた

よくなる吉兆か
あるいは凶兆か

先のことは分からないが
それはそれとして

人として最低限、
夜に本を読める生活を
送りたいと思う夜に浸かったせいか

私の怒りは喉元を過ぎ去ったらしい。
折角遠くに行っても、戻ってくるかもしれないが。

そのときは
次は、

ついでに
立派な馬を引き連れてきて欲しいものだ。


引用文献
最後の皇帝 ニコライ二世の日記、保田孝一

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