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死にたがりの君へ贈る物語 読書感想文

⚠️ここでは種崎隼さんの「死にたがりの君に贈る物語」のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。


私もかつては死にたがりでした。
いつも死にたい、自殺できたらいいのに勇気がない、生きていく希望がない、生きていて何の意味があるの?、明日目覚めたら死んでいたらいいのに。
そんな言葉が口から漏れ出さないようにいつも心の中に防波堤を作って平気なふりをしながら暮らしていました。
ただ、今は死にたがりにならないように熱中できるものを探して、楽を探して、平凡な生活を手に入れられていると思っています。

ただ過去の私のような死にたがりの人が物語の中でどう生きていくのか描かれているのか気になりました。

結論から言うと、私にこの本は合いませんでした。
他の人の評価では「この本は人を救う」といった評価も見ましたが、私はそうは思いませんでした。といっても、何となくこの本が私に合わない理由はおそらくこれなのではないかって思ってるものがあって。
私はすでに死にたがりから救われていた側の人間だったからなのかな、と。
この本が刺さる人というのは死にたがりだけど、人には言えない、救ってほしいと思ってる人の方が共感できるのかもしれません。
私は今はもう死にたがりではなく、死にたがりから変われた理由がこの本とは違ったから共感できなかったのかな?なんて思ってます。

もし「死にたがりの君に贈る物語」を素晴らしい、この作品を読んだ感動を他の人と分かち合いたいと思ってこの文章を読んでいるのであれば、この先は読まないことをお勧めします。

ここから先は、この本に共感できなかった私の素直な感想を書くつもりですので、嫌なものは目にしないようブラウザバックしてくださいね。






この物語の私がのめりこめなかった点を2つ挙げていきたいと思います。

・単純にSwallowtail Waltzが気になりすぎる。


この物語には天才作家の書いた小説内小説のような形で、『Swallowtail Waltz』という小説が出てきます。その『Swallowtail Waltz』の小説の展開から「死にたがりの君に贈る物語」の物語の展開を描かれるのですが、あまりにも絶賛されすぎているので、そっちの中身の方が気になってしまいました。
『Swallowtail Waltz』は現代社会で爪弾きされてしまった若者たちが集まって、奇妙な共同生活を送るという内容であり、その中での登場人物の男女7名は全員何かしらの重たい過去を持ち、秘密を抱えているという素敵な設定で描かれています。
この小説の内容が気になりすぎる……!
全員は現代日本人でありながら偽名を使っていたり、お互いの関係性が物語が進むにつれて明かされていったり、登場人物の中に裏切り者が存在し、物語終盤でヒロインが突然殺害されるというのが語られています。
めちゃくちゃ面白そうじゃないですか。その風呂敷を広げすぎているにも関わらず、最後まで描かれた結末はファンが必ず納得のいく伏線を回収して無事完結するらしいのですが、そんな物語あるならまずその物語を読ませてくれ……!となりました。

「死にたがりの君に贈る物語」は『Swallowtail Waltz』を模倣することで2度と続きの描かれない状況になった作家やファン、その周りの人たちを救う物語です。
その物語の展開的に何も悪いとは思いません。批判をたくさん受けて心が壊れてしまった作家を救うために、その作家の描いた物語でしか救われない少女のために、行われた『Swallowtail Waltz』を模倣した共同生活を送るという設定もまぁわからなくもないです。

ただ、あまりにも『Swallowtail Waltz』を絶賛されすぎていて、「本当にそんな物語が存在するのか?」というのが私の中の見解です。ここがあまりにも現実味を感じられなかった。
正直に言うと、『Swallowtail Waltz』がかいつまんで出てくる設定や話が一つの物語として成立するように思えませんでした。
「死にたがりの君に贈る物語」で描きたかったのは『Swallowtail Waltz』ではなく、死にたがりの作家が描いた物語に救われた死にたがりの少女が今度は作家を救う話なので、そこを気にしてどうするんだよって思うかもしれないんですけど、その話を書きたかったのなら『Swallowtail Waltz』を展開の中で軽く触れる程度で良かった、あまりにも何度も言及されるので、2つの物語を同時進行で読まされているようなとっちらかった感じを受けてしまいました。
結論『Swallowtail Waltz』の根幹に関わる内容のジナが死んだ理由もユダ=カラスになることを知らなくても「死にたがりの君に贈る物語」は成立すると思うんです。

私が納得できる展開としては、「死にたがりの君に贈る物語」とは別に「Swallowtail Waltz」が実際に私も読める物語として存在する、です。
もし叶うのであれば「Swallowtail Waltz」を綾崎さんが書いてくれたら嬉しいな、なんて思ってます。

・救われているのはミマサカリオリだけでは?

ラストはミマサカリオリから自分の本を愛してくれた読者へ、少女へあとがきで結ばれています。
もしかしたらこのあとがきは「死にたがりの君に贈る物語」を読んでいる綾崎さんから、死にたがりである読者へ向けてのメッセージという意味も含まれているのかもしれません。
ただ、そのあとがきのメッセージを向けられているはずの代表者である純恋は本当にあのあとがきで救われたのでしょうか?
純恋は『Swallowtail Waltz』を愛しており、その作品が読めなくなるのなら死んでしまいたいと言うほど不安定な精神状態です。
なんなら彼女は物語冒頭で自殺未遂をしています。自殺未遂をしても尚、親からの理解は得られず、他に救ってくれるような人間が出来たとしても、病んでしまっているほぼ他人です。
自殺未遂をした後に、ミマサカリオリを救う為の田舎の厳しい環境の中で過ごすという企画に参加しています。
その自然が彼女を癒したという話も描かれず、ましてや純恋に最初から罵詈雑言を向ける人が彼女の共同生活の最初から最後までずっと居た。その罵詈雑言の中には純恋の存在を否定する言葉ですらあり、どんな事情があれど他人に向けていい言葉ではないと私は思ってしまいました。
例えそれが純恋が大好きな『Swallowtail Waltz』を生み出した作家であるミマサカリオリであっても、許される訳がありません。
ミマサカリオリは確かに世の中からたくさん批判され、心が壊れてしまうほどの苦悩を抱えていたからとは言え、その仕返しのような罵詈雑言を純恋に送って良いのでしょうか?
私の中でこの物語を肯定出来ないのは「生きるのが辛くて誰もからも批判をされて可哀想な人は何をしても良い」という事を肯定したくないからです。
そんなの世間に否定され続けて親からも愛されなかったミマサカリオリの気持ちが分かってない!とか、本当に死にたいと苦しんでいる人になんてことを言うんだとか言われるかもしれませんが、私はこの価値観が間違ってるとは思いません。
誰がどんな事情であれ、他人の存在自体を否定するような言葉を言ってはいけない。それが1番分かるのは言葉で傷付けられてきたミマサカリオリにも分かったはずです。
しかも、その向けた矛先はミマサカリオリをずっと救い続けたファンレターを送り続けた純恋です。
確かに純恋の行為や気持ちにミマサカリオリは救われたかもしれませんが、ミマサカリオリの純恋への言動はどう好意的に捉えても気持ち良いものにはなりえません。
純恋への救いはこの物語の中で描かれているとは思いません。あとがきでミマサカリオリはこれからも小説を書き続けるとは言っていますが、その作品が純恋にとって第二の『Swallowtail Waltz』になるとは限りません。純恋が好きなのは、純恋が命を救われたのは『Swallowtail Waltz』であって、ミマサカリオリではないと思います。
私は作者が同じだからと言ってその人が生み出した作品全部皆等しく好きとは言いきれないと思います。
その上、純恋の死にたいという現状に実際に杉本は純恋に対してどうして行くか具体的な対策はあげていません。

私はこの物語の後に純恋が幸せになれるとは思えませんでした。
だから、この本で指している「死にたがりの君」の純恋が救われないと思ってしまった私にはこの本は合いませんでした。

私は綾崎さんの描いた物語を否定している死にたがりの作家を作り上げているアンチなのかもしれませんね。

以上が私の率直な感想でした。
ただ、私は「死にたがりの君に贈る物語」自体はとてもいい作品だと思っています。
その理由としては、誰一人登場人物が死ぬことなく、恋愛事情、家族関係を絡めることなく、人の心を動かすことのできる作品だと思えたからです。
感動できる作品や展開にはどうしても、人が死ぬことや恋愛事は避けられないことが多いです。人間はどうしても死や消えることに恐怖を抱き、それから救われることや、人が人を愛して結ばれる、もしくは救うことに心を動かされやすい習性みたいなものがあると私は思っています。
実際、私も文字書きで感動する物語を書きたいと思っていますが、他人を感動させるのに「死」や「存在の消失」や「恋愛」の要素をなしで語るのは難しいと知っています。
だからこそ、この作品で描かれる「愛」が今までの感動傑作と呼ばれる展開に該当しない、新しい「愛」の描き方をしているのがとても素晴らしいです。
愛情は決して、人から人へ伝えるものではなく、人からものへ、それに救われる人がいることを描いていることが私の中でのこの本の見どころなのだと思います。
「推し」という概念が生まれ、浸透している現代では、結ばれなくてもいい、返ってこなくてもいい愛情というものが親子以外でも起き得るという現象が徐々に広まっていっています。
今の現代だからこそ、理解して共感して感動できる作品なんだと思います。

また単純に、ミステリーとしてもこの作品は面白いと思います。
殺人は起きないけど、確かに何かしらの事件が起き、その謎を、犯人を解明していくという流れは叙述トリックもあり、ミステリー作品としても私は楽しむことができました。


「死にたがりの君に贈る物語」は読者の受け取り方によって、いろいろな感想を抱ける作品だと思います。
この感想は私にしか書けないと思い、こうして筆を取ることにしました。

最近Xで見かけたのは「自分の意見と同じ意見を持つ他人の言葉を見て、自分で言ったつもりになるのは良くない」という意見もあり、自分の言葉で、自分で思ったことを表現するために一部批判を含みましたが、この文章を書き上げました。

長くなりましたが、ここで終わらせていただこうと思います。

以上、「死にたがりの君へ贈る物語」の読書感想文でした。

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