総務DXでバックオフィス部門の残業ゼロを実現する方法
世界的なワークライフバランスの流れが、日本に押し寄せてから早や数年が経ちました。年齢や性別を問わず、「働くすべての方々が、『仕事』と育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動といった『仕事以外の生活』との調和をとり、その両方を充実させる働き方・生き方」が求められています。
しかし、日本企業の多くは未だに長時間労働を是とする価値観を持っていたり、労働人口の減少もあり、「働き方改革をしなければ」と分かっていても、改善がなかなか進まない。
まして、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)なんていつになることやら、といった悩みを抱えているのではないでしょうか。
特にバックオフィス部門は企業経営を管理する役割を担っており、会社全体にかかわる重要な業務にあたります。DX活用によって変革し企業の競争力を強化していくには、業務の効率化は避けられません。
急激に変化する働き方に対応していくために、残業を含めた非効率なモノを洗い出し、どう改善していくかが問われます。
ここでは、残業ゼロというハードな目標を達成するうえで重要なポイントをご紹介します。
残業ゼロを実現する3つの必要性
・労働基準法による残業時間の上限が定められた
2019年4月に労働基準法が改正され、時間外労働の上限が規制されたため、残業時間の削減や残業ゼロを掲げる企業が増えてきています。
そもそも労働基準法によって、原則的な労働時間は一日8時間・週に40時間以内と定められています。
時間外労働が必要な場合は、雇用者と労働者の間で「労働基準法第36条に基づく労使協定」(通称36協定)が締結されなければなりません。
この労働基準法改正前、時間外労働の上限基準は告示されていたものの、労働者が上限を超えて働かされても、雇用者への罰則はありませんでした。
しかも、「特別な事情」がある場合、特別条項つきの36協定を締結すれば、上限を撤廃することすら可能だったのです。つまり、時間外労働の上限時間は、実質的に存在しなかったといえます。
しかし、労働基準法改正によって、時間外労働の上限が「原則として月45時間・年360時間」と明確に定められました。
「特別な事情」があり、労働者と雇用者が合意している場合は、時間外労働の上限を引き上げられるものの、以下の条件を守る必要があります。
違反した場合は罰則が適用されるため、事実上制限がなかった残業時間に、遂に制限がかかりました。
労働基準法改正によって、残業時間の上限が明確に決められたため、残業時間の削減、残業をゼロに近づける取り組みは、各企業でも徐々に進んでいるようです。
本音を言えば残業代を払った上で罰金も払いたくはない、といったところですが、利益を圧迫している昨今の資源高では企業の存続において喫緊の課題となっています。
・採用にも、離職率も
長時間労働が横行し、ブラック企業の悪評が立ってしまうと、それを覆すことは容易ではありません。
採用に不利なだけでなく、世論や企業経営面から考えても、優秀な人材を確保するための採用力強化の取り組みとして、残業削減はこれからは避けては通れないテーマとなりました。
しかし一方では、残業時間を減らすことで、残業代が減り生活が困窮するという従業員側の経済的事情もあります。多くは基本給もまだ高くない若い従業員が対象になってくるので、収入に対して残業代が占める割合が高く、残業をゼロにすることに対しての抵抗感が拭えないのが現状です。
ある企業では、このような意識を改革するため、残業ゼロを実現した場合には本来支払われる予定であった残業代分をその翌年度の賞与として加算して支払う、つまり残業をしない人に残業代を支払うことにしました。
また別の企業では、改善アイデアの募集を従業員から行い、優秀な案には対価を払い、応募者にも少なからず対価を払うなど、一定の削減効果はあったようです。
これにより、従業員の経済的な心配事は払拭され、残業改革が大きく前進し離職率の抑制にも寄与したそうです。
・企業成長の鈍化の要因。巡り巡って従業員の昇給や賞与に影響が…
また別の企業では原則、残業禁止にしており、そのため全ての業務に効率性が求められます。失われた30年が40年になろうとしており、感染症や戦争など強烈な外部要因がある中で、企業の生き残りは簡単ではありません。
売上が減っているのに、残業は変わらずあるというようなことが続けば、企業利益を圧迫し、巡り巡って従業員の雇用に影響が出始めます。
給料を下げ雇用を維持するのか、優秀な人だけを残し従業員を削減するのか、難しい経営判断を迫られます。その前に経営者や従業員がやれることはなにか、突き詰めていく必要があります。
残業ゼロという目標の達成は、従業員にどれだけ動機付けできたのかという点に尽きます。残業ゼロという経営目標を、単なる経営陣による会社のための目標としか捉えられていなければ、効果や成果はなかなかでないでしょう。
先に述べた事例のうち、改善アイデアを募集するという取り組みや、残業しない人に残業代を支払うという取り組みは、動機付けを与えるための有効な手段であるため、どのような企業が導入したとしても成果がでる可能性は高いと思います。
そして、一貫して大切なのは、それぞれの「目指すべき働き方」をイメージしながら進めることです。
あらためるべき習慣、残業ゼロを実現する4つのポイント
・タスクの見える化
実際にどのように働いているのかを記録することによって、働き方を可視化してみましょう。
本来優先すべき仕事にどのくらいの時間を使えているのかなど、働き方を客観的に把握することができ、働き方のクセや問題点など、たくさんの気づきを与えてくれます。
業務効率化の取り組みで最も重要な事が、仕事=タスクの見える化です。正確な勤怠管理も含めて、マネジメントの対象となる情報が見える化されていなければ、改善するべき業務に対して最適な対応も取りにくくなるからです。
従業員一人ひとりの生産性が、システムなど数値で見える化されると、その後の最適化が図りやすくなります。進捗を登録していくと自動集計され生産性の数値が表示されれば、生産性に対する意識が向上するはずです。
何をどこまでやれば良いか分かるというのは重要なポイントです。どれくらい生産性をあげれば良いか、先が見えないと心が折れそうになりますが、ゴールが見えていると頑張れるものです。
・無駄な仕事の廃止
生産性を高めるためにムダな仕事を無くしていくことは、基本中の基本です。ムダな会議や資料の廃止はその典型で、多くの会社で取り組んでいます。
例えば毎朝15分程度の進捗ミーティング。一見大したことに見えないかもしれませんが、実はこの15分が曲者です。積み重ねれば1か月で5時間前後も使っていますので、改善の対象として明らかです。
先に挙げた生産性管理システムや情報共有システムで、毎日最新の情報を誰でも見れるようになります。
問題点はその都度チャットで相談しながら解決も図れるので、確認のために毎朝誰かの話を聞いている時間がムダになります。その時間にもコストがかかっていることを意識できれば自ずと改善点が見えてきます。
よくあるのが、当の本人たちは真剣なつもりかもしれませんが、今までやっていたからという理由から惰性で定例ミーティングをやっていること。
以前は必要だったミーティングが状況が変わって今は不要というケースでも惰性で続けていたりします。対面のコミュニケーションを大事にしているという理由もよく聞きますが、定例ミーティングだけがコミュニケーションの場では無いはずです。
また、ムダな資料についても現場ではかなりあるのではないのでしょうか。それぞれ目的があるはずですが、その過程に至る無駄な手間や時間を、より深く考える時間やクリエイティブな時間に使いたいものです。
例えば会議資料などは印刷はせずに事前にデータで共有し、改善策だけを協議するなど会議時間を圧縮すること。時間はコストだという認識を持ちたいものです。
できれば定時出社・定時退社を実現して、健康・家族・社会・勉強などのために限りある時間を有効に使いたいですね。
人生100年時代。充実した生活を送る自分をイメージした時、今の働き方が本当に正しいのか、変えていけるところはないかを是非考えてみてください。
・RPAなど自動化
これまで手動で行っていた仕事を、RPAなどの業務効率化に有効なツールを積極的に活用し、システムで自動化しましょう。
そしてムダな仕事の廃止を決断するための検証も思いの外工数が掛かりますので、早めに取り組みましょう。
またその中でムダではない必要な仕事であっても人手を掛けるしかないのか、システムで自動化することで大幅にコスト削減できるのか、判断が難しい場合があります。
しかし毎日のように同じような定型的な作業をしているのであれば、システムで自動化できる可能性があると思って取り組んでみてください。
もちろん全部自動化というわけにはいきませんが、シンプルな機能からとか、簡単な作業から移行していくのがおすすめです。
また、仕事にはトラブルがつきものです。ある程度の「突発対応」は避けられませんが、それがあまりにも多い場合、仕事を非効率的にしてしまう大きな問題があると言えます。
ではなぜ、突発対応が多いのかをさらに分析します。タスクの振り分け方、作業の履歴などをつぶさに確認してみると、特定のメンバーのトラブルが頻発していて、そのフォローに追われていることがわかるかもしれません。
そのメンバーと共にトラブル要因を整理して、再発防止のための改善策を練り、実行する必要があるでしょう。
・標準化
廃止もできず、自動化も難しい仕事の場合は標準化することを考えます。標準化とはできる限り、誰もができる仕事に昇華させること。
つまり、属人化した仕事、業務量が多い仕事、担当者のスキルが追い付いていないことなどを防ぐことです。
仕事の標準化の方法としては、先ずはその人しかできない属人化された業務を無くしていくことです。
1人しか担当できない業務は他の人もできるよう勉強会を開いたり、教え合うかたちでグループ全員が共有できるようにすると良いでしょう。専属ではなく掛け持ちすることで、全体のスキルも上がり、属人化を防げます。
またマニュアル作成や教育によって標準化できる業務もたくさんあります。一見難しそうな業務に見えてもマニュアル化するだけで、実は誰でもできる業務に落とし込めたりします。また教育することによって他の人でもできるようにしましょう。
仕事を標準化するためには、仕事を細かく分解することも重要です。一連の作業だからと一人で作業するのではなく、細かいタスクに落とすことで誰でも行えるようにしておくと、属人化から離れてボトルネックの解消になるかもしれません。
ここまで、仕事の見える化、廃止の検討、自動化、標準化と、4つのポイントに絞り込んで見てきました。残業を削減することは決して不可能なことではありません。
しかし闇雲にやっても成果は表れませんので、正しい手順で進めていくことと、コツコツとPDCAを回すことが重要です。
そうすれば必ず、先ほどイメージした「目指すべき働き方」に近づいていき、「残業ゼロ」を実現することができるのです。業務効率化や多能工化を目標に改善を進めていきましょう。
それでも残る付加価値の高い仕事は、それこそ本来取り組むべき仕事ですので、業務効率化で浮いた時間とコストを集約して生産性を高めましょう。
仕事術とツールの効果的な利用
働き方を見直して業務効率を改善し、定時に退社できたら、プライベートの時間を有効に使えて嬉しいですよね。
残業削減はイコール残業代削減です。残業が推奨されない環境で定時退社を促されても、個人的にはどのようにして仕事を効率化すればよいのでしょうか。集中して業務を片づけ残業ゼロを実現するため、まずは基本的なことを見直してみましょう。
・朝一の時間の使い方と、帰る時間を決める
朝はメールチェックから始めるとか、タスクの整理・順番の変更など、一日の流れを整理することから始めると、仕事はスムーズに運びます。書類やモノの位置を決めておくことも有効な方法です。
自分に合った方法を探して試してみましょう。また帰る時間は、いきなり定時に帰るのは難しいので、18時が定時だとすれば先ずは19時に帰ることを目標にしたり、曜日によって変えてみたりと色々な仕事の整理術や方法を取り入れることで、残業ゼロのゴールが見えてくると思います。
・大きなカエルから
複数の課題や作業がある場合、必ず大きなタスクから取り組みましょう。
普段やっている仕事は手を付けやすく、片付けやすいから安心な感じがしてしまいますが、後に残る複雑で大きなタスクはずっと頭の片隅で存在感が膨らみ、残り時間が少なくなってから慌てふためいてやった結果、締切に間に合わない、ミスが生じてしまうなど、良い結果にはなりません。
小さなタスクは他の人にも振り分けたりするなどして、先ずこの大きなタスクから挑む癖をつけていきましょう。
その過程で煮詰まったり、他の進捗を待ったりする間に、他の小さなタスクを片付けていくと、無駄がありませんし精神的にも落ち着きます。
欧米では確か「大きなカエルから食べろ」(この場合は一気通貫でと記憶していますが)と表現されていたように、複雑で大きな課題から取り組むことで、後に残る不安や焦燥感が軽減されるからです。
大きな課題を達成するのに必要な、小さいプロセスを列挙することで、各プロセスにかかる労力や時間などを考えやすくなります。30分程度で片づくよう、さらに細かく分割していきましょう。
・タイムプレッシャー「ポモドーロ・テクニック」
タイマーで時間管理をするのも有効。細かく分割された各タスクに制限時間を設け、タイムプレッシャー効果でひとつの作業に集中できるため、効率的に仕事を片づけられます。
タイムプレッシャーを利用した集中方法としては、「ポモドーロ・テクニック」が有名です。「25分間の集中作業+5分間の休憩=30分」を1セットとするやり方で、電話や来客など外的要因によって仕事が中断されたり、メールチェックなど内的要因によって思考が中断されたりすると、作業への集中が途切れたとみなし最初から時間を計り直します。
短い時間で集中するには、上述でもありました通り、大きなタスクをを小さいタスクに分割しておくことが重要です。いわゆる分割統治法により大きな問題を、簡単に解決できる規模にまで小さく分割していくやり方です。
・ツールの選定
業務の効率性を高めるための手段として、ツールの活用を検討したり採用している企業は増えてきましたが、使いこなせないと効果が望めない場合もあります。業務内容によっても選択するツールは変わります。先ずは目的・ゴールを明確にすることが重要です。
仕事力を高めてくれるようなツールは無数に存在します。ルーティンワークの役割や、タスクやスケジュールを共有するためのツールがありますので、効率的に無駄をなくし残業を減らすために一定の効果はあると思います。
しかしながら、前述したとおり、残業ゼロを実現するうえで最も重要なポイントは、当事者である従業員への動機付けです。
そのツールの活用が動機付けにどこまで寄与できるのか、そういった観点での検証を行なったうえで、導入の是非を検討するべきでしょう。
などなど、全部説明すると長くなりますのでここでは割愛しタイトル的な紹介だけですが、従業員の協力もあってなかなか面白い取り組みをされている会社や、大胆な取り組みをされている会社など色々あります。
PDCAを回した結果、違う制度に移行していく会社もあります。しかしどれも本気で考えた結果です。
また、個人にスポットをあて、余裕のある人がこっそりやっている時間節約術を紹介したり、仕事ができる人の目的意識、優先順位、集中力、メリハリの使い方を学ぶだけでも、何かの気付きになる、一つの方法かもしれません。
まとめ
ある企業では残業ゼロを達成したところ、むしろ売上高も利益も増えたとのこと。残業代を受け取れなくなった従業員は、代わりに多額のボーナスを得られたそうです。
残業ゼロを目指すことによって、効率的に利益を追求しようという考えが生まれるということでしょうか。
残業をゼロにしようという動きが社内で始まると、仕事が終わらない、仕事を増やして利益を上げたい、といった理由を付けて不満の声が上がるものですが、本気で達成したいのであれば、「残業ゼロ」という目標に合わせて、見える化、廃止の検討、自動化、標準化と、4つのポイントに沿って業務を洗い出しPDCAを回していくことが重要です。
残業削減に未だ取り組まれていないのであれば、もう遅すぎるということはありませんが、一刻も早く取り組まれることをお勧めします。
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