「正しい」社内政治の行い方:してはならないことを知る。

要約
・社内政治はどこでも発生する。ベンチャー企業でも。
・正義感が強い人ほど、社内政治を身に着ける必要がある。
・『社内政治の「べからず」リスト』を確認し、破滅的結果を避ける。

社内政治はどこでも発生する。
 ベンチャー企業に勤務していた時、あることがきっかけに経営状況の傾き、それに伴い社内で多大な混乱が生じた。私を含む平社員のメンバーは、少しでも改善しようと活動した。しかし、その訴えは取締役(メンバーは全員有名大学卒)や顧問(巨大金融機関の元取締役)に顧みられることなく、無視・罵倒を受け続け、最終的には全員見切りをつけて袂を分かつ結果となった。当該ベンチャー企業の関係者に話をしたが、どうやらゾンビ企業に成り下がり、社会に迷惑をかけながら継続しているようであった。
 ベンチャー企業は裁量が大きく、風通しもよいと言われている。しかし、「シリコンバレー史上最悪の詐欺」として評されるセラノス(1)を率いたエリザベス・ホームズについて記した著書(2)を見ると、その社内は秘密主義・派閥争い・恫喝・嘘などに満ち溢れていた。社内政治というものは、むしろベンチャー企業の方が頻繁に発生しており、しかも悪影響はより大きく出るのかもしれない。

まじめで正義感が強い人ほど、社内政治を身に着ける必要がある。
 
どういうめぐり逢いかわからないが、巨大金融機関の重役、経営者でApple Japanの元営業部長、大手製造業の出世頭で大物政治家の親族、手堅い地方企業の重役など経験豊富な人々と話す機会に恵まれた。彼らと話して印象深かったことは業務の実力が高いだけではなく、社内政治に苦しみ、それでいて勝ち抜いてきた点である。ある重役の
「実力がもちろん重要である。しかし、30%程度は社内政治を意識して行動しなければ大変なことが発生する。」
という言葉は至言だろう。※1
 彼らレベルの政治力が当時の私にあれば、当時のベンチャー企業の経営は傾かず、罵倒もされずに済んだのかもしれない。当時の私は
「アナウンスもなくボーナス0にされ、結果生活が苦しむ羽目になった社員を救う」
という使命のもと動いたが、歯牙にもかけられなかった。正義感がある人ほど社内政治というものを知っておく必要があるだろう。

社内政治の「べからず」リストを確認し、破滅的結果を避ける。
 
悪法でも法という言葉があるように、会社に属している以上組織のルールは守らなければならない。上司が性格上気に食わないという理由だけで反抗しても会社には認められないし、上司が明らかに間違えているとしても、準備のない意見では効果が薄い。なぜなら、社内では上司の方が社内での政治的権力が高いからである。
 また、上司を飛ばして更なる上の人に直訴することは絶対に避けるべきである。これは一見有効に見える内容だが、最悪の結果さえ発生する。例えばベンチャー企業時代、取締役会が全く動かなかったので切り札として個人的にも交友があった顧問に訴えたことがある。訴えの結果顧問は社長と実際に面談を行ったがその場で社長に嘘を吹き込まれたようで、私は顧問から罵倒の嵐をくらうことになった。それまで顧問のことを大いに尊敬していただけに、私は大いに苦しんだ。※2 
 顧問には人事権はないが、取締役にはある。仮に取締役に直訴した結果が
「なんやこいつ、生意気な!」
という評価であれば、最悪クビだろう。
 社内政治という長く厳しい戦いでは、破滅的結末を避けることが重要であるる。※3 上司や取締役会という、従業員に多大な影響を与える程度の権力を持った人々と戦うためには、虎の尾を踏むようなことをしてはならない。そのためにあるのが『社内政治の「べからず」リスト」』である。少々多いが、その内容を記載する(3)。

誤った政治戦術
・偽りの約束をする、または約束を果たさない。
・自分がやっていないことを、自分の手柄にする。
・他の人々のアイデア、努力、成果を信用しない。
・他の人々の努力に対して、罠や障害を設ける。
・他の人の正当なニーズや依頼を拒む。
・引き延ばし戦術で、他の人々の時間や依頼を拒む
・苦境に陥った時、他の人々を渦中に置き剤理にしたり、苦労をかけたりする。
・必要な情報を与えない、隠す、とどこおらせる。
・自分の利益につながりそうなことだけをアドバイスをする。
・他の人々に、中身のないかたちばかりの支援をする。
・イベント、会議、意思決定、計画から、他の人々をそれとなく締め出す。
・他の人々が失敗したり、間抜けに見えたりするように仕組む。

重大な政治的失態
・悪い知らせで上司を驚かせたり、悪い知らせを隠したりする。
・上司を迂回する戦術をとる。
・上司に対して不誠実である。
・上司や上層部について不満を言う。
・過度に熱心である、要求が多い。
・内密の話を漏らす。
・泣きごとや不満を言う、批判をする。
・上司や上層部からの申し出を断る。
・上司が固く守っている信条に対して、疑問を呈する。
・トラブルの種をまく。

以上、文献(3)より引用

 とても苦しい難しいだと思われる。
「誤った政治戦術」を避けられるのはまじめさ、誠実さといった倫理観が必要である。しかし、人間の心は弱いもので、誤った政治戦術は意図の有無に関わらずしばしば発生していることは、対人業務をしている人にとっては日常茶飯事だろう。
「重大な政治的失態」を避けるためには、感情の制御や冷静さが必要である。特に感情的であることを自覚する私にとって、重大な政治的失態は今でも行ってしまうことがある。
 しかし、これらの内容を行ってしまった場合、実行者はマイナスの評価を受けるだろう。部下や同僚に行ってしまったら実務が動かなくなり、上司に行ってしまったら自分の評価が下がる。取締役が従業員に行う場合はリスクがないかって?そんなことはない。従業員には転職という強力なカードがある。また、社内暴力や内部告発過激という過激な方法での報復も発生しうる。※4
 最初から騙すつもりならともかく、長い付き合い・建設的な関係性を構築するのが目的であれば、『社内政治の「べからず」リスト」』を意識しながら言動を選択しなければならないだろう。 
 
 さて、してはならないことはわかったが、実施すべきことについて述べる必要がある。これも(3)の書籍に記載があるのだが、その題は
「政治ゲームで勝つための40の法則」
である。この記事で記載していくととてつもない量になるので、機会があれば次回以降紹介していこうと思う。

注釈
※1:ちなみにその重役は以下のように続けた。
「ただし、実業を忘れて社内政治ばかり集中するととんでもない悲劇が発生する。原発事故とか福知山線脱線事故のようにな。」
※2:退職後も罵倒の電話がかかってきたが、そのおかげで今では彼のことを一片たりとも尊敬しなくなり、もやもやとした気持ちが晴れている。肩書のよい人物への盲信がなくなったのも、良い収穫だ。
※3:この点の重要性は、ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階の「喫水線下のリスクをおかす」の章で詳しく解説されている。
※4:この末路はまとめてマスコミの餌である。
参考資料
(1)「シリコンバレー史上最悪の詐欺」の教訓、米セラノス元CEOに禁錮11年:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)
(2)BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相 著書:ジョン・キャリールー、翻訳:関 美和/櫻井祐子 集英社
(3)アメリカの「管理の基本」を学ぶマネジメントの教科書-成果を生み出す人間関係のスキル 編者:エドワード・T・ライリー、訳者:渡辺典子 ダイヤモンド社


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