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【小説】おとぎ話の世界で君ともう一度#26

第二章  靴を落とした少女

23:整本師と物語

そして、その本をしっかりと握りしめ、荷物置き場になっていた書斎から、そっと立ち去った。


私は冷めやらぬ興奮を、隠すように小声で
「ねぇ、ねぇ、エル。見つけた!見つけたよ!」
「んー、なによ。」
エルは少し、鬱陶しそうにベットに張り付いていた体をゆっくりと起こした。
「見つけたんだよ!」
「だから、何をよ。」
「この本を!この童話集の本だよ!」
「で?その本がどうしたっていうのよ。」
あ、そっか、エルはこのことを知らないのか。
そして、私は、エルがご機嫌斜めだったときに何をしていたのか事細かに話した。
「いやー、エルずっとご機嫌ななめだったじゃん?」
「そ、それがどうしたっていうのよ。」
と少しだけ顔を赤らめながら、恥ずかしそうにでも、口調は強めに言われた。
「やっぱり、エルはツンデレだね。」
「ツンデレ?何よ、それは。」
「まあ、かわいいってことだよ。」
「かわ、かわ、かわいい?!この私がよ!かわいくないわよ!」
と動揺し、あたふたしていた。
「ううん。かわいいよ。」
「そう?かしら。」
今度は、落ち着きを払った様子で、恥ずかしがりながらも赤らんだ耳に髪の毛をちょっと掬い、かけながら言った。
「で?その本を読めば分かるのよね。」
「そうなんだと思うんだ。」
「思うって何よ。」
「まだ、本開いてないから笑」
「はぁー。あんたってホントバカね。本が見つかったとこはいいけど、その先の本題を忘れてはいけないわよ。」
「そうだねー。じゃあ、開くよ。」
そう言って、私は意を決してその本を開いたのだった。
すると、まず先に目に飛び込んできたのは日本語だった。
「日本語だ。。。。。。」
私がそう言うと、エルは
「あなた、この文字が分かるの?」
「うん。分かるよ。だって、私の故郷の文字だから。」
「そうなのね。私にはさっぱりだわ。で?その日本語とやらで何が書いてあるのよ。」
「うーんと、ちょっと待ってね。」
「この本を開きし汝に与える。整本師という名の使命を。汝は、この本の物語にある元のエネルギーを解放せよ。さもなくば、この本とともに汝もろとも無くなるであろう。エネルギーの解放の方法は、挿絵とともに記載してあろう。では、健闘を祈る。」
「怖いわね。その文面。この物語の元のエネルギーを解放せよ。ですって。」
「待って、まだ続きがある。追伸、この物語の元の話も、載せておこう。君たちに幸あれ。」
「元の物語。。」
エルはそこで、少し動揺したようでピタリと一瞬だけ固まったような気がした。
「エル。この元の物語を知る気はある?
もしも、ないなら、私は言わないけど。」
エルは、
「少し考えさせてくれるかしら。また、暴れだしそうで怖いのよ。」
そうか。エルもエラも負のエネルギーが抑えられなくなって、暴れ出すかもしれないのか。
そうだよね。元の物語なんて知ってしまったら、なぜ自分が存在しているのか分からなくなるかもしれない。そして、もう1度暴れだしたときには、時すでに遅しということになっているのかもしれない。
もう、二度とあんな思いはさせたくないし、したくはない。
私は、
「分かった。知りたくなったら、遠慮なく言ってね。」
そう一言だけ告げた。
「さぁ、もう遅い。寝よっか。エル。あとの、材料とかは、明日の夜でも遅くないからさ。」
「そうね。」
「私もそろそろエラと交代しなくてはいけないわね。」
「そう言えば、エラと約束したの。エルのことを知らせるって。知らせてもいい?というか、私がエルとエラの伝言がかりになったの。エラは、自分の分もエルが背負っていると思って、涙を流していたよ。自分は何もしてあげられないって。」
「エラったら。何を言っているのかしら。私がエラの分も背負っているのなら、私の分もエラは背負ってくれているわ。」
そう涙ぐんで言ったエルは、少しの間無言になり、スっーっと睡魔に追われるようにしてそのまま闇にとけていった。
「おやすみ、エル。」
私もそれにならって、だんだんと闇に落ちていった。


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