見出し画像

【小説】おとぎ話の中で君ともう一度#24

第二幕 靴を落とした少女

21:西の塔

「夕焼け空」
と唱えた。
瞬間、先ほどと同じような光が地面から放たれた。


気が付くとやはり先ほどと同じように塔の中にいた。でも、目の前に広がっている景色が違う。
さっきは、黄金の台だったのに対して、銀の台。
それに、台の目の前に広がっている景色は、先ほどの森ではなく、静かな夜にひときわ輝いている王宮が見える。
私は、少しずつ窓に近づき迷うことなく扉を開けた。すると、一気に森の匂いに包まれ、柔らかい風が頬を撫でるようにして通り過ぎた。
私の長い髪の毛も風に揺られて、さらさらと揺れている。
ふと、視線を下に移すと、先ほどとは違って、赤い花が咲き乱れていた。
ほんのちょっとだけ気がかりだったことを、アルに聞いてみた。

「ねえ。アル。なぜ、この塔に入るときの呪文みたいなものは”黄金の塔”と”夕焼け空”なの?」
「ああ。そのことか。なんでも、塔の周辺に咲き乱れている花があるだろ?」

アルは、窓から少し身を乗り出して、塔の真下に咲き誇っている花を指さし、そこの花だ。といった。
「その花の名前なんだそうだ。そこは俺には分からねぇ。」
「そうなんだ。」
「ああ。そうだ。その花びら?かなんかわかんねぇけど、必要みたいだぞ。
お前の使命に。」
「えっ。そうなの。」
「俺にもわかんねぇことがあるから、詳しくは、その本だな。」
とアルは塔の赤い花から本に目を移した。
「そうだね。あっそうだ。ねぇ。この本、もらってっていい?」
「何言ってやがる。その本は、お前のじゃなくて、もうひとりのものだ。お前のは、お前で持ってるんじゃないのか?」
「そんな。。。。もってない………よ。」
私とアルの間にしんみりとした空気が流れ込んだ。
外の空気もさっきとは打って変わってひんやりとしたように感じられた。
「じゃあ、お前の身近なところを探すところからだな。。。。
見つかればいいんだが。。。。」
アルは、気難しく考え込むようにして、黙りこみ王宮を眺めていた。
その間、私は、ぱらぱらと本を読んでいた。
その物語の中の童話集は、この世界の文字で書かれていたため、文字は読めなかった。
挿絵で何となくわかるけど、これは、あの黄金の塔と花で、これは、私のつけているボタン、あと、これはなんだ?鳥?国旗か?分からない。。。
私は本当に世界を救うことができるのだろうか。
もし私がこの世界を救うことと同じくらい、この役目で失敗することが怖かった。
私にはできないかもしれないと、何度も頭をよぎる。私が失敗したら、エラはエルはこの世界はどうなってしまうのかと想像するだけで身体中が震えるほど怖かった。手のひらにジワリと嫌な冷や汗をかいたが、レイの手がかりを掴まなければと思うとそんなことは言ってられなかった。
「よしっと。帰るか。宮殿に。」
沈黙していたアルが、急に声をかけてきたものだから、驚いて読みかけていた童話集の本を床に落としてしまった。
本を拾おうとしたとき、私は気がついた。
そういえば、確かこの世界に来たときもこんなことがあった気がする。今この本を触ったら、あのときように、光を放って現代へ帰れるだろうか。そんな少しの希望を持ちながら、固く厚いごつごつとした本に後数センチ。心臓の音が耳をつんざくくらいうるさい。知ることが少し怖くて目を力強く瞑った。後少し。

ひやり。

ごつごつとした固くて厚い本に触れた。
何も、起きなかったのだ。
その瞬間、私はガクッと膝から崩れ落ちた。
アルに
「おい!大丈夫か!」
と言われたが、私の心配はそれよりこの本だった。
ダメだった。現代に戻れなかった。
という焦燥感だけが、私の心を薄暗く染めた。
そのあとは、よく覚えていないが、
気がついたら王宮にいて、アルが言った。
「おい。本当に大丈夫か?
少し前まで、お前俺の話全然聞いてなかっただろ。」
「え。バレてた?あはははは。」
「笑っても無駄だ。で、りうが使命というか役割を果たすときなんだが、もう時間がないんだ。一刻も早く浄化してくれないと世界が変わっちまう。だから、舞踏会の日だ。舞踏会の最後の日。その日の鐘が12回なったときにまたここで会おう。それまでに、この物語の主人公を見つけて、手伝うように言ってくれ。よろしく頼む。」
とアルがまた頭を下げた。
「わかったよ。アル。」
「じゃあ、舞踏会の最後の日。鐘が12回鳴ったとき。それまで、耐えてね。」
「おうよ。待ってる。」
私とアルは手を固く結んだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?