てきとうなシリーズ②片付け
「早く片付けしなさい!」
今晩も母親の怒声が響く。どうしてこんなに片付けというものは面倒なのだろうか。散らかすのは楽しいのに。
ぼんやりとそんなことを考えながら、少年は溜息をついた。少年がこの世で一番嫌いなこと、それは片付けである。
片付けとは、ただ棚に入れるだけではない。まず何を捨てて、何を取っておくのか決める。仕分けたものは、どうやって収納するのか考え、必要な棚は買い足していく。
この工程を踏むだけでも面倒なのに、片付けるべきものはどんどん増えていく。
加えて、1ミリも楽しさを感じない。この世にこんなに面倒なことがあるだろうかと思うと、少年の身体は沢山の排気をしたくなる。
下を俯き、無言でいると、母親が次の追撃を始めた。
「本当にどうしてこんなに汚せるのか、気がしれないわ。明日、ゴミ出しの日なんですからね。今日中にやってちょうだい」
勢いよく部屋のドアを閉めて、母は居なくなった。
一瞬だけ、ホッとした少年だったが、片付けを思い浮かべて、また憂鬱な気分になった。
今日は友達と出掛ける日だ。行く気分になっていたのにと残念な気持ちになる。
だからといって、母親の指示を無視する訳にもいかない。これ以上怒らせると、後が面倒なのだ。
この世で一番苦手なもの、それは母親である。
素早く片付けが終わる方法はないかと頭を悩ませていると、咄嗟に一つ良い考えが浮かんだ。
「これなら遊びに行けるか!」
早速作業に取り掛かった。
*
夕方、友人との用事から帰宅して、母親の逆鱗に触れることとなった。
「なんでこんなにゴミがあるの!どんな片付けしたの⁉︎」
「え、だって母さん、明日ゴミの日だから早くしろって言ったじゃん」
「は?」
「だから、全部捨てることにしたんだ。これなら片付けなくて良いだろう?」
1日かけて少年は"ゴミ"を部屋に戻すこととなった。
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