埼玉県営の水上公園での水着撮影会中止騒動について。その6「行政不服審査申し立てに至るまで」

さて。
その5では日本共産党埼玉県議団の申入書についての各部解析を行いました。改めて細部をいちいちと分析したのは、行政不服審査の申し立てを行う為で、不服申立書の内容のたたき台とする為に調べる事が必要だったかからでした。


一般論として「共産党が申入れしたらその日のうちに主催者が全員出禁になった」としたら原因は「共産党が申入れしたから」ですよね。

当初の報道では「5月頃に市民の苦情がプールに入った」のが発端だという県公園緑地協会や県都市整備部の話が出てましたが、「市民」の通報を受けて議員がカチ込む手法はもう何十年も使い古されてる手です一般論として。

そして地方議員が自治体へとする「申し入れ」については、特に規定する法律とかは無いので「一般市民が役所にお願いに行った」のと同じ扱いになる訳です。「行政を監視する立場の議員が自治体へ指導を行う」とかでは無い、というのが建前です。根拠法が無いから権力も無いよ、という。

「申入れ」については埼玉県庁都市整備部に質問もしてみました。

県議会は、県知事など執行機関に対する議決機関として、執行予算や決算に係る権限があります。その議決機関である県議会の構成員である議員、の「職権」に拠って「申し入れ」を受けているのでしょうか。はたまた一般市民と変わる事の無い「一市民」からの「お願い」としてご意見を承る、というスタンスなのでしょうか。
(回答)
会派又は議員から知事等への「申入れ」について、直接規定する法令上の根拠はありません。執行機関としては、県民の代表である議員からの意見として受けております。

ご覧の通りで、やはり「県民の代表として」の議員からの意見として受けた、とのことでした。

何らかの法の根拠があれば「公権力の濫用」に問う事もできそうですが、あいにくそういったものはありません。そしてそれは申入れを行った議員自体が良く分かっていると思われます。

「制定法以外にも、法の一般原別である、平等原則・比例原則等が行政指導にも及ぶと解される。したがって、程度を超えた指導・勧奨は、不法行為を構成することがある」

(塩野宏『行政法Ⅰ 第6版』(有斐閣、2015年)230頁)

そしてこちらは「行政法Ⅰ」という法学の定番の書籍からの引用ですが、行政法には「行政法の一般原理」という「平等原理、比例原理、信頼保護原理(信義則)、権限濫用の禁止」という4つの原則があります。どうやら個別の法で規定されていなくともこれらの原則に違反するものは不法行為となる事がある、ということです。


ということで、6/8の申入れについては「グレーっぽい」という事は分かりました。ただそれだけで何かに問う事は難しそうです。

一方で民法第709条では「不法行為」というものが規定されています。
これは「不法行為によっ相手の権利などを侵害した場合は、損害を賠償する責任を負う」という規定ですが、その構成要件は

1 加害者の故意・過失
2 権利侵害
3 損害の発生
4 侵害行為と損害発生との間の因果関係

の4つとされています。今回の県議団の申入れについて見てみれば、

1は公文書として残る県庁への申入書
2は地方自治法第244条2項「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用   する事を拒んではならない」や憲法第21条の「表現の自由」に含まれる「集会の自由」の基本的人権の侵害
3は県公園緑地協会が処分を出し、撮影会主催者が損害を出している

とその要件を証明するのは簡単です。
すると4の「因果関係」、つまり「申し入れによって施設使用許可の取消しが起きた」事を立証できれば「不法行為」と認定される可能性が高いという事になります。

状況だけで言えば、2023年(令和5年)6月8日に共産党埼玉県議団の申入れが埼玉県庁都市整備部にあり、都市整備部から指定管理者の県公園緑地協会への連絡および指導、そして県公園緑地協会から水着撮影会主催者への「使用許可処分の取消し処分」が同日6/8の一日で行われています

通常、自治体などの役所の仕事は「法令に拠って進める」事が必要であり、その為の確認作業や決済などが必要となります。ですから一般的に時間がかかる訳です。
しかしこの6月8日においては、申し入れ→県都市整備部→指定管理者→主催者という工程が一営業日(8時間)以内で行われた事になります。申入れの会議時間や部内での決済処理作業、指定管理者内での水着撮影会の予定確認と各主催者への連絡、といった作業が合計8時間で行われたという事です。これは通常では考えられない超スピードで処理されましたね。

一部署でおよそ2~3時間で次にバトンタッチしないと一日で終わりません。
連絡のタイムラグとかも考えたら、書類にハンコ押すだけとかの「素通し」くらいじゃないとできない、と私は思いますが。

それに「通常ありえない事」が起きるには「通常では無い理由」が必要です。6/8にあった「通常ではないこと」は何か、といえば、それは「共産党が怒鳴り込んできた」事しか考えられないんじゃないの?というのが私の意見です。

そして慎重重厚に仕事を進めるお役所で、いろいろすっとばして超速で仕事を進めるチート技は何か。ありますよ。「上の偉い人の意向」という大技が。それを確認する為に調べ書いたのが、県公園緑地協会の組織について分析したその4の記事です。その結果分かったのが

●県庁都市整備部の部長(申入れを受けた人)は、
 県公園緑地協会の評議員会(最高議決機関)の評議員
●県公園緑地協会のトップの理事のうち2名は埼玉県庁から
 出向の公務員(都市整備部付)
●県公園緑地協会は埼玉県が50%出資の外郭団体で、
 県の要綱で定める「指定出資法人」として県の指導を受ける
●職員も1/5が県庁から出向。

とご覧の内容です。県公園緑地協会は埼玉県庁の機関ではない民間団体、ですが、内容は「ほぼ埼玉県庁の一部署」な訳です。幹部は県庁からやって来てて、数年お勤めしたらまた県庁に戻る人たちです。

一般論として「これは十分に県庁から『上意下達』できるんじゃね?」というのが私の意見です。これなら6/8一日で上から下まで超速で「御意向」が通るだろうな、と。


こういった内容を裏付ける為に、7月中にご覧の通り埼玉県庁に公文書開示請求を掛けました。併せて公益財団法人埼玉県公園緑地協会へも公文書開示請求を同じく掛けています。
「申入れ」から「使用許可取消処分」に至るプロセスに関わる連絡等の公文書、そして県公園緑地協会が主張する「4月下旬」や「5月下旬」にあったという市民からのクレームなどについての公文書を取得する事が目的で、これによって6/8に申し入れから処分までが「上意下達」で行われた事を証明、まではいかなくとも疎明は可能だと考えたからです。

※疎明「ある事実について、裁判官が 一応確からしいとの心証を得た状態、あるいは、その状態に到達させるための証拠提出活動のこと」だいたい6~7割くらい確信した、くらいの意味。

対象の処分が6/8で、行政不服審査法第18条では「処分があったことを知った日の翌日から起算して三月」が申立ての期限とされているので9/8頃が締め切りリミットとなります。

で、まず埼玉県庁の都市整備部公園スタジアム課への公文書開示請求。

・・・間に合わないじゃん。

一方の県公園緑地協会への公文書開示請求は。

・・・間に合わないじゃん(二回目)

ま、まあ、全部がすんなり開示されるとは思っていませんでしたよ。
過去に何度も東京都庁に通って開示してた事ありますから。

自分としては当初から「行政不服審査の申し立て」を行うつもりで、その為に必要な公文書を収集する為に開示を掛けてた訳です。
しかし請求する相手は不服を申し立てる相手な訳で。自分が追及されるネタを進んで差し出す奴はいませんから、できれば請求出す前に開示して欲しかった。でも、申立て期限に間に合わないんで、そこはさっさと諦めて、公文書無しでできる様に申立て書を作成する方針にしました。


で、8月19日(火)に県公園緑地協会から確認のメールが来たんで、
返信で「実は行政不服審査の申し立てするので教示よろしく」と書いておきました。

「教示」というのは「広く国民に行政不服申立制度を活用してもらうため、そもそも不服申立てができるのか否か、できる場合には、どのような方法で行うのか等を教えること」で、通常は処分時に書類に記載されています。
あと、行政不服審査法で申立書には「教示の有無」を書かねばならない、と規定されている(書かないと書類不備になる)ので聞く必要があったんです。そして今回は私は「処分の相手方」ではない第三者なんで「教示ちょうだい」と言った訳です。

そしたら8月22日(金)の返信には。

なお、行政不服審査法では、利害関係人につき、「審査請求人以外の者であって審査請求に係る処分又は不作為に係る処分の根拠となる法令に照らし当該処分につき利害関係を有するものと認められる者をいう。」(第13条第1項)と規定されており、総務省の行政不服審査法Q&Aでも以下のとおり記載があることを御参考に申し添えます。

Q5 他の人・事業者に対してされた処分について、審査請求をすることができますか?
A 処分について審査請求をする法律上の利益がある者、すなわち、その処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害された又は必然的に侵害されるおそれのある者であれば、処分の相手方でなくとも、審査請求をすることができるものと考えられます。

大変遅くなり誠に申し訳ございませんが、ご確認いただきますようお願いいたします。

これは見事な京言葉。
「いややわあ。あなたさんには請求人の適格は無いんどすえ」
って書いてありますねw

県公園緑地協会の担当の方、すごく丁寧で真摯な対応してる感出して返信下さるんですよ。他の方が質問してる記事とかを読んでもやっぱり誠実な感じで。
しかし申し訳ないですが、(ほぼ)役人の丁寧な対応をそのまま受け取る人間じゃないものでして。とりあえず翌23日(土)に「再度教示を求めます」と返信しました。

多分県公園緑地協会側には「請求する資格があなたには無い」って言えば諦めるだろうからそこで終了ですよ、くらいに思われてるんだろうな、と推察しました。だから、返信もまた週の仕事終わりの金曜日(9/1)にでもするつもりなんだろうな、と。

なんで先手を打って8月31日(木)の午前に審査請求書を県公園緑地協会へと送りつけました。週末の金曜日に着弾するように
郵便局で送付してから、メールで「審査請求書送りました」と県公園緑地協会に一報いれておいたら、午後に返信来てました。

それまで県公園緑地協会からのメールの、私への二人称は「〇〇様」だったんですが、8/31のメールでは二人称が「貴殿」になってました
やったぜ怒らせちゃった(というか怒らせた)w


という訳で、以下が今回送った「行政不服審査の審査請求書」の中身です。

水着撮影会の一件が起きて以降、「プールの使用規定が定められてなかった」とか「後出しで『ダメ』って決めて貸し出し中止はズルい」みたいな意見、要は「法や規定の遡及効」を問題視する意見を多数目にしました。
しかし私はその線で主張をしても「筋が悪い」と思うので、請求書では全く主張してません。

あとN党の浜田参議が6月13日6月20日に参議院で水着撮影会に関する質問主意書を出してくれてましたが、回答がほとんど受け流されていて使えませんでした。


正直自分がこの一件で何か追及しようがしまいが、使用管理者の県公園緑地協会と水着撮影会の主催者との間の関係には何も影響を及ぼさないと思ってます。私が何もしなくても賠償の話だとか今後のプール使用の話は二者でされるでしょうし。

それでも私が不服申し立てをしたのは「共産党の責任取らないBBA達を引きずり出したい」と思ったからです。


提出した行政不服審査の申し立てについてですが、ぶっちゃけ棄却(そもそも申立ての資格が無いので却下)の可能性も低く無いと思ってます。
一番可能性が高いのは「審査請求の目的が消滅している」という理由です。

水着撮影会のプール使用の日時は6社全部が6月中でした。そして今は9月です。つまり、今から6月の処分を取り消しても、もう9月だから6月に戻れないし意味ないじゃん、というのが「目的が消滅」です。
これを言われたら何も言えないし県公園緑地協会にドヤ顔されて悔しいw

あともう一つは、私は憲法第21条の「集会の自由」をメインに都市公園法、地方自治法で「処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する」と主張してる訳ですが、ここが認められない場合は却下される可能性がある、と思います。

実は今回の不服審査申立書で一番のネックはこの「申立て人適格」の部分でして。なんとかここを突破して口頭意見陳述で共産党のBBA呼んで問い詰めたいんですけどね。


とりあえず、申立ては出したので、あとは毎朝晩埼玉県庁の方向に向かってお祈りして待ちます。

では。


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