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【小説】おとぎ話の世界で君ともう一度#1

第一幕 開かれた扉

1:かすかな記憶

??:ね。璃羽。ちょっと手出して。

ガサゴソ。

??:はい………。これ、あげる。

璃羽:???。これ?なあに?

??:これは、第二ボタンって言うんだ。
   そしてこれはね、僕のここ(心)にある大切な気持ち。

璃羽:???大切な…気持ち?

私は、その意味がなんだか分からなかったけれど、とても心がくすぐったくなって、嬉しくなったような気がする。

??:そう。これは璃羽と僕との秘密。璃羽は守れる?

璃羽:うん!守れるよ!

??:そっか。それじゃ。いくね。

その瞬間、ぼやぼやと滲むように、薄れていく。

待って!いかないで!

………………………

ビビビッ!!!ビビビッ!!!

私はゆっくり目を開けた。目覚ましが鳴ったみたいだ。
まだ、まどろみの中なのか、頭がはっきりとしない。
だんだんと窓の外から聞こえてくる、鳥のさえずり、車のガソリンを燃やす音。少し手をうごかしたと同時に感じる、布団の中で少し汗ばむ体、閉めたカーテンの隙間から覗く眩しい光。私は、朝が来たのだと分かった。

そうか、あれは夢か。またあの夢を見ていた。

そう思って起きあがり、目をこすると、袖が濡れた。

ああ。私はあの朧げな夢の中で、泣いていたんだ。あたたかくて、柔らかな陽だまりのようなあの空間に。今よりずっと、景色が色づいていたあの頃に。

まだ、微かに残っている、優しすぎるような声とあのとき軽く触れた温もり。そして、あの包みこまれたような落ち着く匂い。私は、自分の手を見つめ、ぎゅっと握りしめた。

完全に目が覚めた頃、私は、ふと疑問に思った。

そういえば、あれは誰だったのだろう。あのボタンをくれた少年は。

私は、唯一部屋の中にある、クマのぬいぐるみに目をやった。ぬいぐるみの首から下げている”それ”はカーテンの隙間からこぼれる日差しによってキラリと光を放っている。
私は、布団から足を下ろし、勢いよくカーテンを開けた。先ほど見た夢を、記憶の奥へと追いやるように。

※これはフィクションです。
登場人物とは一切関係ありません。

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