【小説】おとぎ話の世界で君ともう一度#18
第二幕 靴を落とした少女
14:暴走
*これはフィクションです。
登場人物とは一切関係ありません。
暴力的な描写がありますが、決して、それを推薦しているわけではありません。暴力的描写が苦手な方はおやめください。
「殺してやる!!」
そういってエラは、勢いよく私を押し倒し、私の上に馬乗りになった。
そして、首を絞めた。
私は今起きていることが何が何だか分からないかった。
突然、エラが豹変し、私の首を絞めている状況が。
「エ。。。。。。。。。。。。ラ。。。。。。。。。。。。。
ど、う。。。。。。。。して。。。。。。。。。。。。。。。。。。」
苦しい。息ができない。
自然と涙がにじんでくる。
このまま私、死んじゃうのかな。
でも、うっすらと見える鬼の形相で、絶望に浸っているような何も映さず色のない真っ黒な目をしているエラを心底私は、助けたいと思った。
エラの笑顔、エラのはしゃいでいる姿、エルの苦しいようで寂しさを隠すような表情、エルの孤独な背中。すべて、見られなくなると思うと私は、いやだと、エラをエルを助けなきゃと、私がこのまま死んでしまうことで、エラとエルの手を汚してしまうと。それは、きっと、エラもエルも望んではいないと思った。
だって、今私を殺そうとしているエラは、エルは、涙を流して泣いているのだもの。
それに、私の首を絞めている手が震えている。
エラの目から溢れ出た涙は、エラの頬を伝い、私の顔にポタリポタリと落ちてくる。
なのに、顔は憎しみにまみれている。でも、それは苦しそうで、まるで殺したくないと心が叫んでいるようだった。
私は、消え薄れる意識の中で、ボタンに息を吹き掛けてしまえば、とエラが馬乗りになっている下で、必死に右手を伸ばした。
もうダメかも、と意識が薄れる直前、ボタンに息が届き私は透明人間になることができた。
透明人間になった私は、エラの手から解放され一気に肺に空気が入り込みむせた。
<ゴホッゴホッゴホッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハァーハァーハァーフー>
何とか落ち着き立ち上がって、エラを見た。すると、エラは、暴れていた。
部屋に一つだけある本棚を倒し、裁縫道具などを床にたたきつけ、自我を失ったように暴れていた。
すると、0時の鐘がボーンボーンと鳴り響いた。と同時に、エラは、ピタリと動きを止め、その場にペタリと座りこみ動かなくなった。
少しの間、しーんとなった後、エラは、また動き出した。
しかし、今度は、所作がゆっくりで、冷たい空気をまとうエルが現れたようだった。
その時、エラが暴れ、大きな物音を立てたせいなのか、継母が階段をどしどしと踏み鳴らし、ものすごい勢いでドアを開けたかと思えば、エルに怒鳴りつけた。
「うるさくしないで頂戴といったはずでしょう!!!!
シンデレラ!!!!!お前なんか、いつでもこの家から追い出せるのよ!!!!それに、何ですかこの汚らしい部屋のありさまは!!!!早く片付けて頂戴!!!」
とエルの足をけって、ドアを荒々しく閉めてこの屋根裏部屋から出ていった。
エルは、継母が出ていったことを確かめると、空(くう)に向かって
「りう。あなた、もうでてきてもいいわよ。もう、あの暴れていた私ではないわ。大丈夫よ。」
と声をかけた。
私は、エルが戻ったんだと思い、急いで姿を現した。
「エル。。。。。エル。エルなんだね。よかった。」
「そうよ。エルよ。大丈夫よ。心配させてしまったみたいね。
りう。あと、少し、話せるかしら。
私が暴走したことについて、私が自我を失っている間に考えたことなのだけれどね。私の憶測が正しければ、の話だけれど。聞いてほしいことがあるわ。りう。」
「いいよ。聞くけど、その前に、片付けをしなくちゃ。片付けながらでもいい??また、お母さんたちにエルたちが怒られちゃうでしょ。」
「そうね。片付けをしながら話しましょう。」
「そうね。まず、私が暴走したことについてだけれど、あれは、厳密にいえば、エラでも私(エル)でもないと思うわ。」
「それは、どういうこと?エル?」
「なぜ、私が0時の鐘のときに現れるかが少し分かったというほうが正しいわね。私、私とエラは、何を通じてつながっているのかという問題の一端が見えてきたのよ。私に切り替わるときは、いつだって、エルが憎しみを抱いた時だった。そう。憎しみという感情が私とエルをつなぐ鍵だったのよ。0時の鐘つまり真夜中になると、エラの憎しみや悲しみが一層濃くなるの。私は、憎しみの感情も担っていると思ってたのだけれど、そうじゃなかったわ。」
「というと??」
「私には、心の負のエネルギーが存在するのと同じように、エラにも心の負のエネルギーが存在する。それが、中心となって、私やエラを作り出している。そして、それは、私とエラを介在するものでもあると思っているわ。その外側に、私とエラの良い心があって、その良い心で、心の悪を制御しているのよ。
極端なこと言うと、二重丸があって、それを私たちは半分ずつ待っているの。エラと私で。二重丸の内側に存在している丸が負のエネルギーであって、その外側に覆っているある丸がプラスのエネルギーね。負のエネルギー、ここでいう憎しみが今回はエラの半分のプラスのエネルギーで抑えきれなくなって、暴走したのね。」
そういってエルは淡々と、本棚をもとの位置に戻し、散らばった本たちを棚に戻していった。
私は、ベットの上で裁縫道具の中から飛び出した、ほどけた糸くずや、ほどけた糸をくるくると巻き付け、エルの話を聞いていた。
「そうだったんだね。やっぱり、エラは、エルは心の中で助けてって叫んでいたんだね。」
「そう。。。。。。。。だね。」
エルの反応が、鈍かったので、どうしたのかと、糸を巻き付けていた手を止め、エルのほうに目線を動かすと、エルは、、、、、、
呆然と立ち尽くし小さな窓を見つめながら、無表情で涙を流していた。
それは、月明かりに照らされて部屋の埃がキラキラと舞散って、思わず息を飲むような情景だった。エルの影が長く伸び、願うように窓の外をじっと見続けている。そして、エルの涙は、長いまつげに絡まり、大粒の雫となってポロリと光って流れ落ち、床に滴る。その姿は不覚にも、今まで私が見てきた中で、一番、神秘的で美しく儚い涙だと思ってしまった。
私は、それが初めてエルの涙を見た時だった。
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