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埼玉県営の水上公園での水着撮影会中止騒動について。その5「共産党埼玉県議団の申入書の中身。」

さて、今回は日本共産党埼玉県議団が2023年(令和5年)6月8日に埼玉県庁に於いて、県都市整備部へと行った申し入れで提出された申し入れ書についてです。
以下は日本共産党埼玉県委員会がWebで公開している申入書です。

日本共産党埼玉県委員会がwebで公開している6/8の申入書を引用

埼玉県には埼玉県文書管理規則条例というのがあって、第十一条の附則で「請願、陳情等に関する文書等」を記録する事となっています。これで6月8日の申し入れについても記録がされているかな、と開示を掛けたところ、記録の文書は無いものの、申入書は公文書として保管しているというので開示を掛けました。

申入れのあった6月8日の県都市整備部公園スタジアム課の公印がありますので、申し入れ当日に埼玉県庁側が収受した事が分かります。
共産党県委員会の公開しているものとは、日付が一日違う他は内容は同じです。

黒海苔になっている部分の理由はご覧の通り。申し入れた当人側が全部公開してるのだから黒海苔の意味は無い気がしますが、こうして公文書の黒海苔が養殖される、という事例としては興味深いかと。

まあ余談はともかくとして、今後の必要もあると考えているので
今回はこの申入書について、細かく解析してみたいと思います。


まずは冒頭から。こちらの都市公園法第1条についてはその2で詳しく述べましたが、多くの法律の第1条というのは「目的規定」や「趣旨規定」と呼ばれるもので、法律の内容を要約したものでありそれ自体は具体的な権利や義務を定めるものではありません
目的規定は裁判や行政において他の規定の解釈運用の指針となり得るものですが、具体的な施策の内容は第2条以下に記されるものであり、第1条のみを根拠として法に抵触すると主張するのはナンセンスであると言えます。

そしてご覧の通り、都市公園法の第1条は「目的規定」となっています。
共産党埼玉県議団はこの都市公園法第1条の「都市公園の健全な発達」という文の「健全」を「性的な健全さ」と解釈する事で「都市公園の目的にふさわしいとは到底考えられません」と申し入れています

「都市公園法運用指針(第5版)」国土交通省都市局

国土交通省の指針によると、都市公園は「人々のレクリエーションの空間となる」とされています。水着撮影会というイベントはこのレクリエーションの範疇に入ります。
そしてここで述べられている「都市公園の健全な発達」とは「良好な都市環境」を指し示すものであり「性的な健全さ」という意味と同義で無い事は明らかです。

実際に都市公園法の第二条以下を見れば、設備や建物に関する設置や施設管理に関する条項が並んでおり、それらを統べる第一条の目的条文の「健全」が「正常で安定」という意味であることは瞭然でしょう。
「健全な財政」と言った時に「性的に健全な財政」という意味を主張するのは無理筋です、と言えばお分かり頂けるかと思います。

この点について県会議員が「悪意(知っている)」を持って主張しているのであれば「法の解釈を捻じ曲げる」行為であると思いますし、「善意(知らない)」であるのならば「行政の執行機関の運営の監視」を職責とする議員としては「その任にあらず」(職務権限に対してその能力が無い)と言わざるを得ません。


共産党埼玉県議団の申入書では、都市公園法のくだりの次には「男女共同参画基本計画施策」について言及がされています。
ここでのキーワードは「性の商品化」であり、水着撮影会が「女性の体を露出する」ことで「性に基づく体の商品化」を問題視し、「公の施設」を「性の商品化」に対して資する事を批判。水着撮影会主催者へのプール貸し出し中止を主張している、という訳です。

今回はフェミニズムについて論じるのは脱線なので要約しますが、
1970年代のフェミニズム運動が発端と言われる「性の商品化」については、日本では1990年代に「成年コミック」「有害図書」を批判するムーブメントの中で頻繁に用いられた言葉であり、以後定期的に巻き起こるコンテンツ狩り騒動でもキーワードとして用いられる事の多い言葉です。

この「性の商品化」を用いた共産党埼玉県議団の申し入れについては
フェミニストの柴田英里氏の指摘が分かりやすいので引用します。
これによると、申入書が引用している「男女共同参画基本計画施策」の内容は平成12年(2000年)閣議決定のもので、現在の「第5次男女共同参画基本計画」(令和2年(2020年)閣議決定)の20年前のものだとされています。

指摘に従って二つの文書を並べてみると、なるほど全く同じ文言がある事が分かります。現在の令和2年版の基本計画施策にはそもそも「性の商品化」の文言がほとんど使われていませんので、平成12年版の古い基本計画施策からテキストを引っ張ってきたことはまず間違い無い様です。

ちなみに「性の商品化 男女共同参画」でMicrosoft Bingで検索すると平成12年版の古い男女共同参画基本計画施策がトップでヒットします。
状況で判断すると、おそらくは共産党埼玉県議団では申入書作成にあたって複数の文献にあたっておらず、ネットで検索して最初にでてきた文書を引用したであろう、と思われます。テキトーですね。

男女共同参画の基本計画で「性の商品化」という文言が使われなくなった背景には「スラット・シェイミング (slut-shaming)」の問題があると思われます。
2011年(平成23年)のカナダ・トロントの大学での講演で、「商売女」や「あばずれ」を意味する「スラット」という言葉を用い「被害に遭わないためには売女(スラット)のような格好をすべきでない」と警察官が述べた事から抗議行動へと発展。「スラットウォーク」という女性差別反対運動が巻き起こりました。
こうした運動から「女性は貞節・貞操を守るべき」「女性は『清らか』『純粋』『純潔』であるべき」といった保守的女性観を基にする偏見によって女性の露出や性行動などを非難してその人を貶めることを指して「スラット・シェイミング」という言葉が生まれています。

フェミニズムに属する社会運動で用いられる「ふしだらな女性の性的表現を社会的に許容されうる方法で非難する行為」であるスラットシェイミングは社会的刑罰の一種であるとされており、女性や若年女性が標的の対象の性差別であるとされます。肌の露出の多い服装の女性を「淫らである」と非難する行為や、性暴力の被害に遭うのは露出の多い服装で誘うからだ、などという言動がスラットシェイミングの例として挙げられるスタンダードなものでしょう。

すると、「性の商品化」という言葉で女性の水着撮影会を「けしからんもの」として非難し中止を申し入れる行為はまさにスラットシェイミングであると言えます。法第89条2項において「住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならない」と規定されている県会議員がスラットシェイミングという性差別を公然と行っているという事になるのです。

私は共産党党員ではないので、共産党埼玉県議団がなぜリンチ(私刑)とも言えるスラットシェイミングを行うのかは分かりません。上層部からの意向なのか、党内での功名心からの行動なのか、はたまた別の理由なのかは知る由もありません。が、状況から思うに、県議団は「自分たちが性差別を公然と行っている」とは微塵も認識していないとは思います。
認識しているにせよ、していないにせよ、公然と性差別を行う県会議員に対して「その任にあらず」と考えるのは必然だと思うのですが。


そして共産党埼玉県議団の申入書では、都市公園法第1条や男女共同参画法などを根拠理由として「しらこばと水上公園貸し出しの中止」を「強く申し入れ」しています。
都市公園法、男女共同参画法については先に反駁しましたので、ここでは「公の施設」である県営プールの貸し出しについて考えてみたいと思います。

それまでの地方自治法では、「営造物」と規定されて公的財産の管理としての位置づけだったものが、昭和38年(1963年)の地方自治法改正で「公の施設」と改称されて「住民へのサービスの提供」や住民の「利用権」といった給付的側面が重視される事となります。

地方自治法第244条2項では公の施設の利用に関しては、憲法で保障されている集会の自由、 表現の自由に密接に関わるものであるので「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用する事を拒んではならない」と規定しています。

泉佐野市民会館事件(最高裁平成7年3月7日第三小法廷判決)の判例によると、最高裁は「住民はその施設の設置目的に反しない限りその 利用を原則的に認められることになる」としています。
そして「管理者が正当な理由なくその利用を拒否する ときは憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながるおそれが生ずる」ので、「その利用を拒否し得るのは」「施設をその 集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわ れる危険がある場合に限られる」としています。
◆参考「裁判所ウェブサイト  裁判例結果詳細 平成1(オ)762」

この泉佐野市民会館事件というのは、中核派系過激派団体が関西空港建設反対の集会の為に市民会館の使用を申請、市長が「公の秩序をみだすおそれがある場合」に該当するとして使用不許可とした裁判です。
最高裁は集会が開かれる事による「集会の自由の保障」と「人の生命身体財産が侵害され公共の安全が損なわれる危険」を天秤に掛け、「公共の安全が損なわれる危険」すなわち過激派との衝突による被害が「具体的に明らかに予見」されると認定し、「本件不許可処分が憲法第21条、地方自治法244条に違反するということはできない」としたものです。


また上尾市福祉会館事件(最高裁平成8年3月 15 日第二小法廷判決)では、JR総連の総務部長が新左翼団体の襲撃で命を落とす事件が発生したことで、市の福祉会館で合同葬を行うため使用許可を申請。「対立セクトによる内ゲバ事件」と報道されていた事から市長が使用不許可とした事を争う裁判で、使用不許可処分は違法であると判決されています。

この裁判では最高裁は「警察の警備によってもなお混乱を防止することができないほどの特別の事情がある場合」のみ不許可処分が出せると判断。今回のケースは「警備が必要というだけで管理上の支障が生じるとは言えない」として、条例に拠る不許可処分を違法であると結論しています。
◆参考「裁判所ウェブサイト 裁判例結果詳細 平成5(オ)1285」


泉佐野市民会館事件と上尾市福祉会館事件というのは「公の施設」の使用許可処分に関する判例としてかなりポピュラーなものです。
まず公の施設の使用に関しては地方自治法244条「正当な理由がない限り住民が公の施設を利用する事を拒んではならない」という大前提があり、施設の使用許可を出す「行政庁」が使用の許可不許可を判断するには憲法第21条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」を念頭に置かなければなりません。

「公の施設」の利用権とは住民の人権の保障の為に行政が行う「集会の場」というサービスの給付です。そして憲法第21条の「表現の自由」のひとつである「集会の自由」を保障する為には、基本的に公の施設の使用は「原則として認められなければならない」という事が判例にも反映されています。

実際に「公の施設」の使用不許可が出せる「正当な理由」には以下のケースが考えられています。

■公の施設の利用に当たり使用料を払わない場合
■利用の希望が競合する場合
■他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合
■その者に公の施設を利用させると他の利用者に著しく迷惑を及ぼす
 危険 があることが明白な場合 

上尾市福祉会館事件では、左翼の過激派同士の衝突が懸念されるというケースでしたが、「警察の警備が必要」程度の理由では使用不許可処分は適法では無いと判断されました。
上の例の利用料金を払わない、予約のダブルブッキングといったケースを除けば、施設の使用不許可の処分を出すのはかなり高いハードルであると言えるでしょう。やはり憲法第21条はかなり重いものだという事です。


そして参考となるのが「『表現の不自由展かんさい』の大阪府立労働センター利用承認取消事件」(令和3年(行ト)第42号)の判例です。

2019年(令和元年)に国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2022」の展示が右翼左翼で大騒動となりましたが、中止となったこの芸術祭の展示を2021年(令和3年)に大阪府立労働センターで開催する為に有志が使用許可を取りました。ところが「慰安婦像」などを展示することから抗議が相次ぎ、指定管理者が「安全確保が難しい」として利用許可の撤回をしました。これを不服とした有志が使用許可取消の執行停止を申し立てた、という事件です。

この事件では「反政府的な作品を展示する『表現の自由』(展示を行う集会の自由)」と、「右翼系の抗議行動による実力行使の危険性」を理由とする施設使用不許可との争いとなりました。

これについて一審と控訴審では泉佐野と上尾の判例を援用し、「警察の適切な警備によってもなお混乱を防止できない」状況では無いとして、原告の求める使用許可取消処分の執行停止が認められています。

判決を不服とした大阪府側管理者が上告して行われた最高裁の判決では
①「集会(表現)の自由の重要性」と、集会が開かれて起こる「基本的人権や公共の福祉への危険」との比較衡量
②集会で起こる「危険性」が「明らかな差し迫った危険」に至るか否か

という二段階の判断基準が提示されており、本件においては「表現の自由を制約するに足る『差し迫った危険』は認められない」とされています。
◆参考「TKCローライブラリー 新・判例開設Watch◆憲法 No.193」

大阪府側の管理者が使用許可処分を撤回するまでには、電話とメールが70件程度、街宣活動が3回ほどあったそうです。一説には施設に「サリン」と書かれた紙と液体入りの袋が送りつけられたとも言われています。
それでも「危険は認められない」として一審、控訴審、最高裁の全てが「使用許可処分の撤回」について執行停止の判断をしたのです。
憲法第21条(表現の自由)に拠る、公の施設の使用を不許可とするハードルの高さがお分かりいただけるのではないでしょうか。

ご覧の通り「公の施設」の使用許可に関する判例は、これまでは「反対の抗議活動」などによる暴力的な衝突など「警察の警備でも防げないような暴力抗争」を「迷惑要件」とした事例ばかりでした。
いわば「人の生命、身体又は財産」を守る観点からのみの判例であり、「人格的利益は(まだ判例に)考慮されていない」とする意見もあります。

しかしながら、集会によって公園の利用に支障を及ぼす事態が生じることが「客観的な事実に照らして具体的に明らか」に予測される場合にのみ、表現(集会)の自由を制限することが可能である、とする最高裁判例の趣旨は、「水着撮影会が『性の商品化』という人権侵害である」という程度の主張にも十分射程があると思われます

TBS「NEWS DIG」記事より引用

水着撮影会の使用許可が開催2日前に「ドタキャン」で使用不許可処分となった主催者には、イベント準備費用としておよそ1000万円の損害が発生したとされており、複数のメディアでも報道がされています。

法の下では「比例原則」というものがあって、法律全般で用いられる概念であり行政手続きでも重要なものです。
これは「公益上の必要性に対して、自由や利益の制約の程度は比例的でなければならない」というもので、「雀を撃つのに大砲を使ってはいけない」と例えられる原則です。

今回の水着撮影会の件で言えば「水着撮影会は『性の商品化』だから公共の場で開催するのはけしからん」という話と、「水着中止にさせられて1000万円損害が出ました」という話のつり合いが取れていますか?という話になります。

6/8に共産党の申し入れがあり、ご覧の様な杜撰とも言える内容の申し入れであったにも関わらず、県都市整備部は内容をろくに精査せずに当日に指定管理者の県公園緑地協会へと丸投げし、協会も即日ノータイムで撮影会主催者へ「使用許可撤回の行政処分」を出したのは、以前説明をした通りです。

行政機関には一定程度の裁量が認められているので、指定管理者にも施設管理に関して一定の裁量権があります。そして「水着撮影会にクレームが来たからプール貸し出しをやっぱりやめるわ」という話は、おそらく不法行為に当たりますよ、という話を上で判例を用いて今回説明してきました。しかも状況的にはろくに内容を精査もせずに惰性的に、です。こんな軽い気持ちで不利益処分を出した結果が1000万円の損害です。このことが「比例原則違反」であると思われるのです。私は「共産党県議団のお気持ち」と「1000万円」が釣り合うとは思えません。

水着撮影会の騒動では、県公園緑地協会は撮影会主催者へと与えた損害に対して、弁護士と相談の上で保証する意向を表明しています。比例原則違反による不法行為として考えれば賠償の責任は免れないと思いますし、きちんと賠償されるべきだと思います。

そして、責任を取りたく無いでしょうから全力で否定するのでしょうが、この様な違法な行政行為の発端は間違いなく共産党埼玉県議団の6/8の申し入れによるものです。少なくとも共産党埼玉県議団申し入れ→県庁の指導→指定管理者が施設使用の許可処分の一連が全て、申し入れ当日に起きていますから、責任の有無はともかく「申し入れはきっかけではない」というのは無理筋でしょう。
この申し入れについては、私が埼玉県庁に問い合わせたところ「執行機関としては、県民の代表である議員からの意見として受けております。」との回答を得ています。

つまり「『県民の代表である議員』の申し入れの結果、違法な行政作用が誘発された」と思われる状況な訳です。旗色が悪くなって以降はダンマリを決め込んだ共産党埼玉県議団がこの結果の責任を負う事はあるのか、が近々の私の興味でもあります。

では。


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