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トランセンド……好きだ。人の思いやり方と、かっこよさと、常識。ウマ娘っぽくない魅力がいっぱいなキャラだけど最後はウマ娘に落とし込んでくるストーリー(震災の話アリ注意)

まったく。最近のソシャゲはキャラを作るのがますます上手くなっていて、「どうせこういうのが好きなんでしょ」というのが露骨になってきましたね。

ありがとうございます。そのほとんどがしっかり好きです。

というわけで今回はウマ娘のトランセンド。見た目や仕草は散々Xで流れてきたので知っていたのですが、育成イベントをやってみたらかなりよくって沼に入ったのでそれについての記事です。やったね。


まずは史実

競馬素人なのにまんまと史実と実際のレース動画を見るようになってしまったトレーナーなので、今回もサクッと見てみました。トランセンド、ゲームプレイ前とプレイ後でG1レースの実際の映像の味わいが変わってきたなって思いました。

サクッと概要をつまむなら、ドバイのレースで二位にもなったしG1をけっこう勝ったけど、急に失速した馬って感じですね。

ジャパンダートカップを連覇したレースを動画で見たのですが、逃げて先頭を譲らず、最後の直線でもう一度加速するって感じなのですね。

最も活躍した年が2010年~2011年。なるほどそういうことかという気持ちになります。
2011年の3月11日は震災がありました。私も一番被害があった現地からは離れた位置で食らったのですが、現地の知人が亡くなっています。当時、だいぶパニックになっていたと思います。そのことはやはりウマ娘版のトランセンドを語る上では欠かせない話ですね。今回はそこに触れていくので注意してください。

震災をまたいで二連覇したジャパンダートカップ。しかも史上初めて連覇した馬だったのですね。すごいや。

ウマ娘トランセンドの魅力

キャラクターとしての魅力はやはりかっこいいというところが大事な気がします。
広い交友関係を持っていて、前向きで、おもしろく、気楽。会話の端々からも相手を不快な気持ちにさせない気遣いが序盤や細かいイベントから感じ取れました。

彼女はクラファンなどに積極的に参加して、おもしろいものを収集したり交流がある人を助けるといった毎日を送っているようでした。かっこよすぎる。

真の意識高い系ってこういう人を言うんだろうなという性格だと思います。なんというか、真意どうこうではなく、きちんと人に気を遣いながらも面白い話を進めていく力とフットワークの軽さがあるわけです。かっこいい。

人のために行動をたくさんしている結果、自分に返ってきて成長していくというのが、まあトランセンドのストーリーを簡単に説明した言葉になると思っています。

あとはまあ、トレーナーとの距離感の近さだよね。

性別関係なくこういう友達がいたら人生って超楽しいだろうよと思わざるを得ない。そんな魅力を持ったトランセンドなのでした。

個人的にフォーカスしたのは常識力と言葉や思考のバランス感覚。ウマ娘っぽくない魅力

「北」とぼかされた田舎で起こる地震災害がアプリ版のストーリーで発生します。

ものすごい数の感情が動きました。正直、私は一回ここでプレイを置いて、なんとトランセンドを意気揚々と引いてから一回目の育成完了まで三日間かけています。

そのくらい災害って強烈なトラウマを人に植え付けるのです。

「閑話休題」としましょうか。

魅力の話に戻ります。

震災は、たくさんの人が意見を言って、善意をもとに好き勝手色んな人が言葉を並べます。おそらく、今から私がやろうとしていることもそれにあたるのですが。それでも語ろうと思います。

まあ震災だけではなく、世の中における災害級の事件においてたいていそうなってしまいます。ですが、多くの人は善意なのです。このことは忘れずに受け取る必要があります。ただ、その言葉に疲れてしまう人が出てきたり、長い期間生活に身が入らなくなってしまう人がでてきます。

これについて踏み込んだこと書く前に少しだけ色んな前提の話をした方が良さそうです。前提からぬるりと本題へ入る感じで語りますね。

私は理系およびデザイン系の人間ですが、けっきょく世の中を動かすのも、人の気持ちや常識、世間や社会を作るのは言葉と熱狂だと思っているのです。この言葉と熱狂を操るのが上手な人が大量に人の認知を誘導していってしまいます。

ここでいう言葉は、それぞれの性格ともいえるかもしれません。立場によっては政治とも言えるかもですが。

震災はまだ日本人が経験したことない事態や被害がいくつかおきました。それによって生まれた混乱を、どんなにていねいに考え言葉を作ろうとも、全員の立場をその理解にあてはめていいような言葉は難しいです。

簡単な話でも、自粛なのかいつも通り過ごすのか、もしくはその場から離れて休養が必要なのかみたいなバランス感覚というのは、何かの専門家だって難しいようでした。

トランセンドのストーリーでも、そのあたりはかなり慎重に扱われていたと思います。

まあアプリなのでなるべくバランスを取る必要があるというのは大前提にしろ、すごく丁寧に言語化されていました。

トランセンドが抱える想いは、私も長い期間で考えたこともあるものでした。

震災で軽く影響があった、知人が亡くなった、仕事や学校に影響があった程度のおそらく一番多かった層の人は、語るわけにもいかないまま過ごした日々があったと思っています。ウマ娘のトランセンドもその一人でした。

彼女が抱える悩みはすごく自然で、とても想像にたやすく、まあウマ娘なので最終的に前向きになって走るんだろうという安心感があっても「わかる」「それな」「これマジ」と大学生語を思い出すような共感で読ませてきました。

さて、ウマ娘において実はここまで人間であるプレイヤーと近い共感性を持ったウマ娘というのは珍しいのです。

ウマ娘は人間とは違っていて、それぞれが持つキャラクターにどこまでも純粋で他のあらゆることを無視して突き進むようなキャラクターが多いです。というかほとんどこれ。ここを考えすぎたり語りすぎるとなんだかある種差別的な解釈を語ってしまいそうになるので、公式から何かが出るまでは言語化せずにいったんスルーして、今は「自分が持つキャラクターにどこまでも純粋で他のあらゆることを無視して突き進む特徴がある」ということだけをイメージしてください。

トランセンドはそれを逸脱するストーリーでした。

トランセンドは、震災のシーンで己が持つキャラクター(性格や日課も含めて記号的なモノ)に対しての純粋さを失います。

失ったこと自体にもショックを受けるのはウマ娘ならではだと思いました。人間ではそこまでの人ってあんまりいないですからね。

でも、ここでトランセンドの会話や行動が大きく変わり、魅力が爆発するのです。

トランセンドはとても常識的……少なくとも私なんぞよりはずっと常識的なキャラクターだったのです。

トランセンドにとっての「知り合い」

誰かのためにだとか誰かとつながっているということを強くイメージできているところからくるのかもしれませんが、トランセンドは世界には自分が成さないといけないミッションや友達がいるのはもちろん、知らない人や自分の興味があることに興味がない人がいっぱいいることをとてもきちんと理解しています。

直接言及はされていなかったけど、ウマ娘トランセンドは自分にお金を稼ぐ能力(もしくは自分の周りで発生するお金が世の中に対してどんなもんなのか)を理解していると思うんですよね。

それが復興や人を励ます力だったり、つまみ食い感覚でクラファンを漁って知り合いを増やす行動につながっていたと思うんです。

でもお金稼ぎやメリットを追っているわけではなくって、それがトランセンドがつくる知り合いを「人脈」という言葉とは印象が程遠い「知り合い」として見えていたように感じます。

ここ、トランセンドが本当に素敵だなと思った一個目のポイントなんですよね。

トランセンドが持つ常識について

トランセンドは知り合いのところで災害が起こったあと、世間が「かわいそう」程度の感情で気軽に募金して、あとは作中の文化祭のようなお祭りを楽しむ姿に疑問を感じたりします。

ネットの声もきになっていたようです。災害が発生して、「かわいそう」と勝手にいってあとは気にしない人々の姿と、自分の知り合いの姿が重なってしまってそういう感情を持ったんだと思うんです。

もちろん令和を生きる日本人は何度も災害を経験して「自粛」などの言葉に対する向き合い方がだいぶ言語化され、共感による疲弊のことについても知見が溜まっている状態だと思います。

これが身に着いたのって、SNSが発達した状態で起こった2011年の震災からだと思うんですよね。

トランセンドの物語は、そのころの「自粛や募金、ボランティアとどのように向き合って、自分が何かできそうな場合にどんなことを目指して動く選択肢があるのか考えて、そのうえで違う選択肢をとった人も蔑ろにあまりしない」という流れを高速で追体験するようなものでした。

大前提として私はあまり常識という言葉が好きではないですし、基本的には逆張りが好きなのですが、トランセンドの物語で語られていたことはおおむねバランスがいい捉え方と、影響力が出せる人の動きとして賛同を得られることが多そうなことをしていきます。とてもバランスを取りながらですよ。しかも自分の心も大切にしつつ。

これは、今の時代に我々が無意識の内に持っている常識だと思うんです。

さて、先述の通り、自分の性質や夢中になれることをさしおいて、社会を考えることができていたウマ娘って意外といないのです。

トランセンドのおちゃらけた会話や、友達としての感じやかっこよさがかわいいポイントだとしたら、このウマ娘があまり持っていない常識力みたいなところはトランセンドというキャラクターのすごく特徴的なところだと思ったのです。

要するに、優しい判断ができるだけではなく、優しいとは何か、考えて行動できる君が好き。そんな感じです。

尺の都合などもあるのかもですが、最後は気持ちよくウマ娘として

トランセンドはあまり女の子をめでるタイプのアプリでは考えたくないこととたくさん向き合います。

しかも、「かわいそう」と思って募金だけする人を見て悲しむヒロインのラブコメ調です。SNSで何かを語ったり言及したりしたら炎上しそうだし、なんなら見たくないような内容の言葉が山のように並んでいます。

それでも最後は自分ができることで、ウマ娘らしくゴールを目指すトランセンド。その姿がめちゃくちゃかっこいいんですよね。

ここまでストーリーを読むと序盤に感じた「かっこよさ」とは別ベクトルの情熱と優しさによる「人としてのかっこよさ」が際立ってきます。尊敬しますって感じです。

同じストーリーの中で、最初から優しさと前向きさで走り続けていたスマートファルコンももちろんかっこいいですし、最初から気持ちよかったので魅力的に見えるのはもしかしたらスマートファルコンなのかもしれません。

二人を比べたときにどっちを主人公に据えるかといったらまあスマートファルコンかなってなるのが今の時代でもその通りだと思います。

ですが、トランセンドは災害について悩んで言葉も結果も振るわなかった時間があることが素敵なのです。哲学者のヘーゲルが言うところの、「契機」を得ているというやつです。

決意を新たに固めたトランセンドはとにかくかっこよかった。

まあ現実だったら批判のコメントも山のようにくるような子なのですが、ウマ娘は明るい系のアプリケーションなのでその辺はとても気持ちよく読み切ることができます。

読了感も、先ほど述べたような契機があるのでちょっとした小説を読んでいるかのような気分になります。カミュの『ペスト』のようにどんよりもしておらず、それでいて読者に向き合い方を提示してくれているような、そんな文章としてもすてきなストーリーでした。

トランセンド……すてきだ。好きだ……

というところで今回は終わろうと思います。

最後に、蛇足ではありますが、トランセンドがかわいいと思ったトレーナーはぜひ、トランセンドの育成セリフは短縮せずに一度読んで欲しいです。

短縮して概要をかいつまむと、本当に印象が違います。

生きるためになるべく頑張ります