#4『苦手な食べ物』

 食べ物の好き嫌いがほとんどない。
 強いて挙げるなら、炭酸飲料が飲めないくらいでだいたいの食べ物は避けることなく食べられる。
 そんな私が、食べるのを躊躇してしまう種類の食べ物が最近発覚した。それは、屋台または専門店でのみ販売されている、若い女性をターゲットもしているであろう飲食物だ。
 タピオカミルクティーなんかはわかりやすい例であろう。私が高校生の時に、丁度ブームが到来してしまったがために、街にはタピオカミルクティーの専門店が乱立していた。自宅から遠く離れた田舎の高校に通っていたが、それでもタピオカの話で盛り上がる同級生は後を絶たなかった。

 タピオカミルクティーを初めて口にすることができたのは、高校を卒業して少し経った大学1年生の時である。その頃は、まだまだタピオカのブームに衰退の気配はなく、大学近くに3店舗程、専門店が林立されていた。にも関わらず、未だに飲むに至ってはなかった。
 そんなある日、実習で帰りが遅くなった私が欲していたのは「刺激」であった。刺激といっても、冒険や旅行といった大層なものではなく、最寄り駅を降りて布団で眠るまでの間の数時間のうちに味わえる刺激が欲しかったのだ。よし、タピオカドリンクを飲もう。そう思い立つと、私は一目散にセブンイレブンに駆け込んだ。
 飲むヨーグルトや黒酢が並ぶコーナーにタピオカドリンクは置かれていた。いつもの自分だったらここで珈琲牛乳なんかを買ってしまうが、今日は違う。何と言っても、刺激を求めているのだ。
 ミルクティーよりも黒糖ラテの方が幾分美味しそうだったので、そちらを購入することにした。この瞬間まで私は「タピオカドリンク=タピオカミルクティー」だと思っていた。この日は、最近みんなが手に持っている生成色の飲み物はの正体はこれだったのか、と気付いた日にもなった。
 黒糖ラテを片手にレジへ並ぶ。世間体を気にする物、親に見られると困る物、半透明ではないビニール袋に入れられるタイプの物、などなど。私のタピオカドリンクに対する印象はこんな感じだった。馬鹿にしていると思われるかもしてないが、本当にこんな感じだった。私はコソコソしながら商品をレジへ通した。

 家に帰ると、親に見つからないように黒糖ラテを隠しながら自室へ向かい、薄暗い部屋で布団にくるまりながら飲んだ。美味しかった。「日常的にコンビニで買う飲み物選抜」には入らないが、確かにみんながこぞって飲んでいる理由も理解できた。
 しかし、タピオカドリンク好きに言わせると、コンビニのタピオカは「ホンモノ」ではないらしい。この場合の「ホンモノ」とは、「え、君ウニ嫌いなの!?それホンモノ食べたことないからだよ〜。ホンモノはスーパーの寿司なんかとは全然違うよ〜。」という場合の「ホンモノ」である。どれだけ相手に好意を寄せていようが「うるさい。」の一言しか出てこないあれである。ただ、ホンモノのタピオカドリンクを味わってみたいという気持ちがないわけではない。しかしながらその日から3年が経過した今でも、専門店のタピオカドリンクを飲めていない。

 「メロンパンにアイスを挟んだやつ」と「串に刺さった苺が飴でコーティングされているやつ」も未だ口にすることはできていない。どうにかして食べる機会を見つけたい。絶対に美味しいと思えるはずだ。
 露店やキッチンカーで見かけても、なぜか後回しにしてしまう。いっそのこと全部コンビニで売ってくれれば食べられるのに。でもそれは結局「ホンモノ」じゃないのか……。コンビニで「ホンモノ」が売られる日を気長に待つしかない。


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