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日記1/12 金斧は風呂で赤くなる

風呂というのは
人類に残された最後の砦だ。

この周囲から監視される社会で
自ら一糸纏わぬ姿となるとき
脱いだのは服のみでない。

社会の鎖から解放され
責任や虚飾を脱ぎ去り
ただ己のみの存在になれる瞬間は
それはアダムとイブが葉で身を隠してから
随分久しい経験だ。

スマホも浴槽には不要。
隙間時間に盲目的に眺めていた液晶は
ここにはない。

社会やネットから切り離され
プライベートな日記すら世間と繋がる現実と
その身を完全に隔てることとなる。

目を閉じ
浴槽に深く沈み込む
光という情報すら邪魔なら
部屋の電気を消しても良い。

暗闇と温かに波打つ水面の世界は
原初の海しかなかった神話の時代へ
この風呂場で漂う己の意識を誘う。

ギリシア神話のヘルメスの湖に
斧を落とした木こりは
正直さゆえに
金と銀の斧を授けられた。

紀元前のイソップ寓話の神は
いつしか日本で弁財天などと混ざり
湖に住む女神と変遷したけれど

私もまた浴槽から立ち上がるとき
別の何かに変化しているのかもしれない。

それが金か銀か
はたまた湖の女神か
変わり映えのない元の斧か
振り向けば斧を持った「サイコ」の殺人犯か

分からないけれど、言えることはただ一つ。

人間は長湯に向かない。

例えメロスでなくとも
長湯にいれば
裸の身体は顔まで真っ赤に染まってしまう。


それはアダムやイブのせいでもあるのだろう。
長く裸でいるほど赤くなる
というのがその証拠だ。

たった1人でも
肉体は恥ずかしさを覚えているらしい。

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