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『快傑ライオン丸(`72)』と九条亜希子


 昨夜『快傑ライオン丸』の第1話を観てたら、出来が良くてついついスペクトルマン・・・じゃなかった、成川哲夫がゲスト出演する第3話まで一気してしまった。
 やはりこの作品、特撮時代劇としては群を抜いて出来が良い。先ず展開にダルさがない。第1話はそれこそジェットコースターの様な展開で、戦国乱世とい時代背景を簡潔に描くと、返す刀で魔王ゴースンが主人公たちに差し向けて放った刺客との戦闘。
 苦戦の末にそしていよいよ待ちに待った獅子変化。
 ヒーローに変身する青年、それを援けるヒロインと子供。レギュラーをこの三人に絞り、さらに得てしてドラマを転がすための足手まといキャラに陥りがちな子供(小助)にも重要な役割・・・ライオン丸が騎乗する天馬ヒカリ丸を呼び出す笛を与え、さらに忍びとして相応の鍛錬をしてきた、戦うことも出来るキャラに仕立て上げている点に感嘆する。
 加えてヒロインの沙織も小太刀などを武器に、敵の下忍、『仮面ライダー』のショッカー戦闘員に相当する髑髏忍者たちと互角に渡り合う。
 つまり“遊んでいる登場人物”がいないのである。作劇上、これは重要なことだ。比較論は好きではないのだが、あえてすると、ライダーガールズは一文字隼人/本郷猛や滝和也を活躍させるための足手まとい役なため、彼らが登場すると、良くて画面の背後を右往左往し、悪くするといつの間にかいなくなってしまう。
 しかし髑髏忍者が襲来しても、沙織も小助もそれぞれの得意技を駆使し、獅子丸と共に戦う。そして髑髏忍者よりも強い暗黒魔人と対峙するとき、その命と引き換えに小助を援けた師、果心居士から拝領した「金砂地の太刀」に施された封印が解除され、獅子丸はライオン丸に変化する。
 基本的には暗黒魔人とライオン丸の一騎打ちとなるが、場合によっては沙織や小助の援護が入る。
 さてここからが本論。この時代(昭和47年)当時、アクションをこなせる女優、スタントウーマンは希少だった。アクションが出来ない女優のアクションシーンの出来の物悲しさは、この時代の、特撮に限らない映像コンテンツを知っている人なら理解できるはずだ。
 だがそも当時女優に殺陣を求められること自体が珍しく、映画会社の俳優養成課程にそれに対応できるじゅうぶんなカリキュラムがなかった点は責められない(これらを踏まえると、牧れいや志穂美悦子の凄さが理解できるだろう)。
 そして沙織役の九条亜希子。彼女の役回りは主人公獅子丸や小助と同様、果心居士による忍びとしての鍛錬を受けている。だからライダーガールズと違い、真っ向正面から髑髏忍者と戦わねばならない。
 普通ならスタントで吹替えが行われるシチュエーションだ。しかし本作では基本的にそれは行われなかった。
 監督からの要請とはいえ、彼女はきちっとアクションをこなしているのだ。小太刀を武器に野原や林などで大立ち回りを演じた。案の定、生傷が絶えなかったそうである(さもありなん)。
 俳優としては主演の潮哲也(後に彼と結婚)より経験があったが、九条は完成した第1話を観、自分の演技が新人の潮に劣っていることに自信を無くし、番組終了後程なく引退する。
 確かに演技では潮のみならず、小助役の子役梅地徳彦にすら劣っている(というか、実は三人の中で最も俳優歴が長く芝居が達者)。
 それでも生傷を作りながら体当たりで沙織を演じたことについては、大いに評価したい。
 なにしろ、アクションが出来る女優がJACからどんどん輩出される、約十年前の話だ(私と同世代あるいは上の世代の特撮ヒーロー好きなら、ファラキャットの登場に目を剥いた経験を持っているはずだ)。
 そんな時代に、よりによって特撮ヒーロー番組で女性によるアクションを披露した九条亜希子を、我々特撮ヒーロー番組ファンはもっと称揚すべきなのではないだろうか?

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