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【小説】おとぎ話の世界で君ともう一度#27

第二章 靴を落とした少女

24:本と材料

私もそれにならって、だんだんと闇に落ちていった。


「りう。朝だよ。起きて」
「んーー。」
もう朝か。
今日も、洗濯に、掃除に、ご飯の準備に、花壇の水やり。することはたくさんある。
エラに昨夜起こった出来事を話した。
もちろんこの童話集の本のことも。
何やら今日も、お母様たちは、浮かれている様子が伺える。
ドレス選びに時間がかかっているようだ。
「いよいよ、明日が舞踏会なのね!」
とネペとリアナが興奮しているところを、見かけたエラは、心底羨ましそうに見ていた。
私はエラに向かって「エラも舞踏会行きたい?」
と尋ねると、少し悲しい顔をしながら「私には無理だよ。」とか弱い声でそう言い放った。
「なんで無理だと思うの?」
と尋ねると、「お母様に言われたじゃない。私は留守番してなさいと。それに、行けたとしても舞踏会に行く服がない。私はやっぱりシンデレラがお似合いだよ。」と、虚しさを埋めるように、暗がりの笑顔を見せた。
その夜。
私は「エラ。ドレスがあれば舞踏会に行く?」
と尋ねると、「それはもちろん行きたいけれど、無理だよ。」
「そっか。でもね、エラ、私約束してるの。エラを舞踏会に連れて行くって。舞踏会最後の夜に鐘が鳴る頃、エラと私で、やらなければいけないことがあるの。それがこの本に書かれてある。」
「私のやるべきこと?」
「そう。エラと私でこの世界を元に戻すの。そのためには材料を集めなければいけない。だから、協力して欲しい。エラ。舞踏会に行く服は、エルに頼んでみるから。」
「そんな、私なんかで、世界が変わるわけではない。」
「エラ、これは大事なことなの。」
少しずつエラの表情が重たくなっていく。
「もしも、この世界が変わったとして、りうはどうなるの?」
「それは、、、、、、、」
「りうがいた記憶も消えるの?」
「そうだね。そうなるかもしれない。でも、次の物語こそ、本当の幸せが待っていると思うよ。そもそも、私はここの世界にいてはいけない存在なんだよ。エラ。そんなに悲しまないで。エラ。」
エラは少し瞳が潤んでいた。
「エラは1人じゃないよ。いつだって心の中にいるよ。」
「そうだよね。」
「もう、寝ようか。明日のためにも。」
それから少しして、真夜中の鐘がボーンボーンと鳴り響いたころ、むくりと起き上がってエルが「一日目のお洋服と、靴を持ってきてくれるかしら?」
と、白い鳥に言った。
そのころ、私はと言うと、この物語を元の世界に戻すために材料を集めをしていた。
一つ目は、まず私が持っているこのボタン。
それと、ボタンの枠があと3つ空いてる。
なんのボタンだろうと、首を傾げていたとき、リアナと、ネペと、お母様と、エラのお父さんの服に付いていた心臓近くのボタンが薄く光を放っていることがあったことを思い出した。
あれをどうやって、手に入れるかを考えないと。
明日、お母様たちが舞踏会に行ってからでも遅くはないはず。そのときにしようと意気込んだ。
二つ目は、花びら、なんだけど、どの花びらなのかが分からない。挿絵を見て考えていると、考えていると、西の塔に咲いていた、花を思い出した。
あの花か!と閃いた。
三つ目が、音符のマークのようなものだから何かの歌なんだろうけど、その歌に心当たりはなかった。
エルに、歌に心当たりがあるのかと聞いたら、この世界の国歌みたいなものはあるわよ。ほら、そこの本棚の1番右奥にある本がその国歌よ。と教えてくれた。
その本には、ここの国の言葉で書かれている歌詞と、日本語で書かれている歌詞が両方あった。
エルが、「さぁ、用意ができたわよ。」と言ったので後ろを振り向くと、ピンクのドレスと銀の靴が用意されてあった。
「エルはさ、怖くないの?」
「何がよ。」
「この物語が元の世界に戻ったら、エルはいるのかなって。私もどうなるか分からないから。不安なの。」
「そうね。それは、私だって怖いわよ。けど、私はエラの分身だからかしらね。憎んだときももちろんあったけれど、もうこんな苦しい思いはしたくないだけよ。私は太陽を見たことがない。陽の光を浴びたことがない私にとって、この世界にいることは生き地獄なのよ。でもね、この白い鳥たちともおしゃべりすることもできなくなったり、りうといた時間が消えていったりするのは、少し残念に思うわ。でも、本当にそれだけなの。ここに私の居場所なんてなかったから。だからね、この時間が惜しくなったのは、りう、あなたがいてくれたおかげね。感謝しているわ。」
エルの切なそうにでも吹っ切れた清々しさが、痛いほど伝わってくる。
「ありがとう。エル。存在してくれて。」
私はせめて私だけでもエラではなく、エルの存在を肯定したいと思った。
「あなた、レイと同じことを言うのね。」
「え?!レイもそんなこと言ってたの?覚えてるの?」「そうね。レイも同じことを言っていたわ。あなたたちお似合いね。」
と、エルがそう言ったので、私は少し嬉しくなった。
「もう寝ようかしら。今日は眠気がひどいのよね。」
「そうだね。寝ようか。おやすみなさい。エル。」
エルがいい夢が見られますように。そう願ってやまなかった。

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