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【小説】おとぎ話の世界で君ともう一度#19

第二幕 靴を落とした少女

15:理由

私は、それが初めてエルの涙を見た時だった。


静かにエルは、涙を流した後
「もう遅いわ。寝ましょう。」
とそれだけ言うと、ベットに潜りこんでしまった。

私は、エルになんて声をかけてよいか分からず、見守ることしかできなかった。
私も、エルと同じようにベットに横になったが、エルが泣いているところを見て、いてもたってもいられず、気晴らしにこの屋敷を散策することに決めた。

とりあえず、この家の人に見つかったらどうなるか分からないから、念のため透明人間になってからいこう。
屋根裏部屋の階段を下りて、右手側にテナー(継母)の部屋が、その奥が、エラとエルのお父さんの書斎があるんだっけ。
すると、エラの父の部屋である書斎から、女の人のすすり泣く声が聞こえてきた。
一瞬、私は、お化けかと思い身を固めたが考えてみると、
<私のほうが今、お化けみたいなもんじゃん>
と気を取り直して、女の人の声がするエラとエルの父の書斎に入ってみることにした。

書斎に入ってみると、なんとあの継母が涙を流して、泣いていたのだ。
私は、その驚きと衝撃で少しの間、動けなくなっていた。
シンデレラ物語の中には、存在しないストーリーで、あっけにとられてしまっていたのだ。
だんだんと、心が落ち着き、感情が追い付いてくることをじわじわと感じた。
今、目の前にいる継母は、エラとエルの亡くなった父の服を抱きしめながら、泣いていた。
エラとエルの父の名前を呼びながら。

「ペーター。。。。。。。。。。。
なぜ、いなくなってしまったの。なぜ、私を愛してはくれなかったの。
あの、忌々しい女には、あんなにも優し気な眼差しを向けていたのに!
娘(シンデレラ)に優しくしても、あなたは振り向いてはくれなかった!」

そのとき、ちらりとエラとエルの父親の服が見えた。
私は、父親の服にあるボタンに目が留まった。
そのボタンはかすかに光を放っていた。
私は、ほんの少しだけそのボタンに近づいてみると、光が一層強くなった。

一瞬、初めて、ボタンに触れたときのことを思い出した。
そうだ、ボタンに触れると、姿が現れるんじゃなかったけ。
危ない、危ない、今、継母に見られたら、この家を追い出されてしまう。
いったん、ここから離れよう。
そう思って、エラとエルの父親である人の書斎を抜け出した。

その隣にあるリアナ(姉1)の部屋に行ってみることにした。
一応挨拶はした方がいいと思ったので
<お邪魔しまーす>
と声をかけてから部屋に入った。

リアナは机に向かってうつむいていた。
リアナの方に近寄ってみると、何やら手紙のようなものを読んでいた。その顔は、今にも泣きだしそうで、渋い苦みを抑えたように眉間にしわが寄っていた。
手紙の内容はこんなようなものだった。

………………………………
親愛なるエラへ

やあ。僕は、君と同じクラスだったジョニーだよ。
急にこんなことを言うと怖がられてしまいそうだけれど、僕は一目見たときから君が好きだった。
いわゆる、ひとめぼれってやつだね。
その想いは、今も変わらない。
こんなことを、卒業のタイミングでいうのも可笑しいけれど、できれば君と付き合いたい。
君からの返事がなかったときは、潔くあきらめるつもりでいる。
君にこの手紙が届いていることを願って、君の返事を待っているよ。

君のことを想っているジョニーより

……………………………

このような内容が書かれてあった。

ジョニーという男の子からエラへの告白の手紙だね。
それよりも気になるのが、なぜエラに当てた手紙をリアナが持っているのかだ。なるほどね。私の憶測だけれど、多分これがリアナがエラをいじめている原因っぽい。

リアナは、しばらくその手紙を見つめ続けた。そして、そっと静かに机の引き出しを開け、奥底にその手紙を追いやると、ガチャリと鍵を閉めてしまった。

リアナの服の上から2つ目のボタンがさっき、エラとエルの父親の服のボタンと同じように、うっすらと光を帯びていた。

ここにも光るボタンがある。
何か、この記憶の中の少年からもらったボタンと関係がありそうだ。
様子をうかがって、また来よう。

<お邪魔しましたー>

今度は、リアナの隣で、2番目の娘であるネペの部屋。

<お邪魔しまーす>

ネペは、ベットに寝転んで人形を抱えていた。そして、首に掛けてある卵型のペンダントを見つめながら、深い深いため息をついていた。
そのペンダントには、継母、リアナ、ネペ、そしてネペともう一人知らない男性の写っている集合写真と、リアナとネペの2人で写っている笑顔のあふれた写真が片方ずつ入っていた。
ネペは、写真にあるリアナの顔に視線を移すと、困ったような、あの頃を懐かしむようなそんな顔をしていた。でも、その目には、疲れと寂しさが浮かんでいるような気がした。
ネペは、深いため息を何度か吐き出した後、勢いよくパチンッとペンダントを閉めて、抱きかかえていた人形に突っ伏した。

そして、ネペの服にある上から2つ目のボタンも、ほかと同様に、ほのかに光を帯び、そして私がボタンに近づくたびに光はますます輝きを増していった。

あの、集合写真に写っている知らない男性は、誰なんだろう。

と思ったが、ここに長居しているのも、良くないとも思い私は

<お邪魔しましたー>

そう言って、ネペの部屋を出た。

部屋に戻る際、先ほどのネペはなぜ、あんな顔をしているのかこの時の私には分からなかった。

でも、その時の私にも、1つだけ分かることがあった。
それは、みんな、それぞれ何かしら抱えてるってことだった。
エラにだけつらく当たる継母も、エラをいじめてくるリアナも、その姉に便乗してくるネペも、みんな何かを抱えている
それは、あの行動、あの表情からなんとなく読み取れた。
その、確実な原因はそれぞれ違っていると思う。
それぞれ何があったかは私にはまだ分からないけれど。

そう考えている間に、私は屋根裏部屋についた。
エルが元の調子に戻るまでは、そっとしておこう。
その分、エルと会話していた時間を、今日みたいに探検に使う時間にしようと、そんなことを考えながら目を閉じた。


メモ

第二幕 靴を落とした少女 15:理由

~この世界について得られた事実~

①自分は透明人間になってしまった。
(ヒント1:自分の体に触れられない。ヒント2:自分の声は誰にも聞こえない。)
②この世界にあるものには触れられない。
(ヒント3:ヒトに触れられない。ヒント4:モノにも触れられない。*すり抜けてしまうということ)
③この世界は「童話集」という本の中の世界。
④ボタンにだけは透明人間の姿でも触れることができる。
⑤ボタンを撫でると人間の姿になり、息を吹きかけると透明人間になる。
⑥物語が結末を迎えたら、本の中の人の記憶はすべてリセットされる。
⑦まだなぜかはわからないが、りうのボタンをくれた少年"レイ"がこの物語の世界にいた。

シンデレラの物語

①シンデレラの本名は”エラ”。
②継母たちはエラを見張っている。
③エラは二重人格者。(2つ目の顔の名前は”エル”)
④ここは4度目のシンデレラの物語の中。
0時の鐘の呪い:エルは、0時の鐘が鳴ってから午前2時までの2時間しか姿を現すことができない。(例外:2人の姉たちにいじめられているとき)
⑥エルが目覚めたのが2回目の物語。
⑦エルがレイと最初に出会ったのが3回目の物語。
⑧”いい子”の呪い:
エラの母が亡くなる前の最後の言葉「”いい子”にしているのよ。」という言葉が今もエラの心の中に残り続け、足枷のようになっている。
⑨レイがお前も来たんだなという意味深な発言をしていたことが分かった。
⑩エラがこの物語の記憶を見てしまった。
⑪エラが、エルの存在、この世界が物語の世界だということ、4度目以前の物語の記憶などを、知った。
⑫エラとエルを介在しているものは、憎しみという悪い心。
★⑬継母も、アナスタシアも、ドリゼラも、みんな何かを抱えていることが分かった。(何かはまだ分からない)








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