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[ドラマレビュー] 『シェイムレス〜俺たちに恥はない〜』シーズン2:地獄の底で消えてゆく命と誕生する命 (アメリカ 2012)

※シーズン1のネタバレあり

イギリス発の同名ドラマのリメイク版は今シーズンも絶好調。出所したおばあちゃんや、実はジミーだったスティーブ の美人妻なども加わり混沌を極めてゆく。
見どころは、長女フィオナのジミーとのロマンスの行方と、長男リップの家出と、祖母ペギーの帰宅。悲惨なカオスの中にいながら毎日明るく楽しいギャラガー一家の日常が、根深い現代アメリカの社会問題と絡めて描かれる。

監督はジョン・ウェルズが続投。作家陣もほとんど変わらずシーズン1の続編として滑らかにスタートする。

あらすじ

シカゴ南部のスラム街に暮らすギャラガー一家は崩壊家庭。
父フランクはいつも通りアル中、母モニカは病気が悪化し自殺未遂、長女フィオナは親と兄妹の世話でヘトヘト。
秀才の長男リップはセフレを妊娠させ、次男イアンはミッキーとの関係でトラブルが。
三男カールは今シーズン遂に銃を入手し、次女デビーは初恋を経験。
唯一マトモな末っ子リアムは今日もぶっ飛び事件の連続のギャラガー家ですくすく育つのだった・・・。

キャスト

フランク・ギャラガー(ウィリアム・メイシー):父。アルコール中毒で無職。
フィオナ・ギャラガー(エミー・ロッサム):長女。共依存症の世話焼き。
フィリップ・ギャラガー(ジェレミー・ホワイト):長男。通称リップ。秀才の高校生。カレンが好き。
イアン・ギャラガー(キャメロン・モナハン):次男。ゲイ。軍人を夢見ている。
カール・ギャラガー(イーサン・カトスキー):三男。サイコパス傾向アリ。
デビー・ギャラガー(エマ・ケニー):次女。父曰く、「天使みたいな子」
リアム・ギャラガー(ブレンドン・シムズ):四男。2歳。みんなのアイドル。
モニカ・ギャラガー(クロエ・ウェブ):母。躁うつ病。
ペギー・ギャラガー:フランクの母。

ベロニカ:仲のいいご近所さん。元看護師。
ケビン :ベロニカの彼氏。フランクの行きつけのバー、『アリバイ』のバーテンダー。
ジミー(スティーブ ):フィオナの元彼。車泥棒。
ミッキー:近所の不良。イアンの元彼。服役中。
マンディ:ミッキーの妹。妊娠中。イアンとリップが好き。
トミー:警官。フィオナの幼なじみでフィオナが好き。

シーラ・ジャクソン:潔癖症で広場恐怖症のご近所さん。フランクと不倫。
カレン・ジャクソン:シーラの娘。セックス依存症。妊娠中。
ジョディ・シルバーマン:カレンの夫。知的障がいがある。

エステファニア:ジミーのブラジル人妻。マフィアの娘。
マルコ:エステファニアの彼氏。

スタッフ

原作 ポール・アボット
監督 ジョン・ウェルズ、ポール・アボット
脚本 ジョン・ウェルズ、ナンシー・ピメンタル、アレックス・ボースタイン、マイク・オマリー、エイタン・フランクル、ラトヤ・モーガン、スティーブン・スカファー

帰ってきたスティーブ !

第一シーズンでトミーに脅され街を出ていったスティーブ は実はジミーであることが判明。離れている間、なんとブラジルでマフィアの娘の駆け落ちを手伝うために結婚していた!
事情を知ったフィオナは、ジミーを受け入れる決意をする。一歩進んだフィオナは、新装開店するクラブの副支配人の座も勝ち取り、GED(高卒認定試験) にも受かり、仕事も恋も絶好調。
そんなフィオナとは反対に長男リップは反抗期に突入。セフレのカレンの妊娠を機に家を出るが・・・。

転落寸前のリップが迷走中

想いを寄せていたカレンにフられ傷心のリップに更なるトラブルが。なんとカレンが妊娠したのだ!
カレンとお腹の子を養うために高校を中退する決意をしたリップは反対するフィオナと衝突し、家を出る。
宿なしとなったリップは知り合いの家を転々とするが、最後に行き着いたマンディの家で彼女の妊娠の秘密を知ってしまう。

今シーズンのテーマは循環する命

主にフィオナのロマンスと苦労に焦点が当たった第一シーズンに対し、今シーズンのメインテーマは、消え、また誕生する命となっている。
シーズン前半は出所した祖母ペギーに焦点が当てられる。ギャラガー家にやってきた彼女は、フランク以上にぶっ飛んでいて彼を顎で使い、世話をさせる。涼しい顔で息子の手をぶっ刺すような強烈おばあちゃんなのだ。
しかし、彼女は実は末期のガンで先は長くはなく、激しい痛みに苛まれていた。

ホスピスに入れない者たちの末路

体の痛みと衰弱で満足に歩けないペギーはトイレに間に合わず漏らしてしまう。更に食事もできず、入浴も介助なしでは不可能。普通ならホスピスに入れるレベルだが、ギャラガー家にそんなお金はなかった。

(日本では国民健康保険が適用となるため、1ヶ月あたり自己負担上限額の約9万円で入院できるが、アメリカの健康保険は民間が主なため、経済的に余裕がないと無保険となる場合が多い。ペギーもそのひとりだったか、保険に入っていたとしてもホスピスがカバーの範囲外だったと考えられる。
放送当時オバマケアは施行前)

そこでペギーは違法に鎮痛剤を入手し服用する。いっときはそれでよくなったものの、フランクが鎮痛剤を持ち去ってしまい(彼も麻薬中毒なのだ)、地獄の苦しみに七転八倒する。
そしてペギーはその苦しみから逃れるために・・・。

「人生はどうしてこんなに残酷に人を苦しめるの」というシーラの言葉に集約された生き地獄

最期までペギーに付き添ったご近所の広場恐怖症の奥さん、シーラは天を仰いでこのセリフを言う。そのやるせなさに共感した視聴者も多いだろう。

シーラの言葉はときに哲学的である。彼女は、変えられないものを変えようとはしない。
他の登場人物のように政府や、システムや、役人や、富裕層に怒ったりしない。この世にあるあらゆる不正義と不公平を受け入れる。まるでニーバーの祈りを体現したかのような穏やかな人だ。(最後部のオマケ参照)

その彼女が、ペギーの苦しみを目の前にしてこう叫ばずにはいられないのだ。
なぜ、人はこんなに苦しまねばならないのか。
なぜ、こんな悲惨な運命を辿らねばならないのか。

問うても仕方のないことを知っていながらそれでも問わずにいられない。ペギーの苦しみようはそれほどだったのである。

消えゆく命と生まれいづる命

死がテーマだったシーズン前半に対し、後半は生命がテーマとなる。リップのセフレ、カレンの妊娠と出産である。
迷走中のリップだったが、父親としての責任感はきちんとあり、子供を育てる覚悟を決める。
しかしカレンが望まなかったため養子に出すことに。赤ちゃんへのメッセージをこめたビデオレターを作ったり、養子に出す手続きをしたりとカレンの意思を尊重するが、いざ子供が生まれてみると予想外のハプニングが発生し・・・。

まとめ 死と別れと共に始まった物語は、生と再会で幕を閉じる

全体を通し、希望溢れるシーズンだったといえる。
シーズンの眼目は循環する生命と希望。悲惨な死、絶望がありながら、その中でも力強く生きる生、生まれる命、希望が描かれている。

本当に無駄なラインが一行もない、トップクラスの素晴らしい脚本とそれを体現する俳優陣に感動した。
シーズン1同様トップスピードで走り続けるシーズン2は期待以上で、今後にも期待が持てる。

来シーズンの目玉はイアンとミッキーが復縁するかどうかとリップの進路、そしてフィオナとジミーの間に新しいギャラガーが誕生するかどうかになりそうだ。

ゴー、ギャラガー!

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オマケ:ニーバーの祈り対訳

God, give us grace to accept with serenity
the things that cannot be changed,
Courage to change the things
which should be changed,
and the Wisdom to distinguish
the one from the other.
神よ、変えられないものを受け入れる心の穏やかさと、
変えられるものを変える勇気と、
そのふたつを見分ける知恵を私にください。       (lucky訳)

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