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最初で最後のお泊まり

彼と1回だけ朝まで一緒に居た時の話。

いつもはホテルで欲望を満たした後、
家の近くのコンビニまで送ってもらい、
『またね』ってバイバイする。

あの日はお互いに仕事で疲れてて
会うのも遅くなってしまって、
欲望を満たした後は2人でグッタリ。
次の日、私だけが仕事だった。

『どうする?帰らなくていいの?』

彼にそう言われて起こされた。
けど、疲れてるのと満たされた欲望で身体が重たい。

『明日早く起きてホテル出よっか』と、
彼がふとんを整えてくれた。
薄れた意識の中で、朝まで一緒にいれる!って
嬉しかったのを覚えてる。

この頃から、私は彼を好きな事に気づいてた。

一緒に朝まで居たいとか、家に来てほしいとか、
そういう世間一般的な、カップルが自然とやってる事は、彼には言えなかった。

だって、私たちの関係には名前がない。

目に見えない、透明なガラスで
どこまでも踏み越えれない仕切りがあった。

彼の寝息が聞こえてきた。
私は気づかれないように泣いた。

すぐに隣にいる好きな人に好きだと伝えれない。
なんて苦しくて辛いんだろう。
声は出せないから、本当は泣きじゃくりたいけど、それを我慢して喉がさけそうになりながら
涙が溢れる。鼻水も出るけど、すすったらバレてしまう。
口も鼻も詰まって、息ができない。
ベッドの上で溺れそうになった。

でも彼と朝まで同じ空間にいられる事が
嬉しかった。でも辛くて帰りたい。
嬉しいと苦しいがせめぎ合う。

何も考えないように目を瞑っても止まらない涙。
泣き疲れて、気づいたら寝落ちしてた。


でも、その夜は
なんだか眠りが浅くて、何度も目が覚めた。
その度に、彼と私は身体のどこかが触れ合ってた。

私が動くと、彼はちょっと目が覚めて、
身体のどこかをくっつけてくる。

その繰り返し。

なんだか、嬉しかった。

彼も寂しいのかな。
それとも、女の人と寝る時の癖なのかな。

どちらにせよ、同じベットで寝てるのに
離れ離れで寝るよりも、
身体のどこかが触れてる方がいい。

なんか、勘違いしてしまいそう。

私のことは、欲望を満たす道具としか思ってなくても、なんとなく大事にされてるのかもしれない、そう思いたかった。


朝起きて、いつもの通り、
家の近くのコンビニまで送ってもらった。
朝ごはん買ってくれた。

彼が買ったコーヒーが、
間違って私のビニール袋に入ってた。

私は気づいてなくて、『じゃあね』って
言ったら、
『俺のコーヒー…』って呼び止められた。

『これ、私のコーヒーだもん!』ってちょっと意地悪言ってみた。

『別にいいけど…』っていう彼が
残念そうな顔してて、なんか可愛かった。


この人は彼氏になってくれないだろうか。


何度思ったか分からない。
それは叶わなかった事で、覆る事は無かった。

お互い独身なのに、付き合うという形がとれない。
彼には私ではなかった。
そして、
私にも彼ではなかった。

ただ、それだけの事。
なのに、あの夜の事を思い出しては涙が出るよ。

嬉しくて、苦しかった最初で最後のお泊まり。

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