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埼玉県営の水上公園での水着撮影会中止騒動について。その2「都市公園法第1条、県と指定管理者との関係などを法的に整理」


さてさて。その1では埼玉県の県営プールでの水着撮影会の中止騒動について時系列にまとめさせていただきました。
まあ、並べるだけならば誰にでもできるので「資料として分かりやすく残す」という以上の意味はありません。今回はデジタルタトゥーとして残したい、という意図はあるのですが。

その2以降では、整理した内容について細部を細々と検証したいと思います。

さて、こちらは再び、6月8日(木)に日本共産党埼玉県議団が埼玉県の都市整備部に対して行った申し入れ書の内容です。

日本共産党埼玉県議団は水着撮影会への県営プールの貸し出し中止を要求。その根拠として男女共同参画法とともに、都市公園法第一条を根拠として申し入れを行っています。

まずここでは都市公園法に絞って、共産党埼玉県議団の申し入れが妥当であるのか否かについて検証してみたいと思います。

こちらが都市公園法の第一条の条文です。
「この法律は、都市公園の設置及び管理に関する基準等を定めて、都市公園の健全な発達を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」というシンプルな内容となっています。

法律では一般的に冒頭に第一条に目的規定や趣旨規定が置かれます。
これは「その法律の制定目的を簡潔に表現したもの」であり、それ自体は具体的な権利や義務を定めるものでは無いのですが、特に目的規定は裁判や行政において他の規定の解釈運用の指針となり得るものです。

また目的条文では、立法を行うに至った動機を述べたり、直接の目的だけでなく究極的に大きな公益に資する旨を明記などしてその法律の必要性や意義を強調する手段とする場合も多々あります。
立法することでその法律が目指す理想の世の中を示し、それを達成する為の手段をまとめた「その法案全体の要約文」が第一条の目的条文の役割です。
ですので目的条文自体は具体的な権利や義務を定めるものではありません
法で定める施策の概要を第一条で述べ、それが何に資するのかを宣言するものなので具体的な施策の内容は他の条文にある、というものなのです。
 ■参考:参議院法制局「目的規定と趣旨規定」

6月8日(木)の申し入れで日本共産党埼玉県議団は、この都市公園法の第一条を根拠の一つとしてプール使用許可の撤回を求めていますが、具体的に義務等を定めたものではない第一条を根拠とする事はナンセンスであり、拠る事のできない無理筋の主張である、という事になります。


次に、以下は地方自治法において「指定管理者」について定めた条文です。

小泉内閣で行われた「小さな政府」化による、民間へのサービス移管の中で行われた「公営組織の法人化・民営化」(公設民営)の一環として2003年(平成15年)に地方自治法の一部が改正。地方自治体の作った施設の管理運営を民間にアウトソーシングする仕組みとして成立したのがこの「指定管理者制度」となります。

指定管理者は公募によって選定され、その指名は「行政処分」として行われますので、一般的な「(委託)契約」とは異なります。「処分」とは「公権力の行使」の事で、この場合は県知事が県営施設の指定管理者に業者を選定し指名する事が「公権力の行使」なので「処分」となる、という事です。

埼玉県の県営プールに関しては、埼玉県知事が「行政庁」として権限を持っています。そして埼玉県の街づくり全般を所管する県庁の都市整備部が「補助機関」として知事の職務を補助。都市整備部の公園スタジアム課が実際に補助機関として、指定管理者である埼玉県公園緑地協会を「設置者としての責任を果たす立場」から監督しています。


そして「指定管理者」についてですが、地方自治法第二百四十四条の二第三項に拠って条例で別途定める事となっています。以下で埼玉県の都市公園における指定管理者について定めた、「埼玉県都市公園条例」の当該部分について見てみたいと思います。

元々埼玉県の場合、県営の公園を管理する「行政庁(意思を決定し、外部に表示する権限を有する機関)」は埼玉県知事であり、補助機関として県都市整備部が管理を行っていました。実際に県営プールの運営を行っていたのは委託契約を結んだ埼玉県水上公園協会(埼玉県公園緑地協会の前身)であり、その後法改正によって委託契約だったものが「指定管理者」へと移行し現在に至っています。

埼玉県都市公園条例の第九条から第十三条は、県知事が公園での「利用許可」という「行政処分」を出す根拠となる条例ですが、地方自治法で指定管理者が認められたのを受けて条例の第二十二条第二項を追加。知事が行っていた公園利用の許可を指定管理者が出せる事が条例で定められました。簡単に言うと「施設の管理権限を委任」した訳です。

これはどういう事かというと、指定管理者は行政処分に該当する「使用許可」を出す権限を持ったという事で、すなわち指定管理者は「行政庁」であるという事です。民間団体ながら公権力を持った存在だという事になります。
埼玉県の指定管理者については、埼玉県都市公園条例の一部に条文を追加したものなので、行政庁であると具体的に明示されてはいません。ですが使用許可取消処分等の「処分」をする権限が条例で規定されていますので「行政庁にあたる」と解されるという事になります。
また実際に総務省の手引書にも「行政手続法に おける『行政庁』に相当する」と書かれているそうなので、指定管理者団体は行政処分を行う権限を持つ行政機関という位置づけとなっているのです。

一般的なイメージだと県営プールの管理者は「県の下請け業者」だと思われています。ですが実際には県庁の組織図で知事の下に書かれる「補助機関」ですらなく、指定管理者は「自治体に属さない行政庁」であるという事です。
「施設の管理権限を委任」されている訳ですから、委任された権限は受任機関に移転することになり、受任機関は自己の名と責任において権限行使を行う事となります。県知事に権限が残る「代理」と違うのはこの点です。

受任機関が委任機関の下級行政機関である場合には、その権限行使について受任機関を指揮監督することが可能です。ですが、埼玉県公園緑地協会は公益社団法人という「民間の組織」ですので埼玉県との上下関係がありません。ですので委任機関(埼玉県)が受任機関(公園緑地協会)を指揮監督することができないという事になります。
通常であれば。

しかしここで再び、指定管理者制度について定めた地方自治法第二百四十四条の二第十項を見ると、「普通地方公共団体の長又は委員会(この場合埼玉県知事)」「指定管理者(埼玉県公園緑地協会)」の管理する公の施設(この場合県営プール)の管理の適正を期するため、指定管理者に対して、当該管理の業務又は経理の状況に関し報告を求め、実地について調査し、又は必要な指示をすることができる旨が定められています。

6月12日(月)の埼玉県知事の定例記者会見で、大野知事は県公園緑地協会が行った中止要請に対して「一部の要請を撤回」するように指導したことを明らかにしています。
これは県公園緑地協会という「行政庁」が行った「行政処分」たる中止要請に対して、埼玉県知事が地方自治法244の2に拠って「指導」をしたと解せます。

 ■指定管理者(県公園緑地協会)は埼玉県知事の「下級庁」ではない
  →知事に指揮監督権限が無い
 ■地方自治法244の2の10項で県知事が指定管理者(県公園緑地協会)へ
  指示を行う権限を持っている
 ◆処分庁(県公園緑地協会)はイベント使用許可の
  「取消」や「撤回」の権限を持っている。
 ◆一般的に「上級庁」は「下級庁」へ「取消」は指示できるが
  「撤回」は指示できない。
 ◆「取消」元々瑕疵のある行政行為の効力を遡求的に失くすこと
  (遡及効)   
  「撤回」瑕疵がなかった行政行為の効力を将来に向かって失くすこと  
  (将来効)
  →知事は会見で「撤回を指導」としている。法的に「指示」には
   強制力があり「指導」には無い。

水着撮影イベントの県営プール使用許可については、指定管理者の県公園緑地協会が「行政処分」として使用を許可したものです。
イベント中止については県公園緑地協会は、強制力のある「取消」ではなく事実行為(いわゆるお願い)である「要請」を主催者に行った様です。

しかし中止を要請する理由として県公園緑地協会は「過去に利用したイベント使用が公序良俗に反するものと判断し、施設の使用を許可しないとした」と述べています。これはイベント使用許可の「成立時に瑕疵」があると判断した上での行為と解せますから、事実上の「使用許可取消」と思われます。

また埼玉県知事の「指導」についてですが、
これは「上級庁」ではない県知事が使用取消という「行政処分」を後から報告を受けて知った、というスタンスを取りたいという事から、
地方自治法244の2の根拠はあるものの主体的にイベント使用取消の「職権取消」をした形にしたくなかったので、強制力が無い「指導」とした、と考えられます。
そもそも指定管理者が「行政庁」であるかも明示されていないあやふやな状況での事態であり、政治的にも微妙な判断が必要である状況から、このような談話になったのではないかと思います。


こうして状況を主に法的に整理してみたのは、指定管理者も埼玉県もあいまいな表現を用いているので、それぞれの立場を明確にしたいと考えるからです。資料の開示請求を掛けるにせよ、県へ問い合わせを行うにせよ、訳の分からない状態で行っては責任も追及できず、すかされて終わってしまうでしょう。

可能であれば今回の原因を作った当事者達への責任を追及したいと考えており、県への確認作業はその前準備と捉えていますので、その為の準備をした次第です。

「問い合わせをした」「まとめた」だけなら誰でもできますし、結果が伴わず意味が無いと思っています。追ってアクションを行いその3以降でまとめたいと思います。

では。





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